第5話 オヴィラプトル
これはさして古い話ではない。ちょうど私が大学時分の話だから十年そこらの話だ。生まれ育ったG 県から進学の関係でO 府に移り住んだ。最初こそ心細い思いをした。朝起きて目に入った天井が、実家の天井とは全く違う物だったのがいたく孤独を感じさせた。それでも大学に通うにつれて交友関係が広がるものだから、孤独も少しずつ薄れてくる。初日の朝、心にずんと迫ってきた新居の天井に安心感を覚えるようになった。誰にも気をつかわない時間も案外悪くないかもしれない。そう思いながらのらりくらりと一年二年と過ごした。実家からの仕送りで生活の不自由は感じなかった。
ところが二年が過ぎた頃、生活が段々と窮屈に感じるようになってきた。理由は単純で、交友関係が広がるにつれて、段々と外に出る機会が増えて、必然的に金が出ていく機会が増えたためである。また、この頃の友人が私にパチンコを教えたのも悪かった。付き合いで何度か同行するうちに自分も打つようになり、気が付くと一人で延々と打っていた。親に仕送りの追加を申し出たが、後は自分で何とかしなさいとの返事を賜ったため、何とかアルバイトを探そうという心持ちになった。しばらく探してみたが、友人の紹介でラブホテルで働くということで落ち着いた。20 時から0 時までの勤務で22時からは深夜給ということもあり、そこそこの足しになった。
私の働いていたホテルというのがO 府の市内にあるM 区のホテルであった。駅から歩いて十分ほどの距離であったが、自宅からは自転車で五分かからないほどであった。
仕事は常に忙しいものだった。というのも歓楽街のほど近くであったため、酒を飲んだ後の男女の利用がとにかく多かった。事が終わってお客がチェックアウトしたすぐ後は煙草と酒の匂いが混じった嫌な匂いが充満していたものだ。
事を終えた後の散らかった部屋に入ると、まずは塵を捨てて、使い終わったタオルやシーツをまとめて業者に引き渡すための袋に詰める。減ったアメニティを補充して、風呂を清掃し、
シーツを張って一部屋売りに出すことが出来る。この作業を三人ほどで行う。私以外は随
分と高齢な人が多かった。掃除をしているのは自分以外は全員高齢者ということも多かった。
ここで働く人間はとにかく噂話に興じることが多かった。一通り部屋を清掃して休憩室に全員揃って座っていると、女性たちがお菓子と共に噂話を運んでくることがとにかく多かった。フロントの誰某は実は妊娠しているだの、何曜日に来ている誰某は誰某と仲が悪いだとか、誰某はちょっと変わった人だ、だとか、誰も彼も飽きもせずそんな話を続けていた。誰が誰の味方なのか若い私には理解できなかった。ある程度大人になって分かったのは、人間とはだいたいそういうものだ、という事だった。
そこで一年ほど働いた頃の話だ。
いつも通りの時間に出勤し、フロントでタイムカードを押した。いつものようにフロント係のM 氏と二、三世間話をしていた。
「202 号室の話聞いた?」
M氏が思い出したかのように尋ねた。私はその話を知らなかったので、知らないと答え
た。M 氏は頬を緩ませて
「202 号室の人ね、ほら、こういうところって普通男と女で来るじゃん?それが202 の人、子供と来てるんだって。ちょっと変じゃない?絶対訳ありだと思うよ。」
と言った。M 氏の妙な話し癖が気になった。話の内容は特に興味がなかったが、旅行か何かで間違ってここに泊まったのだろうと思った。
「それでね、横にいる子供さ、めちゃくちゃ泣いてたんだって。あとね、出前めっちゃ頼むの。それも定食ね。定食、面倒だから嫌なんだよ。」
私が気の無い返事をするとM 氏は
「あれ人攫いじゃね? たぶん。」
M 氏が一人でうんうんと頷いた。外出していたマネージャーが顔を出したので、急いで上にあがった。
清掃中の部屋に合流すると、話題は202 号室の話で持ちきりだった。
「202 に出前を持っていったけど、細い細い棒切れみたいな人が出てきた。」
「部屋の奥から子供の鳴き声が始終聞こえていた。」
「たぶん202 のお客さんは人攫いで、誰かから逃げているんだ。」
年寄り連中が口々に言い合った。シーツを張り終えて冷蔵庫の中の水を補充すると、部屋の電話鳴った。電話に出るとフロントのM 氏だった。
「二階出前お願いします。」
低いくぐもった声が受話器の向こうから聞こえた。私が返事をすると
「202 ね。犯人の顔よく見ておいてね。」
M 氏の笑いの混じった声が聞こえた。
一通り部屋の掃除が終わっていたので、私は急いでリネン室に向かった。リネン室というと、補充用のアメニティと洗濯済みのシーツが置いてあるこぢんまりした部屋だ。そこにリフトがあって下で作った出前用の食事を上に運んでくる。我々の仕事はそれをリフトから降ろして部屋に運ぶことだ。フロントから清掃中の部屋に電話がかかってきた場合はおよそ出前を運ぶように依頼してくるのがほとんどだ。場合によっては私が清掃を中断して出前に出ると、部屋の作業員が後期高齢者ばかりになるため、ある程度終わらせてから走ることもある。今回は
ほとんどの作業が終わっていたため、そのままのリネン室に向かえたわけだ。
リフトを開けると盆と上に蕎麦が置いてあった。蕎麦から湯気が立ち上っている。盆の隅に202 と書かれたレシートが置かれていた。私は盆を持ち上げるとリネン室の重い扉を押しあけた。202 号室はリネン室のほど近くであった。盆の上の蕎麦をこぼさないように慎重に運んだ。
202 号室のインターホンを押す。しばしの沈黙が場を支配した。段々と薄く廊下を流れている音楽が耳にへばりつくようになった。もう一度インターホンを押す。部屋の奥から子供の鳴き声が聞こえた。が、待てど暮らせど誰かが出てくる気配がない。一度リネン室に引き返してフロントに電話をかけた。
「すみません、202 のお客さん、お出になられないんですよ。」
「あぁ、奴さん、またか。いいよ、フロントからかけてみるわ。」
電話に出たのはM 氏であった。電話を切って沈黙して俯いた。どうしようもない時間が流れる。深いため息をついた。やや持ち上がりつつあった202 号室のお客への興味より、苛立ちが勝った。私はリネン室に据え付けられたモニターを眺めた。老人たちは次の部屋へ向かっている。ゆっくり作業を進めているらしい。放っておくと真面目腐った顔をしてゆっくりと時間を浪費する事があるため、急いで部屋に戻る必要がある。だが、今はどうしようもない。
甲高い音がリネン室に響いた。電話に出るとM 氏からであった。
「今繋がったからもう一回持っていってみて。」
私は低い声で返事すると202 号室に向かった。もう一度インターホンを鳴らす。またも静寂が支配した。毒にも薬にもならない音楽も今はもう聞こえないように感じた。
扉の向こうから強いばたんという音が聞こえた。がちゃがちゃと鍵を開ける音がする。がちゃんと決まりのいい音がすると、ゆっくりと扉が開いた。
扉が開いて女性が顔を出した。普段は食事を届ける際は斜め下を見るようにして、なるべく向こうの顔を見ないようにするものなのだが、その時は顔をあげて女性の顔を見てしまった。部屋の奥から聞こえる子供の悲鳴のような鳴き声、そして目の前の女性の荒々しい息遣い。その状況たるや普通ではない。女性の目を見て後悔した。目の前には頬がこけてやつれ切った髪の長い女性が血走った目でこちらを見つめていた。昔見た鬼の絵に似ていた。服装は頭から爪先まで全身黒いもので塗り固められている。女性は凄まじい目つきでこちらを目詰めていた。
「お待たせしました。」
私の声は震えていた。何かわからない狂気のようなものを感じてしまった。向こうの荒い息の音を聞けば聞くほど、喉が閉まって声が出なくなる。
女性は顔を突き出して私の目と鼻の先まで顔を近づけた。妙な匂いが鼻先をかすめた。
「あの、あの。」
目の前で女性が蚊の鳴くような声で囁いた。
「はい。」
なんとか声を喉の奥から放り出した。女性はじっとこちらを見つめている。枯れ枝のような手が伸びてきて私の腕を掴んだ。
「あの」
「はい」
と、女性が急に手を離して部屋の中に引っ込んだ。出前の蕎麦は依然と私の手元に残ったままだった。エレベーターの開く音がする。振り返ってエレベーターに目をやると、白いコートを着た女性が現れた。
「いらっしゃいませ。」
私の声に女性は笑って会釈した。
正直なところ自分以外の生きた人間の姿を見たことで安堵した。女性一人でこんなところに来るということは、性風俗店から派遣されてきた人なのだろう。女性はきょろきょろと辺りを見回しながら奥の方まで歩いていく。奥の方に目的のものがなかったのだろう。女性はすぐに引き返した。
「どうなさいましたか?」
私が問いかけると、女性は眉間に皺を寄せて努めて困っているかのような顔をした。
「ここに〇〇さんという方が泊まってませんか? ずっと探しているんです。」
「すみません。僕、わからなくて。フロントならわかるかもしれません。」
「わかりました。ありがとうございます。」
満面の笑みで女性が頭を下げた。そしてゆっくりとエレベーターの方まで歩いて行くと、ボタンを押して扉を開き、灯りの中に消えていった。
私は蕎麦を抱えたままリネン室に入った。受話器を持ち上げてフロントに電話をかけた。
「すみません、202 の人、蕎麦を受け取ってくれなかったです。」
「そうみたいですね。カメラで見てましたよ。とりあえず降ろしてもらえますか?」
電話の向こうの声はマネージャーだった。
「あと、さっき誰と話してたんですか?」
「え?」
「さっき蕎麦持って誰かと話してたでしょう?誰と話してたんですか?」
「さっき白いコートの女の人、いましたよ。マネージャー見てたでしょう?」
「いや、何もいなかったですよ。ずっと誰もいない方向いて会釈したり何してるんだろう
と思って。」
「え? 冗談でしょう?」
電話の向こうから、遠巻きにM 氏の怒鳴るような声が聞こえた。
「さっき話してた人ってどんな服装でしたっけ?」
マネージャーの声が少し震えたようになった。
「白いコート着てて」
「あぁ、今フロントに来てるわ。」
電話がゆっくりと切られた。私は恐ろしくなってその場で立ち尽くしていた。が、そのままにしてもおけない。蕎麦をリネン室に置いたまま、私は踊り場に出てゆっくりと階段でフロントまで降りた。薄暗い踊り場に階段を踏みしめる鈍い音が響く。一階に降りると、フロントから明かりが漏れ出していた。フロントに顔を出すとM氏が真っ青な顔で椅子に座っていた。
「M さん、どうしたんですか?」
「お前も見ただろ? あの気色の悪い女。俺もさっき話したぜ。」
「愛想の良い普通の人だったでしょ?何があったんですか?」
「聞くな。俺だって言いたくないんだ。」
「そういえばマネージャーは?」
「クレームだよ。202 が子供の泣き声でうるさいんだと。注意しに行ったよ。」
「さっきの女の人はどこへ行ったんですか?」
「知らん。帰ったんじゃねぇの。とにかく、もうあの女の話はするな。」
M 氏はキッパリと言い放つと俯いたきり動かなくなった。私は監視カメラのモニターに目をやった。マネージャーがエレベーターを降りて202 号室に向かっている。その後ろに白いワンピースの女がいる。
「M さん、あれ」
モニターを指差して叫ぶのを聞いてM 氏が顔を上げた。M 氏がうわぁと呟いてさらに顔を青くした。モニターにはマネージャーが202 号室のインターホンを押して腕を組んで待つ様子と、その後ろで例の女性が手を後ろに組んで立て尽くしている姿が映し出されていた。
