第007話 魔王、『特殊事象課』の室長と接触する。

 久しぶりの愛犬との感動の再会を楽しんで……いや、今はマル(タロウマル)と遊んでる場合じゃないんだった。

 だって『うちの子の一吠え』で無力化された極悪人が二匹も転がってるからさ。

 しかしこいつら、ゲーム序盤で出てくる中ボスどころかチュートリアルボスみたいな雑魚キャラだったな。

 得意げに人殺しを自白しておいて殴るまでもなく勝手に泡吹いて倒れるとか、一体どういう了見なんだよ……。


「てことで契約が完了しちゃったんだけど……その二匹はどうする?」


「えっ? あれ? 何もしてないのに、どうしてキンジョウとワードックは倒れているのでしょうか?

 そう……ですね、とりあえずキンジョウの方は何かで縛っておいて頂けたらありがたいです!

 事務所に引き渡せば報奨金がもらえま……ええと、取り分は六対四……七対三……八対二……ワガママはいいませんので一割だけでも頂けないでしょうか?

 あと。デモンの方は……私の仲間に倒させていただくなんて……駄目ですか?」


 ウルウルお目々でお願いしてくる半裸ちゃん。

 リンネたんと比べてもそのルックスに遜色はないハズなのに……心にグッとくるものが無いのは何故なのだろう?


「へっ? こんな雑魚に報奨金とか出るんだ? そうだな分前は……半々でいいよ?

 もしも俺一人だったら生かしておくことも捕まえることもなく消し飛ばしてたし?

 指名手配されてることすらしらなかったし、そもそも換金先がわからないし。

 おまけの変態犬に関してはまったく興味が無いからそっちで好きにしてくれて大丈夫だよ。

 ああ、こういう現場の後処理とかまったく解らないんだけど……もし必要な事があるなら指示してもらえればありがたい」


「大丈夫です! 異界主を退治するか異石を回収しちゃえば異界は消えちゃいますから、証拠隠滅は完璧ですので!」


「いや、俺が聞いたのは隠す方じゃなくて保全とか報告の話なんだけどね?」


 とりあえず逃げられないように、キンジョウを(本人の)着ていた服を脱がせて引き千切りグルグル巻きにしておいた。

 てか女子高生の呼び出した仲間のワンコ……おもいっきり怪我してるじゃん……。


「拾い物だけどこれ(マキ◯ン)、使ってあげて?」


「何から何までお手数お掛けして申し訳ありません……」


 ちなみに小さいワンコ、怪我が治った途端に倒れているワードックの首に噛みつき、


「まさかの回◯地獄(自分の体をドリルのように回転させて喉笛を食いちぎる技)だとっ!?」


 魔法とか使うのかと思ったら肉弾戦だったという。体は小さいけどパワータイプのワンコらしい。

 てかこれまでは異界でデモンを倒したら必ず魔石がドロップしてたのに……ワードックからは魔石が出なかったのはどうしてなんだぜ?


「と言うかですね……先程からずっと気になってたんですけど……その、浮かんでいるスマホのような物体は何なんでしょうか?

 浮かんでるだけじゃなく、先程は意思の疎通……会話もしていましたよね?

 もしかして付喪神系統のデモンなのでしょうか?」


「えっと、ただのデモン召喚デバイスだけど?

 半裸ちゃん改めマント一枚ちゃんもワンコを呼び出す時に使ってたと思うんだけど……何かオカシイのかな?」


「それ、どちらにしても露出狂ですよね!?

 えっと、私のデバイスは……と言いますか、私の知ってるサマナーのデバイスはどれ一台として飛びも喋りもしないんですけど……」


 そうなの!? こいつしか知らなかったからこれがデフォかと思ってたわ!


「こいつ……やはりモノノケ、むしろシモノケの類だったか」


『違うけどね!? あー、たぶんだけどそれは『一緒にいるバディ』の能力と言うか、魔力が低いからじゃないかな?

 スマホでも充電量が少ないと省電力モードになっちゃうでしょ?

 というか他の連中はまともに活動出来てないんだ……もしかしてボク、キミと出会えてもの凄い幸運だった?』


「ふっ、とうとうそれに気づかれてしまったか。

 これからは俺に感謝して機能のアップグレードとか割引して?」


『ふふっ、感謝の気持ちだけ込めてこれからも現金販売&定価販売です!』


「えっと、その機能のアップグレードとは一体……?」


 わざわざ説明するのも面倒なのでスルー。


「さて、いつまでもこんな儲からない異界でダラダラしてても時間の無駄だし、異界主を探しに……と思ったんだけど。

 さっきまで間接照明みたいにオレンジ色に光ってたその『六面体』、変な装飾で飾り立てられてるし俺の知ってる色じゃないけど……たぶん異石だよな?」


「そう……ですね。確かに見た目はそんな感じですけど……どうなんでしょう?」


 ヒョイッと掴み上げ、インベントリに回収してみるテスト。


「えっ? 異石が消えたんですけど!? あっ、異界の気配が……」


「雑魚どころかボスまで出てこないとかふざけすぎだろこの異界!」




 ということでここは梅田のとある雑居ビルの一室である。

 ああ、もちろんマルは異界から出たすぐお家に送り返してあるからな?

