第009話 魔王、女子高生の行動力に慄く!
おかしな異界で妙な女子校生(※高生ではない)が襲われている場面に遭遇。
襲っていた奴が一部界隈では有名なシリアルキラーだったらしく、彼女と契約した俺はそいつの身柄を取り押さえる。
異界――おそらくその犯罪者が用意した人工異界――を制圧というか異石を回収して脱出後、犯罪者の護送のためなんちゃって女子校生が所属する組織『特殊事象課』の支部に案内される。
組織の説明を色々と受けたのだが……要するに『ダンジョン(異界)攻略専門のギルド』みたいなモノだと勝手に理解した。
支部長……じゃなくて、室長さんはずいぶんとその組織に所属してほしそうにしてたけど……手に入れたアイテムを売れる以外にこれといったメリットが無さそうだったのでとりあえずは保留。
一応はちゃんとした『日本国の管理する秘密組織』らしいけど、良いように便利使いされるのも気分が悪いしな!
俺と同年代の室長さん、なかなかのやり手に見えたしさ。
ああいう『出来る女』って感じの女性は嫌いじゃないんだけどね? 深く関わると尻の毛まで抜かれそうだから。
てか『ちゃんとした秘密組織』っていろいろとオカシイよな。
そんなこんなで、特殊事象課の事務所で二時間ほど拘束された結果、本日の成果は午前中に入った異界一ヶ所だけ、それも何の成果(金銭)も得られないままでその日は帰宅することに。
仕事(趣味?)の邪魔をされて気分はブリブリザエモンだろうと思われてそうだが……そうでもなかったりする。
いや、むしろホクホクニコニコベェだったりする。
それはどうしてなのか? もちろん、
「いやぁ、まさかあの程度の賞金首……じゃなくて、指名手配犯の懸賞金が三千万円とか日本どうなってんだよ。
あんなの異世界だったら高くても金貨十枚(百万円くらい?)程度の雑魚だぞ?」
連れ帰った変態野郎が高く売れたからである! 三千万円! 三千万円ですよ奥さん! まさにエキゾチックジャペン!!
まぁ事務手数料で三割手数料に取られた上にけったいな女子校生と折半だから俺の手元に残るのは一千五十万円なんだけどな。
それでも一千万だよ? 普通に生活するなら三年くらいは食っていける金額だよ?
それプラス『お車代とお食事代』として二万円のお小遣い(?)も貰えたし!
とりあえず状態異常空腹のデバフを受けてるので、『KIK』で棒ヒレカツ定食エビフライ追加で腹を満たしたあと、(自分への)お土産に『モナケン』でワッフルを大量に買って帰宅した。……ワッフルは義母と義妹に八割食われた。
そして翌日。二万円程度のはした金では頑張ってもひと月程度しか暮らせないのでいつも通りの異界巡りを再開。実家暮らし最高!
三日後には『報奨金のご用意が出来ました』と、あの時助けた女の子(……女の『子』?)スザクカズミから連絡が入った。
てかこいつ、毎日毎日リンネたんと同じくらいの頻度で連絡して来てやがるんだけどな? ちなみに一番メールも着信も多いのは妹(ヨウコ)である。
いや、ヨウコからのメールはほとんどが一言くらいの文章と昼ご飯とか会社で食べるおやつの写真とかだからいいんだけどね? スザクとかリンネたんのは結構キワドイ、肌色の多い写真が添付されてたりしてさ……。もちろん嬉しいしか無いので注意などはしない。
こちらから急かしていたこともあり、お金が貰えるのに取りに行かないなどという判断はもちろん無いので早速返信、翌日のお昼に梅田まで出向くことに。『せっかくですしランチでもご一緒にいかがでしょう?』と誘われたのでこちらも快く了承する。
そして了承の返事をしちゃったところでリンネたんから『新しい水着が欲しいのですが、お兄さんに選んで頂けたらと思いまして! よろしければ明日、お買い物に付き合ってもらえませんか?』とメールが届くというタイミングの悪さよ……。
お金、それとも女子高生の水着姿……いや、買いに行くってだけで水着を着ている姿を見れるわけでは無いだろうけれども! でもほら、試着室のカーテン越しにワンチャン……。
血涙を流しそうになりながらも『明日は外せない用事があるから……ごめんね?』と返信しておいた。
【もしかして……ライバル出現?】
私の名前は音羽凛音、十七歳の高校生です。
病気だった母のこともあり、本当なら一学期いっぱいで高校を自主退学して働いているはずだったんですけど……。
とあるお兄さんとのドラマティックな、そう、デスティニーな出会いがあり、こうしていまも女子高生を名乗ることが出来ているのです!
