第003話 魔王、初めての機能ランクアップ!

 リンネたんのお家――音羽家の事が落ち着いたので今月のこりはのんびり……しようかとも思ったんだけど、のんびりするための住環境を整えるにも先立つものが必要なわけで。かねがねかねがねぇ……。

 自室でポテチやピザを食いながら、コーラやサイダーを飲みながら快適にインターネッツをしようと思ったらそれなりの先行投資が必要なのだ。

 どうせならちょっといいゲーミングPCとか欲しいじゃないですか? 主目的はゲームではなくエロだとしてもっ!


 もちろん音羽家に来月渡す分と、そのうち実家に入れるための纏まった現金も必要だし。

 つまり、これからも毎日馬車馬のように『ひとりぼっちで異界攻略』をしないといけないわけである。

 異界、効率の良い探し方は見つけたけど、それでも毎日数ヶ所探し当てようとしたらそれなりに苦労するんだよな。


「てことで! 盗んだバイクで走り回る……のではなく、拾った魔石で『異界感知』機能のレベルアップ? がしたいんだけど?

 必要な魔石の数って確か二千個だったよな?」


 十位階の異界で一度に入手できる魔石の数(おおよそ四十個)を見て、『二千個も貯めようとしたら何ヶ月必要なんだよ!』なんて最初は思ってたんだけど……第八位階以上の異界からは魔石の入手数がグンと上がった(第五位階一ヶ所だけで千九百個近く手に入った)こともあり、現在の魔石所持数は二千九百二十六個もあるからさ。

 

『そうだよー! 今からしちゃう? 初めての機能拡張しちゃう?』


「おう! なんとなく聞かれ方だいかがわしいが……よろしく頼むわ!」


 ……特に音がなるわけでもスマホに何らかの変化が起こるわけでもなく『出来たよー』と気の抜けた一言だけでアップデートが完了した。


『おめでとう! これで異界感知の性能が半径三十メートルから『半径百メートル』に上がったよ!』


「おお! いきなり三倍! ……と言っても百メートルかよ! そんなの地球の大きさから鑑みればほぼ誤差じゃねぇかよ!

 その程度伸びただけだと今まで通り、微量な魔力を自分で探さないといけないことに何も変わらないじゃん!

 アレ、一日中探すとなるとそこそこ気づかれするんだからな?」


『これだから素直に褒めることのできない意固地なオッサンは……

 そもそもその『魔力を探す』なんてことが出来るのがオカシイんだよっ! みんな汗水たらして歩き回ってるんだよっ!

 なんなのさ? キミは地球の磁力から場所を特定する渡り鳥なの?

 頭から何かしらの電波でも出してるの? 人力レーダーなの? 虫なの? アルミホイル被せてやろうか!』


「お、おう、なんかゴメンね?」


 俺の知らない間にどこかでストレスでも溜めてきてるのかこいつ?

 てか。本当ならもっと詳細な『広範囲探知魔法』を使えばもっと楽ちんなんだけど……俺って戦闘特化タイプなんだよね。

 こんな時に魔王軍四天王の第五席『鷹の目・テルクシエ(エロ系お姉さんのハルピュイア、下半身は人型で綺麗好き)』が居てくれればものすげぇ便利だったんだけどな。



 そんな変化があったかどうか微妙すぎるスマホのアップデートの話はさておき、毎日の日課である異界探索である。

 とは言っても、大阪城にあった『第五位階』ほどの強さの場所がそうそう見つかるわけもなく。


「てか、第五どころか第六とか第七ですら見つからないんだけど?

 むしろそのほとんどが第十位階の異界なんだけど?」


『第十位階でも毎日三ヶ所も回ればそれなりの収入になってるからいいじゃん』


「確かにその通りなんだけどさ……

 でもほら、攻略に必要な時間がそんなに変わらないなら少しでも実入りの良いところを見つけたいじゃん! 楽して稼ぎたいじゃん!」


『普通の人は第十位階でもそれほど楽は出来ないと気づいて?』


「まるで俺が特異な人みたいに言うの止めろや。

 ……てかさ、その言い方だとまるで他にも異界を攻略して回ってる人間が居るみたいに聞こえるんだけど?」


『うん? そりゃ居るに決まってるじゃないか。

 もっとも、キミみたいに焼け野原(皆殺し)にしていくような人はそうそうには居ないけどね?』


 居たんだ他の人!?


「いやでも、これまでに二十ヶ所以上の異界を回ってるけど誰とも出会ったことなんて無いぞ?」


『それはキミの攻略速度が早すぎるからだよ!

 いいかい? 普通のサマナーは第十位階でも一日がかりで探索するんだよ?

 第九位階以上なら数名でチームを組んで、数日掛かりなんてこともあるんだよ?』


「なにそれ。普通のサマナー貧弱すぎだろ。もっと筋肉を鍛えさせろよ」


 などと、今日もダラダラ街なかを徘徊していたところ、本日一つ目の異界を発見!


