第005話 魔王、異界で『女子高生らしきもの+α』と遭遇する!
真っ直ぐ伸びる通路。出てこない魔物。暗いトンネルを歩くこと半時間。
「……俺の小遣い稼ぎ舐めてんのか!?」
『いきなり意味のわからないキレ方するの止めて?』
だって意味もなく歩いてるだけなんだぞ!? 電波も飛んでないから暇つぶしのスマホも繋がらないし!!
いや、もしもスマホが繋がっててもフヨフヨ飛んでるから何も出来ないんだけどさ。
あまりの退屈さに、そろそろ何らかの大規模破壊魔法でもぶちかましてやろうかと考えだしたころ……
「……うん? 何だこれ……またいつもとは違う感覚が三体?
一体はデモンだと思うんだけど、残りの二体は人か?」
『ボク、まだ何も感じられないんだけど……キミの探索力は一体どうなってるのさ?
おそらくだけど、デモンの感覚が違うのは人間の仲間になってる個体だからじゃないかな?』
「なるほど、そうなのか。……いや、本当にそうなのかこれ?
あんまり質の良い魔力じゃない気がするんだけど? 片方の人間はかなり精神が弱ってるみたいだし。
んー……異界なんて怪しい場所に入ってるような人間にろくな奴はいないだろうしこのまま放っておいてもいいんだけどな。
でも、なんとなく俺のゴーストが女の子が居ると囁くんだよなぁ」
『物凄いブーメラン投げるねキミ。
あとそんな遠くにいる相手の性別が分かるとかすこぶる気持ちが悪いんだけど?』
スマホ野郎が何か言っているが敢えてスルー。
どう考えても自己責任な空間に入っている時点で特に助けてやる必要も無さそうだが……もしかしたら迷子かもしれないからな。
曲がり角も無い真っ直ぐな直線道路、少しだけ急いで……百メートル五秒くらいのスピードで駆け抜けることしばし。
人工的に見える灯りに照らされ現れた人影――人型の生き物は予想通りに三体。
「嫌ぁっ!止めてっ! もう許して……誰か……誰か助けてよ……」
「グル……グルルルッ!」
「ふっ……ふふっ……いいですよぉ……とてもいい表情ですよぉ……
さぁ! もっと、もっと抵抗してください! ぐふっ……ふふふっ」
何この……何?
「制服を引き裂かれ、大量の肌色部分を露出した叡智な女子高生。
その彼女に襲いかかろうとするピンク色のチ○チンを丸出しにした……コボルト?
そして気持ち悪い顔をしながらカメラを回す盗撮犯?」
風雲急を告げるカオスなエロゲ展開に一般人の俺氏、興奮するどころかドン引きである。
「……人が楽しんでいる現場にいきなり駆け込んでくるとはなんとも無粋な人ですねぇ。
まったく、呼びもしていないのに勝手に人の家に入り込んでくる方の多いことで。
もっとも女性ならこうして色々と楽しめますし、愛好の士に動画を公開するだけでお金まで稼げるので大歓迎するのですがね。
残念ながら男性の方はよほど面白く死んでくださらないとあまり評価していただけないのですよ……」
なにやらぶつぶつと文句をつぶやく変質者。
えっ? 異界って誰かの家だったの? というか、愛好の士ってなんなの?
ヒョロガリの理系オタク系変質者にしか見えないんだけど……もしかしてF○2系動画投稿者とかなの?
でも男は殺すみたいな発言してたよね?
異世界でなら『山賊だ殺せ!』で済む状況なんだけど……異界でも日本国憲法って適応されるのかな?
「ちなみにそっちの女子高生、そこにいるコボルトまたはオッサンが君の彼氏でそういうプレイを楽しんでいるとかではないんだよね?」
「ちっ、違いますよっ!!
そこにいるのは最近スナッフ動画を裏の動画サイトに流している、指名手配されているキンジョウと言う男です!
