第012話 魔王、ダメっ子お姉さんと取引をする!

 特別指名手配犯を捕縛連行した報奨金として『一千万円』のお金を入手した俺。

 もちろん現金でポンと手渡されたわけじゃないからな?

 てか、『山田太郎』名義のキャッシュカード付きの通帳を渡されたんだけど……一応政府の機関を名乗ってる組織が貯金通帳の偽造とかしても大丈夫なのだろうか? もちろんこちらとしてはありがたいしかないんだけどさ。

 タンス預金(机の引き出し預金)してるのを、部屋に掃除に来た義母とか部屋を荒らしに来た義妹に見つかったらえらいことになっちゃうからな。出どころ不明の大金を自分の口座に入金するわけにもいかないしさ。何よりも税金が……ゲフンゲフン。


 まぁそんな感じでちょっとした小金持ちになった俺。

 薄幸系少女と運動部系少女、二人の女子高生を連れてプールでキャッキャウフフ。

 前世でどれほどの善行を……いや、前世じゃなく今世、異世界で善行を積んで来たんだった。

 『魔王が世界征服する事が善行になる異世界とは一体何なんだろう?』と、遠くを見つめる俺。

 リンネたん、プールで俺と彼女の友人である『信貴(シギ)美空(ミソラ)』ちゃんが軽く接触するだけで闇落ちした招き猫みたいな顔をしてたのがとても印象深い。と言うか怖かった。


 でもほら、そんなリピドーが暴走しそうなイベントがあったとしても相手は女子高生(素人女性)。そのまま欲望に身を任せると色々な不具合が発生しちゃうじゃん? そして幸いなことに俺の手元には泡銭があるわけじゃん?


「よし、今日は一日! 金銭で疑似恋愛出来るお店で豪遊しよう!」


 と、なるのは必然ではないだろうか? むしろ既に移動中なんだけどな!

 電車の中で早速『天国の街』と名乗るサイトでお店と嬢を探索。

 車内が空いてるからいいようなものの、おもいきり目を血走らせたオッサンが、


「制服系……制服系……てかこのパネル、絶対に加工だろ?

 『真実の瞳』……チッ、偽装を見抜く魔法でもパネマジは見抜けないと言うのか!?

 あっ、こういう時は日記とかエッキシで彼女の写真をチェック……ダメだ、こっちも空間魔法並の加工がされてて後ろの時空が歪んでるっ!」


 などと一人ブツブツ呟く姿はどこから見ても立派な不審者なわけで。

 通りすがりの誰かに通報されてもとても文句は言えない完全なる変質者なのだが、風俗店に向かうオッサンなんて全員こんなもの(暴論)なので気にしたら負である。


「どうしよう、情報が多ければ多いほど迷うんだけど……もう、ここは初心にかえり、『高い店なら大丈夫だろ? 知らんけど』の精神でお店を選んじゃうか?

 たぶんそれが一番問題無さそう……てか誰だ! 俺がお相手してもらうお姉ちゃん、むしろ妹ちゃんを選んでる大事な時に電話なんてしてくる非常識な人間は! チッ、スザクか……こいつの普段着は制服……そしてそれなりに可愛い……ここはプロよりも素人……ダメだ! 冷静になれ! パネマジは無いけどこいつが一番の地雷だ!」


 電車の中なので通話ボタンを押して一言だけ告げる俺。


「チェンジが出来ないならキャンセルでお願いします」


『えっ? いきなり何ですか!? 私、なにかしましたか!?』


 ……スザクじゃなくて室長さんだったわ。


「まぁそれでもチェンジですけどね!

