第二章 無職の魔王と特別国家公務員

第001話 魔王、援助する!(NOT交際)

 悪の組織(不良高校生の美人局集団)から少女(リンネたん)を、病魔からその母を救い出した俺。

 お土産も頂き、気分良く帰宅後……の夜中。冷静になったところでふと音羽家母娘のことを考えてみたのだが……。

 うん? どうして夜中に冷静になったのか? それは秘密である。

 そう、別に賢者モードになったとか、そういう理由ではないのだ!


「……あれ? 確かに猿の軍団に、『俺の女にこれ以上関わるな!』と釘を刺してリンネたんの身の安全は確保したし、カノンさんの病気も治療したけど……彼女が美人局の片棒を担ぐことになった原因……まだ解決して無くね?」


 そう、リンネたんは別に最初からあいつらに脅されたり攫われたりして美人局をさせられていた訳ではなく、お母さんが病に倒れたことにより定期的な収入がなくなり、金銭的に困っていることを同級生に相談したことが原因で……色々と追い込まれてメンタルブレイクした彼女がその場の状況に流されたこともあり、あんなことになっていたのだ。


 今回、彼女のお母さんは元気になったし、再来月くらいには元の生活に戻る……いや、長期の入院と回復する予定のない闘病生活をしていたのなら、それまでの仕事も辞めてしまっているだろうしな。

 そんな短期間で生活基盤を立て直すことは不可能だと思われる。


 つまり、何が言いたいかと言うと。

 音羽家には『しばらく金銭的な援助が必要かもしれない』と言うこと。

 とはいっても定職に就いていない、貯金もしてない俺に渡せるような纏まった金銭の持ち合わせなどあろうはずもなく。

 そもそも金があるなら生活費をちゃんと実家に入れろって話だからね?


「……手っ取り早く日払いのあるバイトでも探すかなぁ」


『えー……どうせ肉体労働するならもっと異界を探せばいいじゃん!

 レッツ! アドベンチャーだよ!

 せっかく近隣に人の多い繁華街がいっぱいあるんだからさ!

 ほら、可愛いボクにもっといっぱい魔石を貢いで?』


「ちょっと変わった付喪神のお前の何処に可愛い要素があるのかと小一時間……

 うん? てか『人が多いこと』と『異界が見つかること』に何か関連性があるのか?

 そんな目安があるなんて一言も聞いてないんだけど?」


『だって何も聞かれてないからね?

 最初の頃に『異界は夢の世界みたいなモノ』だって説明したでしょ?

 人が多いほうが夢もその想いも強くなるんだから、その集合体ともいえる異界が発生しやすくなるのは当然じゃないかな?

 もちろん人の少ないところでも『強い想い』が集まりやすい場所なら異界になっちゃうんだけどさ。

 それに君って一度異界を壊した場所の近くには二度と出向かないよね? あれってどうしてなの?

 ちなみに昨日は他の人がいたから途中では話しかけなかったけど、四ヶ所ほど異界反応があったよ?』


「待って待って、そういう重要そうな情報はもっと早く教えてくれよ!

 えっ? 異界って一度クリアしてもまた復活したりとか近くに出現したりするモノなの? 完全にオールクリア! みたいな気持ちでいたんだけど?

 昨日は確かに行動範囲が広かったけど四つも見つかったって……これまで地道に歩き回って探してたのは一体何だったんだよ!?」


 言われてみれば確かに? 今までに異界が見つかった場所って繁華街の中でも『ラブホ街』とか『場外馬券売り場』、うちの近所だと『大きな公園』などなど、想いっていうよりも執念とか怨念に近いものが集まってそうな場所ばっかりだったけどさ。


 目的地――と言うほどハッキリとした存在ではないが、目標になりそうな地点があるのなら話は早い、その近辺の探索を強化すればいいだけのことなのだから。

 早速その日から大阪市内の地下鉄を乗り換え乗り継ぎ。

 これまでの苦労はいったい何だったのか? とため息が出そうになるほど簡単に(それでもそこそこ歩きはしたが)異界が見つかった。

 そしてその中から初日に三ヶ所、二日目、三日目は四ヶ所ずつと『合計十一ヶ所』の異界を制覇する。


「マジでコツさえ掴んでしまえば思ったよりも見つかるんだな異界。

 てか戦闘らしい戦闘にはなってないのにマップを埋めるだけで疲れたわ……」


『隅から隅まで駆けずり回って一匹残さずデモンの殲滅をしてたらそりゃ疲れる……いや、そもそも普通の人間だったら入って出るだけでも物凄く疲労する場所だからね? 異界のハシゴなんて出来ないはずなんだけどね?

 というか、見つけた中に第五位階の異界もあったのにそこのボスですら無傷で倒すとかキミ、一体どうなってるのさ……』


 ちなみに第五位階(の異界)が見つかったのは大阪城公園駅の近く、つまり大阪城だった。

 大阪城異界……その中は俺の知っている鉄筋コンクリート製の姿ではなく、復元された元の姿、たぶん豊臣秀吉が建てた時の『大坂城』って感じでさ。そこを少しずつ登っていくの、むっちゃテンション上がった!


