第010話 魔王、道◯坂69が何なのかとても気になる!

 室長さんから報奨金の受け渡しとランチのお誘いのため、御堂筋線のヨドヤバシカメラ側出口で待ち合わせしていた俺。

 どんな偶然なのか、そこに地下鉄でやってきた『リンネたんと愉快な仲間たち』と遭遇。

 ……スマホに知らない間に位置情報監視アプリとか仕掛けられてないよね? いや、もし仕掛けられてたとしてもおそらく犯人はヨウコだと思うんだけどさ。

 そして、リンネたんから見れば『彼女の誘いを断っておいて他の女と会っている浮気男』みたいな状況だけど……普通にお仕事の話だからね?


「えーっと、そうだね。こちらの三名は俺の仕事相手というか取引相手……でいいのかな?」


「えっ? お兄さん……無職なのにお仕事相手とかいるんですか?」


 それでなくとも腕に若い子をぶら下げてるオッサンってことで多少の注目が集まってるのに『その(無職)発言』はどうかと思うんだけど!?


「リンネちゃん、君のお友達から冬の北海道のような冷たい視線を感じるから無職をバラすのは止めようね?

 いや、俺の無職はほら、悪い無職じゃないから! 定職に付いていないと言う意味だけの無職だから!」


「逆に、定職に付いていない以外の意味での無職ってあるんでしょうか……

 まぁそれはいいです。ならそのお仕事相手に、どうして女子高生が混ざってるんですか?

 もしかしてそのお取引と言うのはあの方の肉体的な」


「リンネちゃん、君のお友達から厳冬のシベリアのような凍てつく波動を感じるからそれ以上は口に出しちゃいけない。

 まずあの人は女子高生じゃなく女子校生、つまり成人女性なんだ。そしてあの格好も制服ではなく……いや、制服ではあるんだけどただの趣味なんだ。

 てかこいつ、本当に普段から制服姿で出歩いてたのかよ……まぁいい……いや、良くないんだった!

 ほら、スザクさん! リンネちゃんの誤解をちゃんと解いて! 身分証! さっさと身分証を提示して!」


 うん、女子高生的には自分を放っておいて、まさか他の女子高生と会ってたなんてプライドが許さないもんね?

 だから一番の攻撃対象がスザクになるのは仕方がないけれども……そいつ、ただのおかしなヤツってだけだから!

 

「な、何ですかいきなり……人には偽名を使っておきながら自分は私の全てが知りたいとかとんだ束縛系彼氏なんです……いえ、なんでもないです、ちゃんと見せますからその威圧するアレは止めてくだしあ!」


「お兄さん、友達の家でハロウィンパーティをしてるわけじゃないんですから、いくらなんでも大人の人が趣味で、それもこんな人のたくさんいるところで制服を着てるなんてことが……本当ですね、確かに年齢が二十二歳になってます。

 これは一体どういうこと……ああ、なるほど。つまりあの方たちはそういうお店の方だったと。

 あちらのお姉さんも普段は無理すんなBBAな衣装でお店に出ていると。

 つまりお兄さんは大切な彼女とのデートを断って夜のお店の女と同伴予定だったと」


 室長、とんだ流れ弾に「わ、私はそのような格好はいたしませんが……」と、小さな声で言い訳しながら涙目である。


「だからまったく違うからね? えっと……なんだ……ああ! ほら!

 お母さんの病気のアレやコレやの時、リンネちゃんにはちゃんと説明してあったよね?」


「えっ? ええと……確かお兄さんが『CIA』と『ICPO』と『MI6』と『KGB』と『モサド』に追われているというアレでしょうか?」


「いつの間にか追いかけてくる相手が増えてるんだけど!? そっちじゃなくてほら、せいや……」


 冷静に考えるんだ俺……そんな、他所の国の組織に追われてる人間がここで『製薬会社』云々の話をしだしたら……それもう完全に『危ない薬』の話になっちゃうよな!? あとゆるふわ事務員が『セイヤ……つまり彼は聖闘士(セイント)……』とか言ってるけど全員でスルー。

 いや、そもそもそんな荒唐無稽な話、誰も信じない……うん、リンネちゃんの友人は確かに信じていない。むしろ俺を見る目が完全に詐欺師を見るそれである。

 しかし、もう片方の集団、特殊事象課の三人はと言えば――目を見開き、口元を引きつらせて――これもう完全に『あっ、こいつヤベェ奴だ』って顔してるよな!?


 馬鹿なの? この人たちは馬鹿なの? もっと常識的に考えて? そんな国家的な組織に指名手配されてるような人間がこんな身近に居るはずが……そういえば俺、数日前に(自国だけど)国家的な指名手配犯捕まえたわー……。

 たぶんだけどこの人たちからは『偽名を名乗らなければいけない不審人物。国籍不明で(異界限定だけど)所構わず暴れまわってる暴力装置』みたいに思われてるだろうからな。話半分くらいは信じてしまっても仕方ないっちゃ仕方ない……のか?

 そしてなんか立ち止まってこっち見てる通行人が『何? ドラマかなんかの撮影なの?』とか言ってるこの状況……どうすればいいのかな?


「リンネちゃん、お腹すいてない? 今からあの人達との商談があってさ! よかったら一緒にお昼ご飯とかどうかな? もちろんそっちのお友達も一緒で大丈夫だよ! ……ですよね?」


「も、もちろんご一緒して頂いて構いません!」


「ふふっ、お兄さんとランチデートですね?