 ……じゃなくてですね、電車の中なので下車してから折り返しますね?」


『わ、わかりました……チェンジ……私、チェンジなんですね……』


 ごめんよ室長。今日の『俺の口(意味深)』は制服の似合う若い子なんだ。

 取引先(?)の偉い人に対して社会人として失格すぎる態度の俺であった。



 場所は変わり、ここはホテル最上階にある高級中華レストラン。もちろん体の一部分が元気になるような薬膳料理を出すお店ではなく普通に食事をするお店である。

 いや、電車から降りて電話を折り返したらさ、『太郎様がお持ちの、キンジョウを捕まえた異界で入手した異石をお譲り頂けませんでしょうか? 詳しくは直接お会いしてからのご相談ということで』って話でさ。

 室長さんもお昼がまだだって言うから中華をリクエストしたら思ってたのと違う中華に連れてこられた。

 俺的には『by蘭(あんかけ焼きそば屋さん)』が食べたかっただけなんだけどね?


「今日は室長さんと二人だけなんですね?」


「はい、さすがに何度も続けて所員に贅沢をさせると本部からお叱りを受けてしまいますので。

 どうも、室長……と自分でいうのもオカシイですね。本日太郎様に二度もチェンジされた姉小路です」


「お、おう……なんかごめんなさい?」


 本日ももちろん個室。『商談があるのでお料理はまとめて持ってきてください』と頼んだのでコース料理ではあるが調理完了次第続々とテーブルの上に並べられてゆく。


「あっ、こちらで勝手に同じものを注文してしまいましたがお嫌いな食材などは無かったでしょうか?」


「基本ヌルヌルしたものと生臭いもの以外は大丈夫ですよ?」


「それはもしかして私のデリケートな部分(ゾーン)のお話をされてるのでしょうか?」


「まったく違いますけどね?

 逆に聞きますけど友人でもない女性にそんなド下ネタを振るような男だと思われてるんですか俺?

 というか自分で言っておいて顔を真赤にして恥ずかしがる……あれ? もしかしてちょっと泣いてます!?」


「だ、だって……チェンジ……二回もチェンジって言われました……そのうえ陰部が臭そうって……」


「言ってない! そんなこと言ってない! いえ、チェンジは言いましたけれども! それ以外は室長さんの被害妄想ですから!」


 何なの? スザクといいこの人といい秘密組織はどこかおかしな人しか務まらないの?

 とりあえず並んでるお料理にアワビの姿煮とかもあるから! 食欲が減退するから陰部の話は止めよ?

 あと昼間からフカヒレとか完全に神々の遊びだと思いました。


 そこから『どうせ私なんて……ヌルヌルのいきおくれなんですよ……』などと、ぶつぶつとつぶやきながら内にこもる室長さんをなだめすかすこと一時間。


「出来る女な外見に反してめんどくさいぞこいつ……」


「何ですか!? いきおくれはすぐにデキるとかちょっと酷いと思うんですけど!?

 あと私の(ピー)は臭くないですよっ!!」


「個室だとは言え真っ昼間の飯屋さんで卑猥な事を叫ぶんじゃない。

 てかさっきから気になってたんですけど室長さんが飲んでるのってウーロン茶じゃなくて紹興酒ですよね?」


「いやれすれー、これはたらのじゃすみんてーにきまってるららいれるらー」


「後半何いってんだかまったくわかんねぇよ……

 とりあえず食い終わったんで先に帰ってもいいですかね?」


「えっ? 帰る……つまりお持ち帰り……ってことですか?

 大丈夫です、そんなこともあろうかとお食事の予約と一緒にお部屋をリザーブしてありますので」


「酔ってるのか酔ってないのか、あんたの設定どうなってんだよ……

 あとお部屋は今すぐにキャンセルしていいです。

 そしてこれ以上お話が無いなら本当に帰りますよ?」


 それでなくとも今日の目的はアレでソレなお店探しだったからな?

 もしもその部屋に入ってしまったら外見だけは綺麗なお姉さんなこの人と何が起こるかわからないのだ。

 そう、たとえ相手の年齢が高くとも! 出来る時はヤッちゃう人間、それが魔王なのである!


「申し訳ございません。あまりにもショックな出来事が続けざまにありましたので少しだけ取り乱しておりました。

 あと、慰めるならもっと真剣に慰めてもらえませんでしょうか?