今日もそんなお兄さんと楽しいお買い物――お兄さん好みの水着を選んでいただくはずだったのに……残念ながら用事があるとのお返事。
もう! お兄さん、夏休み中に一度はプールに連れて行ってくださるという約束は覚えてますよね!?
仕方がないので、少し前に『せっかく夏休みなんだし一緒に遊びに行こうよ!』とお誘いのあった信貴(シギ)さんにお返事をして待ち合わせ。
「……ええと、他の方がいらっしゃるとは聞いていませんでしたが」
「あー、ゴメンゴメン! ほら、今日は買い物って言ってたからさ! 荷物持ちがいてくれたほうが便利かなーなんて? ついでにナンパ避けにも使えるし?」
「おう! 五十キロまでなら任せろ! って、荷物持ちじゃねぇよ!」
「ひ、久しぶりだな! おばさん、大変らしいけど……思ったより元気そうで良かったよ」
そこに居たのは信貴さんとその彼氏……ではないのかな? 男友達の三輪(ミワ)君と……生駒(イコマ)君。
二人とも運動部に所属していて、サッカー部でワイルドな雰囲気のミワ君とバスケ部で王子様タイプのイコマ君。
年下、同学年、年上、そして他校の女子生徒からも人気のあるらしい二人。
私があまり社交的ではないことが大きいんだけど、正直あまり得意ではないタイプの二人だ。
まさかの男子登場にテンションダダ下がりの私……でも、さすがにそれをストレートに表に出さないくらいの常識はあるんだからね?
電車に乗って目的地……今日はお買い物予定なので、ミナミではなくキタに向かう四人組。
とりあえず電車の中で大きな声で騒ぐのとか止めてもらえないかな? 私まで仲間だと思われたくないんだけど……。
あと。やたらとこちらをチラチラ見てくるイコマ君の視線がとても気持ち悪い。
お兄さんにならいくら見られても、手を繋いだり、抱き寄せらてもそんなことまったく思わなかった、むしろ嬉しかったくらいなのに。
地上の暑さと電車内の温度差も相まって立ち眩みおこしそう……。
「オトワ、ふらついてるみたいだけど大丈夫か? よ、良かったら腕に捕まっても」
「いいえ、いらないです。お気遣いありがとうございます」
「そ、そうか……」
キモチワルイキモチワルイキモチワルイ……。
この人たちってリア充なのよね? それなら私の張り付いたような笑顔を見て、ただただ合わせてるだけの会話を聞いて少しは察してくれればいいのに。
電車から降り、階段を上がって改札に向かう私達。
「うわ、何あれ!? むっちゃ綺麗な三人連れのお姉さんがいるんだけど!?」
「ミワ……隣にこんなに可愛い女子高生を連れてんのに他の女に目が行くってそれどうなんよ?」
「言うほどか? お、俺はその、オトワの方が……」
改札の向こうで姿勢良く立っていたのは、やたらと色気のあるセーラー服姿の女の人とゆるふわっとした大人しそうな女の人とニュースキャスターか政治家のような知的な雰囲気の女性と、
「はっ?」
「ど、どしたん? いきなり地獄の底から響いてきたような低い声だして……ちょっと怖いんだけど……ってどこ行くの!?」
……私のよく知る……いえ、まだまだよくは知らないけど……何から何まで知りたいと思っている男性。
つまり、
「お兄さん! お兄さんじゃないですか!」
「ん? へっ? リンネちゃん? どうして……ああ、お友達……と、買い物かな?」
私の声に驚いたのか、ビックリ顔でこちらを向いたお兄さん。ふふっ、その表情、とっても可愛いと……あれ? どうして私を見て少し顔を曇らせ……
「違います! お友達は女の子だけで、あとはお友達のお友達ですっ!」
もしかしたら男友達とお出かけしていたと勘違いさせてしまったでしょうか?
ということは、先程顔を曇らせたのはヤキモチ……。
慌てて改札をくぐり抜け、お兄さんの左腕に飛びつく私。うん、とっても落ち着くいい匂いがする……。
「えっと、友達と一緒なんだよね? いや、そうじゃなくて……
女の子がいきなり腕に飛びついてくるのはどうかと思うんだけど?
あと、夏場に人の体をクンクンするのもどうかと思うんだけど?
なんなの? リンネちゃんはうちの妹なの?」
「はい! 私はお兄さんの妹で娘で恋人ですので!」
「まさかのリンネちゃんラ◯ァ説……
とりあえずここは公共の場所、それもとんでもなく人通りの多い場所だって分かってるかな?」
そう、私はお兄さんのすべての女なのだ。
「ですので……私の誘いを断ってまでお兄さんが会っていたそちらにいる女の人たちのこと……ちゃんと説明してもらえますよね?」
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