それに、このデモンはコボルトなんて下級の魔物ではなくワードッグ、それも戦闘に特化したウォー・ワードッグの変異体です!」
「何その呼びにくい名前……見た感じ変異体じゃなくただの変態なんだけど。
そもそもウォーでもウワーでも二足歩行の犬っころに変わりないんだからどっちだっていいだろ」
出会い頭ではかなり弱っているように見えたけど……思ったよりも元気みたいで一安心。
そしてデモンはワードッグ……ウェアドッグとも呼ばれる犬男らしい。
異世界では狼男の廉価版みたいな扱いをされていた亜人だな。
「てかワードッグって亜人じゃなくて魔物扱いなんだ?」
『キミ、そういう疑問は他人じゃなくてバディであるボクに聞くべきじゃないかな?』
「亜人って、ゲームじゃないんですからそんな種族が居るはず無いじゃないですか……
というか異界に入れるってことはあなたもデモンサマナーなんですよね!?
この状況で何を呑気なことを言ってるんですか!?
あなた、私が今どういう状態かわかってますか!?
私が殺されたら次はあなたがあのデモンに襲われる番なんですからね!?」
「さすがに可愛くないワンコと自分がくんずほぐれつするのは勘弁して欲しいんだけど。
でもそのワンコのお相手が女子高生ならまた話は少しだけ変わってくる……のか?
ちょっとこのままここで見学とかしててもいいかな?」
あの程度の犬っころが千匹万匹集まって飛びかかって来たところで怪我をすることなんてないしねぇ?
もしも俺を本気にさせたかったらケルベロスとかフェンリルをダース単位で連れてこいってんだよ。そいつらまとめてもっふもふにしてやるから。大型犬にうもれるのって最高だよな!
「人間のクズですかあなたは!? ……ですからそうじゃなくてですね!
うう……助けが来たのかと思ってちょっとだけ希望を持っちゃったじゃないですか……
それなのに、それなのに仲間を連れてすらいない初心者とかどうなってるんですか……
いいですか!? この状況で腰も抜かさないで冗談が言えるのは大したものですけれどもっ!!
アレはあなたのような何も知らない初心者が相手にできるようなザコザコデモンじゃないんですよっ!!
私は……私はもう諦めますから! あなただけでもここから逃げてください!
私にはもう……コマちゃんを呼び出す魔力も走って逃げる体力も残ってないんです!
……もうこれ以上……抵抗する気力すらないんですよ……」
ボロボロになった自分のことを気にもとめず、ふざけた態度の俺に早く逃げろと促す少女。
小さな声で『この人が逃げればこいつらがそれを追いかけて私が助かる可能性もワンチャン……』とか言ってる気がするけど、半分くらいは俺を逃がそうとしてくれていると信じたいところである。
さて、俺の目の前には全身に怪我をした善良(かもしれない)少女と盗撮犯と変態犬。
「お嬢さん、とりあえずちょっとぶっかけさせてもらうね?
お代は……セクシィな太ももの見物賃と相殺でいいや」
「えっ? 一体何を言って……
というかその瓶はどこから出したんですか!?
……わぷっ!?」
彼女の身体にポーションをブッ掛けたついでに上から魔王マントをかぶせておく。
「もう! 急になにをするんですかっ!?
というか瓶に続いてこんな高そうなコート……じゃなくてマント? なんてどこから出したんですか!? 何なんです? もしかして手品師の方なんです?
あれ……体の痛みが……怪我が……えっ? えっ?」
「そうだな、魔法……マジックが使えるって一点では手品師と言えなくもないかな?
もちろん魔法だから種も仕掛けも無いんだけどな?」
驚き顔で自分の体――怪我をしていた場所を手のひらでペタペタと確認する女の子。
初めて回復魔法を受けた村娘のようなその姿は実に理想的な反応である。
「……さて、そこな娘よ」
「えっ? いきなり何なんですかその変な喋り方は?
なんかもう色々と混乱しちゃっててこれは夢なんじゃないかと思い始めたんですけど……
あなた、そこにいる連続殺人者(シリアルキラー)と犬の化け物は見えてるんですよね?
呑気に小芝居してる余裕なんてまったくない状況なんですよ?」
「まぁまぁ、話は最後まで聞きなさいなお嬢さん」
『ボクの話を全く聞かないキミがそれを言っちゃうんだ?
人のふり見て我がふり直して欲しいんだけどね?』
せっかく魔王ムーブで話しかけたのに変とか言うの止めろや。
まぁそこそこ使い古された親父のスーツを着ている今の俺の姿では滑稽でしか無いんだけどさ。
でもほら、そこは一応魔王としての矜持というかお約束と言うか……な?
あとスマホは煩いから黙れ。
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