 あと、大坂城の天守まで登って出てきたボス、四本腕の鎧武者だったんだけど……名前が『ユキムラ』。

 いや、そこはヒデヨシかヒデヨリでいいだろ! あと腕が四本の意味がわからん。

 道中で出てきたデモン――アシガルとかサムライタイショウ、カロウとかダイミョウ、シノビやクノイチなんてのもいた――ですらそこそこの強さだったから、久々に身体強化マシマシにして最後にはインベントリから魔王専用武器『フェンリルブレード(大太刀)』まで出して倒したわ。

 格好を付けるためにスマホ野郎には余裕ぶって戦ってたけど、大人気なくそこそこ全力で頑張ったわ。


『まぁ十ヶ所以上異界を攻略してるのに未だに『仲間』が一人もいないのはどうかと思うけどね!』


「それはだってほら……出会うヤツ出会うヤツ呪われそうな外見してたっていうかさ……ストレートに気持ち悪い奴しか出てこなかったからだよ! 見た目だけで言うなら最初の異界で遭遇したピクシー以外はほぼほぼ妖怪、魑魅魍魎の類だぞ? そんな連中を連れて歩こうとか普通思うか?」


『普通のサマナーは見た目じゃなくて強さで仲間を選ぶんだよ!』


「なら余計に俺には仲間なんて必要ないだろうが。

 なんたって地上最強なんだからな!

 そもそも俺、お前には紹介してないだけで既にいっぱいいるからね?」


『ハハッ! キミがそう言うならそうなんだろうね! キミの中では』


「イマジナリーなフレンドしか居ない人扱い止めろ」


 俺の思い込みとかじゃなく本当に仲間っていうか悪友っていうか、そういう連中がいっぱいいるんだからな? ……異世界に。

 てか召喚魔法ではないけど『招聘魔法』もあるし、世界を超えても呼び出せるのか、機会があれば一度試しておくべきかもしれないな。

 でもなー、いきなり勝手に居なくなったわけだから、あいつらきっとすげぇ怒ってるだろうしなー。


 っと、話が逸れたな。

 まぁそんな感じで俺が制覇した異界はこの三日間で十一ヶ所。

 第十位階が五つ、第九位階が三つ、第八位階が一つ、第七位階が一つ、そして第五位階が一つ。

 そこで得られた現金収入(百円以下省略)は


・第十位階 七千五百円~九千円   ×五 四万一千円

・第九位階 一万三千円~一万五千円 ×三 四万二千円

・第八位階 二万円

・第七位階 三万六千円

・第五位階 八万五千円

 合計 二十二万四千円


 第五位階一ヶ所だけでかなり稼いでるとはいえ、これこそ、これこそ俺が求めていたダンジョン収入である!

 そして金銭問題だけではなく、異世界では敵対していた『(疑似)冒険者生活』まで体験出来てるんだからこんなに楽しいことはない……。

 たった一つ問題があるとすればソロプレイヤーなことだけか?


 というわけで、実家と音羽家に十万円ずつ渡して……いや、定職に就いてない人間が実家に纏まったお金を入れるとかどう考えても後ろ暗いアルバイトでもしてるようにしか見えないな。

 とりあえずしばらくは音羽家に援助するだけにしておくか……。

 翌日の朝、『大切な用事があるから会えないか?』とリンネたんに電話を入れ、彼女の暮らすマンションの最寄り駅まで出向く俺。

 てか、駅についたらもう一度連絡するって伝えてあったのに既に改札口で待ってるんだけど……。

 

「お待たせしちゃったかな? と言うか、今って夏休みだよね?

 どうして学生服……それもこの前着てたのとは違う、丈の短い制服を着てるのかな?」


 髪も左サイドでひとつ結び(?)にしてるし。


「お兄さん! お久しぶりです!

 お兄さん……制服お好きですよね?

 あと、少し小さいのは中学の時の制服だからです!

 お兄さん……制服お好きですよね?」


「久しぶりも何も、毎日数十通ものメールのやり取り、むしろリンネちゃんからのメールが一方通行してると思うんだけど?

 確かに可愛い女の子の制服姿は嫌いじゃないけど、どうして二回も断言したのかな?」


「やっぱり! それならよかったです! きっとお兄さんならこういう幼い感じの方が喜ばれると思いまして! ほら、ソックスも二つ折りなんですよ?」


「誰かに聞かれたら通報されそうなことを口走るのは止めようね?」


 何だろう……この前はもっとおとなしい感じの、大人な感じの子だったと思うんだけど……どうしてこうなった?

 いや、最初からそれなり以上に小悪魔的なあざとさもある、積極的な子ではあったんだけどさ。

 あれかな? お父さんが亡くなってるし、大人の男性(つまりオッサン)との距離感がイマイチ掴めてないのかな?


 ちなみに彼女からは毎日の大量メールだけではなく、それなりの回数の着信まであるんだけど……家の中で女子高生と電話してるのをヨウコに聞かれたりしたら……な?

 定職に就いていない実家暮らしのオッサンは些細なことまで気を使わないといつ追い出されるか分かったものじゃないのだ。


 しかし……あれだな、今日はこの場で封筒だけ渡してとっとと帰ろうと思ってたんだけど……人通りが少ないとは言え、むしろ人通りが少ないからこそ『女子高生にお金が入った茶封筒を渡すオッサン』って……どうなんだろう?

 もしも誰かに見られたら……ただの『援助』のはずが、後ろに『交際』を付けられかねないよな?


「えっと、とりあえず話したいことがあるんだけど……」


「はい! わかってます! 二人で合体的な……事ですよね?

 今日はお家にお母さんがいますけど……わたしのお部屋でいいですか?」


「まったくの見当違いだけどね?

 あと、もしも仮にそうだったとしたらお母さんが家にいちゃ絶対にダメだと思うよ?」


「確かにそうですね。

 ふふっ、ちゃんとわかってます、わかってますよ?

 大丈夫です! わたし、声を出すの我慢できますから!」


 と、まったく何もわかってなさそうな、トンチンカンな事を言いながら俺の手を引いて歩き出すリンネたん。

 とても楽しそうな笑顔をしてるから別にいいんだけどさ……。

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