 あっ、あちらの人達とは別に友達じゃないので気にしていただかなくとも大丈夫です」


「リンネちゃん!? うちは友達だよね!?」


 よくわからないけど友達ではなかったらしい。



 とっととお金を受け取って昼飯を食って帰る……そんなふうに気楽に考えてたことが俺にもありました。

 なんだよこの多人数は。リンネちゃんはくっついたまま離れようとしないし。

 食事場所は当初から予定されていたらしい、『ラキュアOSAKA』内にある某高級焼肉店の個室。

 お仕事チームと高校生チームに別れて……リンネちゃんはこっちにくる? もちろん迷惑とかじゃないよ? うん、大丈夫……。


 てかランチのくせに値段高ぇな!? ペラい肉が十枚も無いセットでウン千円とかどうなってんだよ! 俺は肉食いに来てるんだよ! ナムルもキムチもサラダもスープもいらねぇんだよ! 文句があるなら最初から単品で注文しろ? 確かに。

 どうせなら向こうにある『ケンダマ』で腹いっぱい串カツの方が……さすがにあそこでは落ち着いて話とか出来ないから仕方ないけどさ。

 注文していたドリンクが机に並べられるとともに、室長さんが話をきりだす。


「ええと、太郎様。その……そちらのお嬢さんがいらっしゃる前でお話をしてもよろしいのでしょうか?」


「そう……ですね。リンネちゃん、たぶん信じられないような話が出ると思うけど聞きたい?」


「もちろんです! お兄さんのことなら毎日のトイレの時間だって知りたいですから!」


 最近リンネたんの様子がちょっとオカシイ……いや、この子最初からこんな感じだったしブレてないだけだったわ。


「お、おう……それは教えないけどね? そもそもトイレで時間を計ったこともないし。

 もしもここで聞いたことを誰かに話したら、目の前で座る怖いお姉さんに命を狙われるかもしれないような内容なんだけど……それでも聞きたいのかな?」


「はい! 婚約者……いえ、許嫁としてお兄さんをこれから支えていかないといけませんので!」


 わざわざ言いなおしたけど婚約者と許嫁ってどう違うのん?

 いや、そうじゃなくてだな! 婚約とかしてないからね? そもそも交際してるかどうかも微妙だからね?

 もちろんリンネたんが彼女とか何の文句もないので否定はしないけどな!


「ドン引きです……まさか『女子高生(本職)』に手を出してたとか……ドン引きですよ太郎さん……

 そこはあれじゃないですか? 合法ロリならぬ合法女子校生の私にしておくべきではないですか?

 ほら、私って見た通りドル売りしてるじゃないですか? 坂道系じゃないですか?」


「何ですかあなた? お兄さんは若い子が好きなんですよ? 二十二歳のオバサンなんて箸にも棒にもかかるはずがないじゃないですか? 坂道系アイドルですって? ああ、確かに! 道◯坂69に居そうな感じですよね!」


 本職って何だよ本職って……その件(制服コスプレ)に関してオカシイのはお前だけなんだよ!

 リンネたんは十七歳だし親御さんの反対も無いから非合法ではないんだよ!

 俺は別に若い子が好きってわけでもない……ごめん、自分に嘘はつけねぇや……俺、若い子好きだわ……もちろん十代後半以上だけどな! 大丈夫! スザクとゆるふわ事務員さんも全然行けちゃうよ! うん? ヨウコ? 義妹はほら、アンタッチャブルな領域だからさ……。室長さん? 今回は御縁がなかったということで。

 そして道玄◯69ってなんぞ? なんとなく数字がいかがわしさをかもしだしてるんだけど?



 ちなみにリンネたんへの説明は、


・俺は正義の味方(野良サマナー)で、悪の組織(盗撮犯が組織立って活動してた……かもしれない)と戦っている!

・悪の組織の幹部(キンジョウみたいな奴)を捕らえたり、秘密基地(異界だな)を破壊するとボーナスが出る!

・だから(室長から渡された通帳を見せながら)お金のことは何も心配しなくて大丈夫だよ!


 の三本立てでお送りしました。



 うん、嘘はついていないけど本当のことも言ってないな。

 だってほら、全部説明するとなると『異世界ガー』って話になるじゃん?

 まぁそのうち、彼女と本当に交際を始めることになったら……ってことでさ。

 ちなみにごはんの後はリンネたんのご希望で彼女……たちの水着を買いに行くことに。

 そうなんだ、男友達を追い返した彼女の友人(シギさん)も何故か付いてきたんだ。


 本人曰く「そんなん、いきなり見ず知らずの人間が四人も増えたのに何の迷いもなく高級焼肉店で接待を受けられる男の人やよ? ちょっと玉蹴りが上手いだけの子供とは比べようもないやん? とりあえず連絡先の交換からはじめよ?」ということらしい。いや、どういうことだよ……。

 スザクも「私も! 私も女子校生なのでそのお買い物に参加する権利があるはずです!」とか騒いでたけど……室長さんに後頭部を強打され、涙目になって帰っていった。


―・―・―・―・―


ちなみにルクアの叙◯苑の個室は個室を期待して行くと『これ個室か?』となるので注意! ソースはグーグルの画像検索(笑)

作品内のイメージは某元お笑いタレントさんのお店の個室(エガちゃんの動画とかで見れるお部屋)でお願いしますm(_ _)m

ルクアの叙◯苑、何度かはランチで入ろうと近くまで行ったんだけど……気がつけばダ◯マで串カツ食ってるんだよなぁ……。

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