7.二人でお祝い

アバドンの神殿から出た僕達二人は、魔石とドロップ品を換金するため冒険者ギルドへと向かった。


受付カウンターまで行って、僕とリズは腰のポーチから魔石を取り出し、それぞれを受け皿と籠に乗せる。


そして床に置いた背嚢からドロップ品を取り出して、大きな籠の中へ入れた。



それを見た受付嬢のエリンさんがニコニコと微笑む。



エリンさんはアリアさんの後輩のギルド職員だ。


リズのパーティを組んだことで、エリンさんが僕達二人の担当となったのだ。



「アリア先輩から話しは聞いていたけど、ホントに二人でパーティを組んだのね。リズさんもノアさんも、ソロでアバドンに潜っていたから心配だったんだけど、これで安心ね」


「今日なんて二人で四階層へ行ったんですよ」


「ノアくん、アレは直ったの?」



以前に僕の担当をアリアさんが受け持っていたので、後輩であるエリンさんとも顔見知りだ。


僕が冒険者登録したばかりの頃、面倒臭がり屋のアリアさんの代わりに、エリンさんが色々と教えてくれた。


そのこともあってエリンさんは僕のハズレスキルの『狂戦士』のことを知っている。



どう説明しようか悩んでいると、隣にいるリズが目をキラキラと輝かせる。



「実はノア、『狂戦士』を自分で扱えるようになってきてるんですよ」


「まだ上手く扱えてないから。ちょっとキッカケを掴んだだけだから」


「それはよかったわね。これで階層を深く潜っていけるわね。もしダンジョン内のことでわからないことがあったら何でも聞いてね。担当者としてできるだけの応援はするから」



そう言って、エリンさんはニコニコと微笑む。



この笑顔に惹かれている冒険者が多いんだよな。



僕とリズはエリンさんに魔石とドロップ品を換金してもらい、冒険者ギルドを後にした。



僕の案内で、二人で大通りを歩いて、繁華街地区へと進んでいく。


そして一軒の酒場の前で僕は看板を指差した。



「ここが僕のお勧めのお店だよ」


「えっと……酒場のようですけど?」


「ここは酒場だけど、食事もできて、どの料理も絶品なんだ」



酒場の名前は「楽々亭」。


この酒場の店主は引退した冒険者で、僕の両親の知り合いなのだ。



その料理の腕前は絶品で、多くの冒険者が集まってくる。



店の中に入った僕達はカウンターに近いテーブル席に座った。


しばらく待っていると、メイド服を着たクレアが注文を取りにくる。


そして僕とリズを見て、ちょっと不思議そうな表情をした。



「女の子と一緒だなんて初めてね。 彼女とはどういう関係なの?」


「別に……何でもいいじゃないか……」


「ノアさんとパーティを組んでいるリズです。よろしくお願いします」


「今までソロでアバドンに潜っていたノアがパーティを……へえー」



なぜだかクレアは疑うような眼差しを僕に向けてくる。


クレアは店主の娘で、幼少の頃からの僕の数少ない友達の一人だ。



いつも気さくな彼女なのに、なんだか態度が変だな?



少しの間、黙っていると、クレアは大きく息を吐いて肩を竦めた。



「まあ、いいわ。今日は何を食べるの?」


「クレアのお勧めを二つ頼むよ」


「わかったわ。今度、暇な時にリズについて教えてよね」



そう言い残してクレアはスタスタと厨房へと消えていった。


僕はアバドンから戻ってきて、宿で食事を取らない時は、だいたいはこの店で食事を取っている。


そのため最近では、自分ではメニューを選ばず、クレアが勧めてくれた料理を食べることにしてるんだ。


店主の娘なだけあって、クレアが選ぶ料理はどれも絶品だからね。


それにしてもリズのことを聞かせろと言われても、彼女とはパーティを組んだばかりだし、個人的なことについては、ほとんど何も知らないんだよな。



……なぜリズのことを知りたがるんだろう……



「お二人は仲がいいんですね」


「そうかな……長馴染みのようなもんだから」


「私ももっとノアさんと仲良くなれるように頑張ります」



仲よくなるのに、頑張る必要はないと思うんだけど……



リズと他愛もない話しをしていると、クレアがワゴンに料理を乗せて運んできた。



「今日の料理はチキンの丸焼き、山菜のスープ、シーザーサラダ。それとエール酒ね」



テーブルの上に二人分の料理がドンドンと置かれていく。



いつもエール酒なんて飲んでないのに、なぜ持ってきたんだろう?



エール酒を見て疑問に思っていると、クレアがニッコリと笑う。



「これは私からのお祝いよ。パーティを組めてよかったわね。エリン、ノアはちょっと抜けたところがあるから、よろしくお願いね」


「はい。お願いされました」



クレアとエリンの二人は微笑み合っている。


なんだかわからないけど、仲よくなってくれてよかったよ。



「かんぱーい!」


「私達のパーティが躍進しますように!」



僕とリズはエール酒で乾杯して、料理を食べる。


リズは料理が気に入ったらしく、ニコニコしながら肉や野菜を頬張っている。


三杯目のエール酒を飲んでいる時、急にリズの動きが止まった。


「#$%&#$%&!?」


意味不明な言葉を発して、リズが突然にテーブルに突っ伏す。


いきなりのことに驚いて顔を覗くと、スヤスヤと寝息を立てていた。



こんなに酒が弱いんだったら飲ますんじゃなかったよ。



クレアがやってきて「これどうするの?」と僕に聞く。



リズが泊まっている宿もわからないし、どうすればいいんだろうか?

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ハズレスキルを持つ僕は、臆病者と疎まれていたけど、《狂戦士》の能力が覚醒したので世界最大ダンジョンの覇者を目指します!! 潮ノ海月 @uminokazuki

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