「チッ、また第十か……」


『わがまま言わないの! 頑張ってお仕事だよ! 今日も元気だ魔石がうまい!』


「魔石を主食にしてるのなんてお前だけなんだよなぁ……」



【デビルサマナー・カズミ】


 私の名前は『雛雀(スザク)花純(カズミ)』。

 二十二歳で今は……家族や知人にはフリーターだと思われているのかな?

 半年ほど前にいろいろとあって通っていた大学を中退、輝かしい未来のため日々頑張って働いているスーパー美少女労働者よ!

 ……なにかしら? 『二十二歳で美少女はちょっと痛々しい』ですって? それ、四十歳過ぎてるのに飲み会のことを女子会と言い張るオバサマ連中の前でも言えるのかしら?

 ああ、あれは図々しいのではなく痛々しいのだから私とは違うわね。そもそも私が痛々しいわけでもないのだし!

 ……いえ、そんなことはどうでもいいのよ。


 そう、それは今から半年前、私がミナミの街でしつこいナンパ男を振り切るために某神社近くの細い路地を歩いていた時のこと。

 いきなり人の気配が消え、音が消え、光が……私の過去になんて別に興味がない? 私、美少女なのに? そう……信じられない人ね。

 仕方ないので省略するけれども、そんな偶然が重なりおかしな世界――異界という異世界に迷い込んでしまった私の大ピンチ!

 偶然にもそこで『デモンサマナー』と呼ばれる怪しい集だ……正義の味方に助けられ、私もサマナーとして覚醒……仲間であり、新しい家族でもある『コマちゃん』と出会う。

 まさか、特別なことはその美貌だけだった私が、不思議な力にまで目覚めてしまうなんて……。


 助けてもらったサマナーさんたちの案内で彼らの所属する秘密結社(普通に国の機関らしいのだけれど)である『特殊事象課・関西方面管理室』などという、関西◯気保安協会みたいな名前の会社(?)に案内され、色々と説明を受けた私。

 その説明の中でも一番大切だったことは『あなたの頑張りしだいで高収入!』と言う部分だった。

 自分探しのために二度海外――カリブ海とモルディブに長期滞在したこともあり、大学を既に二回も留年していた私。自分探しに行くのならインドじゃないのかですって? あなた……馬鹿なの? 綺麗な海と汚い川、見て嬉しいのはどちらかしら? そう! 海に決まってるわよね!


 これはもう……このビッグチャンスを掴むしか後がないと思ったのは仕方のないことではないかしら?

 一度目は父のクレカ、二度目は母のクレカを持ち出していたから家を追い出されていたというのも大きいのだけどね?

 そう、私……それなりに生活に困っていたのよ。美少女なのに。


 さて、そんな私がぬるま湯のような大学生活に見切りを付け、お世話になることになった特殊事象課・関西方面管理室。

 表向きは鉄道会社のカードみたいな名前をした『派遣会社イコーカ』と言う、ダジャレのような社名の会社の所属ということになっていたのだけど。

 最初のひと月目は新人研修として先輩サマナーさんと一緒に、週に一度異界の攻略に出かけるだけでよかったのよ。

 新人だけど運良く最初に仲間になってくれた『コマちゃん』……狛犬のデモンの強さと私の美しさもあり、男性の先輩たちからもちやほやしてもらえたし? 第十異界――低級異界の攻略でも一ヶ所につき二十万円くらいの収入もあったから。

 そう、最初のひと月は本当に良かったのよ……。


 でも研修が終わってふた月目、一人で活動するようになってから……状況は変わってしまった。

 あれだけ優しかった、アットホームな雰囲気だった先輩たちから異界攻略にさそわれることも無くなり、むしそ少し避けられるようになり(きっと容姿のあまり優れない女性サマナーの仕業ね!)、一人で異界に入るなんて危険な事に躊躇した私に出来ることは数日歩き回って見つけた異界を事務所に報告することだけ……。

 ちなみに異界の発見報酬は位階に関係なく一律二万円である。

 稼げない……ひと月に十万円も稼げない……。

 家を出てからも私を心配する父に母にはナイショで連絡を取り、お小遣いを貰いながら研修期間に稼いだお金を切り崩しながらもなんとか生活していたけど……そろそろ限界……。


 状況にさらに追い打ちを掛けるかのようにこの十日間ほどは新しい異界が全く見つからない日々。

 そして、そんな時に久々に発見したのは第十位階の異界!

 研修の時は三人で入っても二十万円の収入があった場所である。もしも一人で攻略できれば……。

 幸いなことに私の仲間は先輩たちの連れていたデモンよりも強いコマちゃんである。


「たとえ一人でも第十位階なら……大丈夫よね?

 とりあえず中で一度だけ戦ってみて、危険そうだと判断したならすぐに脱出、事務所に連絡を入れればいいだけだもの……ね」


 そう、一人とは言っても私は『デモンサマナー』。

 信頼できるパートナーがいつも一緒なのだから。

 何度潜っても慣れることのない、独特の違和感を感じるゲートを潜り異界に入った私。

 教えられていた通り、まずは出口であるゲートの確認――をしたのだけれど。


「なっ!? えっ? げ、ゲートが……出口が無いんだけど!?」


 ……初めて一人で入った異界はどうやらイレギュラーだったらしい。

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