しばらく後に202 号室の扉が開くと、凄まじい形相の女が顔を出した。マネージャーがぺこぺこと頭を下げながら女性と何やら話している。女性は無感動な様子でマネージャーの話を聞いていた。例の白い服の女性はそれを満面の笑みで聞いていた。が、しばらくすると二人が話している間を割って部屋の中に入っていった。二人とも気付いていないようだった。マネージャーが何度も頭を下げながら部屋を離れるのが見える。女性はマネージャーが離れたのを確認するとすぐに扉を閉めた。
フロントでマネージャーと合流するとマネージャーがしきりに寒い寒いと繰り返した。
「あの女の人、めちゃくちゃ気持ち悪いですね。クレーム来てますから静かにしてくださ
いって言ったら、警察呼んでください、警察呼んでください、ってずっと言うんですよ。あれ、多分ちょっとおかしい人なんじゃないかな。」
それからしばらくフロントは女の話でもちきりだったが、M 氏の顔色は始終戻ることはなかった。
「そういえば掃除は?」
マネージャーの一言で私は急いで掃除部屋に戻った。年寄りたちが戻りが遅いとしきりに文句を言い続けていたが、下での出来事を話すと
「ああ、多分人攫いや。ちょっとおかしい人や。本物の母親が取り返しに来たんや。」
と口々に言い合った。
「でも、白いコートの人はカメラに映ってなかったんですよ。」
「それはマネージャーの悪戯か何かやろ。ここでお化けが出るのは雨の日だけや。今日みたいな日はでぇへんわ。」
老人たちの元締めのような老婆が声高に宣言した。それから一時間ほど掃除を続けただろうか。下での出来事が頭に残って作業が手につかなかった。段々と全身に怖気が立ってきて、寒気がする。気が付くと身体が震えるほどの寒気に襲われた。
「あんた顔色悪いな。」
老婆の一人が叫ぶ。
「考えすぎや。気にしたらあかん。」
老婆の元締めが続けて叫んだ。甲高い声が頭の中で響いた。その状態で一時間ほど作業を続けた。部屋についているモニターから電子音声で扉が開いたことを告げる。
「202 ドアオープンです。」
その場にいる全員がモニターを凝視した。モニターの202 号室の表示が点滅している。
「出たな。」
老婆の一人が呟いた。これは202 号室のお客が部屋を出て精算しようとしている可能性を
告げいていた。誰も彼もモニターを食い入るように見つめている。表示が精算中に変わった。
「202 作業を開始してください。」
無機質な音声が部屋に放たれた。皆が沈黙した。
「出た。」
不気味な沈黙のなかに老婆の呟きが響いた。私はシーツを張り終えて立ち尽くしていた。
老人たちが身体を揺らしながら清掃用具を持ち上げる。自分は一際重い籠を持ち上げた。中には補充用のアメニティが敷き詰められていた。
部屋にいる全員が移動し始めると、私は老人たちの後ろでゆっくりゆっくりと追いかけた。
エレベーターに乗って移動すると、202 号室はすぐ前にある。元締めの老婆が躊躇なく部屋の戸を開けた。私は後ろからゆっくりと続いた。
先ほどから感じていた寒気がどっと強くなった。エアコンも何も切られているはずなのに冷凍食品の倉庫のような冷気がある。机の上にいくつも食器が重ねられていたが、それ以外は思いの外散らかってはいなかった。風呂場も使った形跡がない。これには風呂担当の老爺も気を良くして様子だった。いつものように塵を集めて一つに寄せる。シーツも使用感がないほど綺麗に収まっていた。とはいえ、シーツに関してはどうあっても張り直す必要がある。私はベットの上で綺麗に貼られていたシーツを引き剥がした。そしてベットの上を見て沈黙した。ベットの上には人攫いといわれていた女性が子供を抱きしめて横たわっていた。老婆たちが悲鳴をあげた。
「寝てる?生きてる?」
