第3話 S組①
つんつんされて気がついた。私の後ろに人がいたってことを。
車椅子に乗っていて、澄んだ目をしている子どもだ。
年齢は私と同じぐらいだと思う。
「私はか
「お前。俺と初対面じゃないだろう。一応」
ごめんなさい。覚えていないんだよね。
「俺は
「ごめんね。いつから会ってなかったっけ?後…通学路でこの辺通る人少ないからビビっちゃった。この辺りに住んでるの?」
「最後にちゃんと会ったのは幼稚園生の時だから…六年ぶりだな。俺は、先週この辺に引っ越してきたんだ」
「どうして?」
「前住んでた場所からは、特別支援学校が片道四十五分で遠くて通うの大変だったんだ。ここは片道十五分だから、近くて通いやすい」
まさかここで会うとは思ってなかった。幼稚園にいた時は、いつも違うクラスだったから、ほとんど顔も覚えていない。
あ、そうだ。誉なら少し分かるかもしれないから聞いてみよ。
「誉ってS組に入ってるよね」
「ああ。それがどうかしたか?」
誉はS組ってどんな感じ?とかいう質問が来るんだと思ったのだろう。でも私が知りたいことはそれじゃない。
「
私は誉が乗っている車椅子を押しながら、答えを待っている。
「知ってるよ」
声が弾んでいた。どうしてだろう。詳しく聞いてみようっと。
「どんな子なの?」
「そりゃ明るくて、元気で、一緒にいるととても楽しい子だよ。俺に色々な物をくれるんだ。絵や、折り紙ね」
あれ?私が思っていた優太君のイメージと全然違う。
「優太君って、…落ち着きがなきて暴れまくる子じゃないの?」
「それは彼の悪い所だ。今は彼のいい所を言っただけだよ」
誉はどこか分からない場所を見ながらつぶやいた。
「ここは校門のまえだぞ。入らないのかよ」
あ。ここは私の通う北校の前だ。早すぎて、誰も来ていない門の中に私と誉は入った。え〜。先生の車も数台しか来てないよ。
早く来すぎたかな。
「望未が俺の車椅子グイグイ押すからだよ」
「確かに。私は歩くの速い方だからね。いつも他の人に合わせてゆっくり歩いてるの」
「歩けるのっていうのも楽じゃないな」
そう言うと誉は私がいない方向にぐるっと回転した。
「表の生徒玄関には車椅子用のスロープが無いから、俺はいつも裏口から入るんだ。じゃあな」
「また昼休みにね」
片手を振って去って行く誉はにこにこしている。
優太君って悪い子じゃないんだよね。誉の話的に。
「そうなんだね。優太がそういう風に思われてるなんて初めて知ったよ」
一時間目の前の休み時間。私は茉奈に今朝誉が言っていたことを話している。香もまあびっくりしていた。
「誉君ってS組に通ってるんだね。車椅子に乗っていること以外は皆と同じなのに。どうしてかな…」
「分かんない」
言われてみれば。誉は足が不自由なだけだもんね。
それなのに…。特別扱いされてるのか。
「優太が学校でも暴れてるんじゃなくて良かった」
茉奈がほっとしている顔を見て、私も少しほっとした。
「じゃあ、昼休みに誉君に会いに行こうよ。茉奈ちゃんは少し眠くても我慢してね。これはいい機会だよ」
「うん」
もうちょっと色々話そうとしたにに、授業開始を告げるチャイムの音で、私達は話すのを中止しなくちゃならなかった。
一時間目の国語は先生に話をぼんやりと聞くだけで終わった。
二時間目の理科の時。ぼーっとしていて寝かけていた茉奈がいきなり自ら起きた。隣の
茉奈の目線は窓の外。
私の席は一番窓側の端だから、窓の外がよく見える。で、見てみた。
S組の生徒達が花壇の手入れをしている。
その生徒の中に、優太君がいた。楽しそうに雑草を抜いている。それをを見つめる誉。ちょうど誉と私の目が合った。
誉は私の方を見てにこっと笑った。愛らしい笑顔で。
たぶん、私が今授業中なのに授業を受けていないことに気がついたのかな。私に方を一瞬じろっと見た後、再び優太君の手伝いをしだした。
「ああいう所もあるんだね」
そうつぶやくと茉奈は嬉しそうだった。
「茉奈さん。教科書の読むページ分かってますか?」
嬉しそうだったけど、教科書の音読の順番が回って来たことには気がつかなかったみたい。
という訳で。給食が終わって昼休み。
私と茉奈と香の三人はS組に入ろうとしていた。が、三人とも入る勇気が無くて、ドアの隙間からS組を覗いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます