第013話 ある意味『妖怪ハンター』で間違ってない人。

「新幹線速い! グリーン車いい乗り心地! スゴイカタイアイス食べたい!」


「どうしていきなり幼児化してらっしゃるんでしょうか……固いアイスってス◯ャータのアイスの事ですよね? 残念ながら既に車内販売が終了してますのでたぶん買えませんよ? いえ、駅のホームで売ってるのだったかしら?

 ちなみにうちには、スジ◯ータのミックスジュースの素があります」


「知らんけど」


「あなたはどうして健気にお返事をして会話を膨らまそうとする私を突き放そうとするんですか!

 私、これでも地元では姉小路家歴代一の才媛と呼ばれてたんですよ? 学生時代からモッテモテですよ?

 今でも美しすぎる室長ナンバー1……または2! ……いえ、あの方が本部に入られるなら2~3になっちゃうんですよね……」


 その順位の入れ替わりは一体何なんだよ? もちろん室長さんが美人だとは認めてるんだけどね? 性格も悪くはないし? 歳も近いし?


「でも俺には女子高生リンネちゃんが居るからなぁ。

 室長さんもギリギリお友達としてなら……いや、でも一緒にいるのを友達に噂とかされると恥ずかしいし」


「どうして一緒にいるだけで恥ずかしがる必要があるんでしょうね……」


 てか今日、一緒に昼飯食ってから妙に距離感が近いと言うか馴れ馴れしいというか。



 さて、俺が新幹線に乗っている理由。

 それはもちろん改造異石の売却を了解した上で、その移送を快く引き受けたから。いわゆるアフターケアってヤツだな。もちろん交通費などの経費は全部向こう持ちだけど。

 本部のから異石の買い取りの命令はされてるみたいだから内通者から『敵組織(本当に存在するかどうかから不明)』に室長さんが俺と取引の接触を持つことはバレてると思うんだけどね?

 さすがに当日、今日の今日で飯屋からそのまま新幹線に乗り込んで直接配達するとは思わないだろう。


「護送車は静岡県で襲われた……事故に遭ったんですよね?

 ということは……この車両もそのあたりで同じ様に大爆発する可能性が」


「乗客が炎に包まれる阿鼻叫喚の地獄絵図が瞼の裏に浮かびますので縁起の悪いフラグを立てようとするのは止めてください……」


「まぁ俺はその程度の攻撃ではビクともしませんけどね!」


「ええと、あなたはどうして一人だけ助かろうとしているのですか?

 その時は私もちゃんと助けてくれますよね? 大丈夫ですよね? 信じてますからね?」


「それはまぁ……その時の状況とかありますし。心配しなくても室長さんの骨はちゃんと拾いますので」


「それもう完全に死んでしまってますよね私!?」


 一応移動中の車内ではそれなりに気を張って警戒してたんだけど……走行中の新幹線にロケット砲が打ち込まれることも、某『赤毛のおっぱいの人』みたいに車内でテロリストに襲撃されることもなく――無事に東京駅まで到着。

 もちろん東京なんて、関西人の俺に右も左も分かるはずもなく……いや、右はお箸を持つ方だから分かるけれども! 素直に室長さんの三歩後ろを付いて歩くことに。

 まぁ駅から出てタクシーに乗っただけなんだけどな。


 たぶんここで『チッ、出迎えもなしか……』などといいがかりを付けたら室長さんが面白い反応をしてくれそうだけど、さすがに可哀想なので控えておく。

 そもそも俺達が(というか改造異石が)こちらに向かうことを誰かに知らせてしまえば拙速に動いた行動が水の泡になっちゃうからな。

 現地と言うか本部? とは一切のアポイントを取っていない。


 車に乗り、二十分ほどで到着したのは……昔の銀行のような、大正時代味のある重厚な建造物。


「なんというか、梅田の事務所と比べると千倍くらい立派な建物ですね?」


「あ、あそこはほら、世をしのぶ仮の姿ですので……」


 確か表向きは派遣会社だったっけ?

 室長さんが受付で今回の件の担当者に連絡を入れてもらったところ、即座に高級そうな応接室に通された。

 そして即座に出されるお茶とお茶菓子。


「なんというか、梅田の」


「むぅ! どうせうちの応接室は狭いですよっ! というか事務所の片隅ですよっ! 事務員の練度も低いですよっ! あの子、お茶菓子とか買って来た日に食べちゃうんですよね……」


「いや、知らんけど」


 などとじゃれ合っていると扉が『コンコン』とノックされる。

 『失礼します』と言う声が聞こえたあと室内に入ってきたのは、


「(ちょっと室長さん! なんか高貴! 高貴なお姫様みたいな人が来たんですけど!)」


「(みたいじゃなくて本当に高貴なお姫様ですからね?