老婆の一人が女性を顎で差して言った。誰も確認しようとしないため、私はゆっくりと女性に二、三歩近づいた。が、どうにもおかしなところがあって足を止めた。
「この部屋、精算済んでますよ。じゃあ誰がお金を払ったんですか?」
全員の目が私に向けられた。場が静まり返った。風呂掃除担当の老爺が淡々と風呂場を掃除する音が聞こえる。老婆の一人が顎で女性を指すと、私は恐る恐る女性の肩に手をあてた。真冬の鉄格子のようであった。私は直感的に女性の死を理解した。私の反応を見て老婆たちも同じ様子だった。皆立ち尽くしていた。私は物も言わずに一階のフロントに降りた。一刻一秒も早くこの場から遠ざかりたかった。
「202 号室どうだった?」
私の顔を見るなりマネージャーが尋ねた。M 氏は俯いて座ったきりだった。
「さっき白いコートの女の人が精算して行ったけど、あの親子の姿が見えないんだよね。」
マネージャーが言い終わらぬうちに、M 氏が立ち上がって支離滅裂なことを叫んだ。
フロントの電話が鳴る。マネージャーが電話に出ると見る間に顔が青ざめていった。そして清掃員たちに休憩室で待機するように指示した。マネージャーがゆっくりと受話器を下ろす。
「警察呼んで。」
震える声でマネージャーが呟いた。
翌日、私は事件の詳細をM 氏から聞くことになった。我々はあの親子を人攫いだと口々に言い合っていた。しかし事実は全く異なっていた。例の人攫いは本当の親子だった。ホテルに来た警官曰く、ここ最近警察に何度も相談していたらしい。子供が何者かに狙われていると。警官の話しぶりからまともに取り合っていなかったようであった。母親がしきりに化け物だ、化け物だと、と消えゆく蝋燭の火のような声で言ったそうだ。警官たちの間でも女性のことは狂人だと思われていたようだ。
我々は彼女を人攫いだと断じていたがそうではなかった。
私はM 氏の話を聞いてオヴィラプトルという名の恐竜を思い浮かべた。その名はラテン語で「卵泥棒」という意味である。何故このような不名誉な称号を与えられているのか、それはオヴィラプトルの化石が初めて発見された際、別種の卵を抱きかかえた姿で発見されたからだ。発見当初、その化石は「他人の卵を盗もうとした」瞬間を克明に描写したものだと考えられていた。その決定的瞬間から「卵泥棒」と名付けられた。
しかし、後の研究で卵は同種のオヴィラプトルの化石だと判明した。オヴィラプトルは卵泥棒などではなかった。死してなおも我が子を守ろうと身を削る立派な母親だったのだ。
しかし一度つけられた学名がそう簡単に改名されることはない。この献身的な卵の親は、今もなお卵泥棒の名で親しまれている。
この親子もあと少しで同じであった。
私はM 氏にその話をした。M 氏はじっと私の目を見つめていた。
「なぁ、俺、白いコートの女がフロントに声をかけてきたときに見たんだよ。あの女、俺に⚪︎⚪︎って人知らないかって聞いてきたんだよ。俺が知らないって言うと、あいつ、にやって笑ったんだ。口の中から長い舌が見えたんだけど、舌の先が二つに割れてたんだよ。それが口の端から出てきてちらちらって空気を舐めるんだ。その間もあいつ、じっと俺の目を見てた。深追いすると俺も食われてたかもしれない。お前、あんまりこの話は深追いするなよ。何がきっかけになるか分からないんだからな。」
それからしばらくして、ホテルの廊下を白いコートを着た女が徘徊すると噂になった。実際私も何度か目撃した。目撃といっても視界の端に白い影が見える程度のことである。M氏はほどなくして職を辞した。M 氏が退職した頃から白いコートの女の話はとんと聞かなくなった。
私も事件から少し経ってから辞めた。生活よりも例の女への恐怖が勝った。
今は不動産関連の会社で営業をしている。
ホテルは今も営業を続けている。
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