 食事の片手間に、おざなりに扱われるとか……ちょっと初めての経験でドキドキしてしまいました」


「なんかごめん……ってドキドキしてたのかよ!」


 美味しいごはんと室長さんの濃い人間性に二つの意味でもうお腹いっぱいなんだけど……。

 といことでこれまでの無駄な時間は一体なんだったのか? と思うほどに取引の話は簡単に進む。


「なるほど……あいつ、護送中に暗殺されたんですか。

 まぁ更生するような人間ではなかったから問題は無さそうですが。

 しかし二億とは。世界的にもケチ……財布の紐が固いと言われる日本のお役所がよくそれだけの金額を出しましたね?

 普通の六面体異石は一千万なんですよね?」


「ハッキリとした証拠などは見つかっていませんが、十中八九暗殺で間違いないかと。あと、どの様な人間でも死ねば問題になるのですが……。

 そうですね、本部と大喧嘩して得た結果ですので、もっと私のことを褒めていただいても結構なんですよ?

 ……まぁその金額でも安いくらいなんですけどね……オークションに掛ければもっと高値が付くという話でしたし」


「さすがに闇のオークションとか犯罪臭が強すぎるんで遠慮したいですね。

 それに、そこまで頑張ってくれた室長さんにこれ以上我を押し付けるほど不義理な人間ではないですよ?」


「太郎様……ありがとうございます。

 それでですね、快くご承諾頂いた太郎様にこのようなお願いをするのは心苦しいのですが……」


 お願い……ねぇ? てか、取引きを了承したあとのお願いだから値引き交渉では無いだろうし? 考えられることなんて、


「ああ、もしかしてここ――お伺いしたことのある事務所で『品物』をお渡しするのではなく、どこかに届けて欲しいとかですか?」


「どうしておわかりに……?」


「いや、どうしても何も。

 世間には知られていない、むしろ隠されているであろう護送されている人間が暗殺されたって言うなら……その犯人は間違いなくそいつの所属している組織で、そいつらに内通、連絡した人間も存在するってことじゃないですか?」


 もしかしたらこの人も『どこかの紐付き』なんてことも考えられなくもないしな。

 ……もしかして俺のことも暗殺しようとしてる?


「そう……ですね。内部の恥を晒すようでお恥ずかしいですが、我々もそう確信しております。

 それに、太郎様は何やら不思議な『魔法』も使われるみたいですから。

 手品師のように何も無いところから品物を出し入れする事が出来ると聞き及んでおります」


「なるほど。……いや、なるほどじゃないな。

 別にその程度のことは他のサマナー、デバイス所持者なら出来るでしょう?

 品物を召喚デバイスに取り込めば良いだけですし」


「ええと……何か勘違いされてらっしゃるみたいですが……デビル召喚デバイスは異界の外では異界の探知以外の機能はほとんど使用できないと聞いておりますが。

 あと、デバイスで管理されるモノは『デモンの個体』と『デモンを倒した時に得られるモノ』だけですので異石は取り込むことが出来ません」


 えっ? そうなの? うちのスマホ、普通に外でも飛んだり跳ねたり喋ったりするんだけど……そしてスマホ野郎が異石にあまり興味を示さないのは体内に取り込めないからか。

 じゃあみんな異界の中で使う武器なんかはどうやって持ち歩いて……そういえばスザクって丸腰だったよな。そもそもサマナーは肉弾戦はしないとか不合理なこと言ってた気もするし。


 いや、どうしてそうなるんだよ! ポケモ◯トレーナーじゃあるまいし、もっと生き汚く抗えよ! 棍棒とか警棒とか! メリケンサックでもいいから持ち歩いて殴りかかれよ!

 そしてそんな異石……ポケットに入るサイズではない大きさの品物なのに抱えるわけでもなく手ぶらでウロウロしてりゃそれをしまっておける魔法が使えると思われてても当然か。その後にスザクが報告もしてるだろうしな。

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