 さすがにあの大きさのワンコが地球上で闊歩していたら大パニックになることくらいは理解してるのだ。


 同行者――ここに来るまでに車の中で自己紹介しあった『雛雀(スザク)花純(カズミ)』の隣に腰を降ろし、お向かいに座る同年代のくらいのキツそうな顔をした美人さんと微笑み合う俺。

 てかスザクなんだけどさ。異界で見つけた時は制服姿だったじゃん? 引き裂かれてボロボロになってたけど。

 だから女子高生だと思ってたんだけど……女子校生だった。二十二歳だった。本人の趣味で制服着てただけだった。

 ちょっと意味がわからないんだけど……他人の趣味嗜好に口出しするのも野暮なので「お、おう」とだけ返事しておいた。


「本日はこちらのわがままで遠いところご足労いただき誠にありがとうございます。

 私(わたくし)、『特殊事象課』の『関西方面管理室』で室長をしております『姉小路(アネコウジ)彩芽(アヤメ)』と申します。

 ご存知のように大っぴらには活動出来ない組織ですので、名刺の肩書は派遣会社の部長ということになっておりますが」


 まったくご存知ではないけど……異界なんていう普通の人間は入れない場所をどうこうする組織みたいだしな。大々的に発表出来るようなモノではないのだろう。

 座っていた椅子から立ち上がり、綺麗なお辞儀をしたあと自己紹介、名刺をこちらに差し出すお姉さん。


「ご丁寧にどうも。申し訳有りませんが名刺を切らしておりまして……今のところフリーで活動しております山田太郎と申します」


「なんですかそのこれ以上ないほど偽名臭のするお名前は……」


「えっ……山田太郎さんって偽名だったんですか!?」


 どうやらスザクは気づいていなかったらしい。目の前のお姉さんが呆れ顔、可哀想な子を見る目で彼女をジロリと見つめて溜息をつく。


「お名前のことは置いておくとして……。

 早速ではございますが、当事務所所属のスザクの救出だけではなく特別指名手配犯であるキンジョウの捕縛にもご協力いただいたようですね。

 もちろんそれだけではなく、ここ最近の大阪での異界の攻略のご活躍。治安維持のご協力も非常に感謝しております」


「今日のことに関しましてはたまたまそこに居合わせただけですので感謝されても面映いのですけどね。

 はて、最近の異界攻略……ですか? 一体何のことを仰ってらっしゃるのか」


 最近の云々はおそらくブラフだろうな。もしも誰かに見られてたとしたら絶対に気付くし。

 別に認めてもこれといった問題は無いんだけど、何となく相手の手のひらの上で転がされるのは悔しいしなぁ。

 しっかりと目を見つめ合い「うふふ」「あはは」と笑い合う。……思い切り殺気を飛ばしながら。


「……太郎様を探るような物言いをいたしましたこと心より謝罪申し上げます。

 組織といたしましても、わたくし個人といたしましても、太郎様と敵対するような意思は一切ございませんので……どうぞそちらだけはご理解いただきたく。

 ええと、不躾な質問になってしまいますが太郎様は特殊事象課のことはどの程度ご存知なのでしょうか?

 もしご興味ありまして、お時間ございましたらご説明させていただきたいのですが……いかがでしょう?」


「とりあえず様を付けて呼ばれるような間柄でもありませんので普通に呼んでいただいて結構ですよ? そもそも偽名ですし」


「偽名認めちゃうんですか!? というか人のお尻を揉みしだいておいて名前も教えてくれないってどういうことなのでしょうか! 二人は恋人じゃなかったんですか!?」


「三揉みしただけだからね? 揉みしだいてはいないし恋人でもないからね? あくまでも正当な報酬だからね? そもそも人聞きが悪すぎるからちょっと黙ってようね?」


 ほら、目の前のお姉さんの俺を見る目が、俺が下半身丸出しワードックを見るときと同じ目になっちゃってるから!

 そして特別ナンタラの事をどの程度ご存知とか聞かれても、何一つご存知ありませんが?

 これ、相手の話を聞いただけで何か厄介事に巻き込まれるパターンとかじゃないよね?

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