 いつもみたいにキツめの下ネタとか止めてくださいね?)」


「(いや、俺女性に下ネタとか振ったこと無いよね?)」


 改造した巫女服のようなドレスを身に纏った二十代前半……いや中盤かな?

 黒髪黒目の美人さん。

 というか何だろう? こう、肌に少しピリっと来るような……精神系の魔法……違うな。じゃあ魔眼? でもないような……。


「ああ! これあれだ! 吸血姫とか夢魔女王が垂れ流してた魅了系のパッシブスキル! ……の廉価版?」


「ひっ!?

 (太郎様! ビックリしますのでいきなり大きな声をお出しにならないでください……)」


「(悪い悪い、少しそちらのお姫様の『能力』が気になったものでつい……ね?)」


 入室してきた巫女服の女性『ミコちゃん(仮)』もビックリした顔をしていたので、腰を降ろしていた高級そうなソファから立ち上がり胸に手を当てて軽く頭を下げる。


「失礼をいたしました。あなたのあまりの美しさについ驚いてしまいまして」


「あら、お上手ですのね? と言いますか、太郎様が驚いたのは美しさではなく私の身に纏う『呪い』のようでしたが。

 しかし……ふっ、ふふっ……廉価版……廉価版ですか……つまりどこかに私の『上位バージョン』が存在して、太郎様はその方がたとお知り合いだと」


「(室長さん! あの人顔と声は楽しそうに笑ってるけど目が完全に座ってるんだけど! ちょっとだけ怖いんだけど!)」


「(あなたが廉価版とか言ったからじゃないですか!

 私はちょっとどころじゃなく、今すぐこの場から逃げ出したいほど怖いんですよっ!)」


 彼女に手で促され、ソファに座り直す俺。そして対面に彼女が腰をおろす。


「本来ならこちらから出向くのがすじでありますのに、遠いところご足労いただきましてありがとうございます。

 そちらの姉小路にお聞きだとは思いますが改めまして自己紹介を。

 中務省で陰陽寮(おんようのつかさ)と召喚寮(めしめすのつかさ)の頭(かみ)を承っております『稗田(ヒエダ)貴子(タカコ)』と申します」


 いや、何も聞いてませんけど?

 俺の隣に腰をおろす室長さんにジト目を向けるとツーッと視線を逸らされる。

 てか俺の知ってる『稗田』さんって妖怪ハンターって呼ばれてる人なんだけど?

 そして陰陽寮は昔観た映画で聞いたことがあるけど、召喚寮って一体何なんだよ……。

 名前のひびきからして『召喚師(サマナー)』を取り仕切ってる部門だってことは何となく分かるけれども。


「ご丁寧にありがとうございます。私は……そうですね、なんと名乗りましょうか」


「ふふっ、もちろん山田太郎様で結構ですよ?

 ああでも、もしも二人が仲良くなれましたら……先程『吸血姫』や『夢魔女王』と呼ばれた方々が太郎様を呼ぶ時のお名前をお教え頂けたらと思います」


 えっ? この人と仲良くなったら『ウォルフガング・サーパンタイア』って名乗らないといけないの俺? ここは日本だし、そこは本名でいいんじゃないかな?

 てか吸血姫とか夢魔女王が実在の人物だと思って……いや、異界なんておかしな場所を管理してる組織のえらいさんだもんな。

 きっと彼女も何らかの『仲間(デモン)』を従えているんだろう。


 ということはさっき感じた魅了の力は彼女の能力じゃなくて従えているデモンの能力なのかな? 自分で『呪い』とか言ってたし。デモン自体も彼女じゃなくお家に付いてる者?

 でも彼女から感じる魅了、悪魔系統のどぎつい肉欲系のモノじゃないんだよな。

 夢魔女王とか本気出したら街一つ分の男のチ◯チンが勃ちっぱなしのバッドボーイになっちゃうし。


 ということは神様……女神系統?

 有名どころだとアプロディテやウェヌス……だとしたら感じる力が弱すぎるか? ならエロスやクピト……んー、近い気はするな。

 でも彼女のお家が歴史ある家系だとしたら、そんな異国の何の繋がりもない神様が守護してくれるか?

 日本で魅了で女神様……。ああ! もしかして、


「……アメノウズメ?」


「……では、早速で申し訳ございませんが、こちらにお持ちいただいた『品物』をお見せ頂いてもよろしいでしょうか?」


 どうしてなのか少しだけ驚いた顔をされたが、その後の取引はつつがなく終了した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る