第010話 魔王、屋上でセクハラする!
繁華街で逆ナンされた美人局の少女と手を繋ぎ、彼女に誘われるまま『二人きりになれる場所(犯行現場)』へと向かう俺。
右往左往……いや、別に迷子になってるわけじゃないから右折左折だな。
路地を抜け、急な階段を登り、俺達が到着したのは、
「いや、ビルの屋上て。いくらなんでもこれはさすがに怪しすぎるだろ……
ここ、俺以外の普通のオッサンが黙って付いてくるような場所じゃなくない?
それともあれかな? ここでフェンスにもたれかかって、都会の喧騒をバックにバックからゴニョゴニョする妄想とかしながら付いてくるのかな?」
「ごめんなさい……わたしも初めてのことですので他の人のことはよくわからないです……
あと、恥ずかしいので具体的な想像は止めてください……」
「ごめんて」
真っ赤な顔でこっちを可愛く睨んでくるリンネたん。
尾行の連中――三人だったのがこのビルの近くで二人合流して五人になった――は階段からこちらを伺ってるみたいだけど、様子を伺ってるだけでまだ出てくるつもりはないらしい。
「(で、ここからの流れはどういう予定になってたのかな?)」
「(えっと……相手を欲情させて……その、男の人がズボンを下ろしたところで……助けに入ってくる手はずになってます……)」
「(ああ、なるほど。ズボンを下ろしちゃったら走って逃げることも出来ないもんな。……もしもチャックだけ下ろしてポロンしたらどうするつもりなの? あと、リンネたんはどういった手段で男を欲情させようとしていたのか詳しく!)」
「(し、しらないですよっ! もう、子供だと思って甘く見てたら大間違いなんですからね! 本当にお兄さんを誘惑しちゃいますよっ!)」
大丈夫、すでに半分くらい魅了されてるから。
良かったな! 俺が悪い紳士(ロリコン)じゃなくて良い紳士(ロリコン)で!
そもそも異世界ルールではリンネたんの年齢は大人なんだけどな!
……てかこの子、本当にいくつなんだろう? もしも十五歳以下だったら屋上に付いてきただけでもアウトになるのかな? そのへん大丈夫?
「(とりあえず逃さないように全員こっちに出てきてもらいたいから演技の続きでもしようか?)
へっへっへっ……トトワちゃんは可愛いなぁ……
オジサンもう……辛坊たまらん、いや、辛坊たまらん棒だよ……
ほら、後ろ向いて、こっちにお尻向けて……」
「(わかりま……お兄さん!? なんかリアルです! 違和感が無さすぎて怖いです! 大丈夫ですよね!? 本当に演技なんですよね!?)
は、はい……わかりました……」
他のビルと比べてもそれなりに高層だったのか、見上げない限りはお向かいさんから見えることもなさそうな雑居ビルの屋上。
半ばフェンスに押し付けられるような姿で後ろから抱きしめられる形になっている少女。
「(……一人……二人……こっそりと屋上に出てきたな)
ハァハァ……トトワちゃんの頭皮……いい匂いがするナリよ……」
「(頭皮!? ちょっ、お兄さん! 恥ずかしい、恥ずかしいです! そこはせめて髪の匂いって言ってください! あとどうして『コ○助』口調なんですか!?)
あ、ありがとう……ございます?」
「(三人……四人……五人……よし、全員扉を潜ったな!)トトワちゃんのお尻……あったかいナリぃ……『施錠』、『空間静音』」
「お、お、お、お兄さん!? 当たってます! わたしのお尻にお兄さんのお兄さんが当たってます!」
全員踊り場から出てきて(屋上に入ってきて)くれたので逃げられないように扉が開閉しないよう魔法で固定、そして内側から外側に音……連中の叫び声などが漏れないように静音の魔法もついでに掛けておく。
「チッ、もう三時間くらいこのままで出てこなくても良かったのに……空気の読めない連中だな。
あ、あと、リンネたんのお尻に当たってたのは尻ポケに入ってたスマホだから。
……スマホだから!」
「お兄さん!? 本音らしきものが漏れてるんですけど……
あとズボンの後ろポケットに入ったスマホは絶対にわたしのお尻には当たりませんよね!?
それと先ほど最後に言った施錠とか静音っていうのは一体……」
細かいことは気にしちゃいけない。何故なら説明がめんどくさいから。
あとお尻に当たってるのは右ポケットの財布であってけっして如何わしい『どれそれなにこれ』ではないので念の為。
いくら俺でもこの状況で緊張感無く欲情したりは……してはいないとリンネたんには言っておこう。
先程までコソコソと隠れていた五人組が足を引きずる音を立てながらこちらに近づいてくる。
「おいおいおい! オッサン、こんなとこで学生相手に何しちゃって……あれ? お前……トワか?
おい、テメェ……俺の女に何してくれてんだコラ!! 死んだ、お前、たった今死んだぞああん!?」
「顔はゴリラ、それなのに猿芝居……いや、両方お猿さんだしおかしなところはないのか。
出てくるのが遅えよバカ。危なく本気でメイクラブするとこだったじゃねぇかバカ。あと野生のゴリラが人間様を彼女とか言ってんじゃねぇよバカ。
いいか? この子は俺の彼女! わかるか? 俺の! 彼女なんだよ!」
「いえ、今のところはお兄さんの彼女でもありませんけど……」
ちょっと頬を染めながらゴニョゴニョと喋るリンネたん。
……これは、もしかして本当にワンチャンあるかも?
そして、俺に声を掛けてきたのはゴリラ顔のホームベース。
その後ろには有象無象って感じのモブ顔のチンピラが四人。
『全員個性的な髪型だね?』って印象しか残らないくらいには没個性な顔をした連中である。
「テメェ……誰に舐めた口利いてんだああんっ!?」
「チンピラは語尾で喘ぎ声を出さないと死ぬルールでもあるのか?」
「オッサン……回り見えてんのか? それとも怖くてトチ狂ってんのか?
金だけで済ませてやろうと思ってたが……ちょっとばかり痛ぇ目みせねぇと自分の置かれてる立場がわからねぇみてぇだな!」
なんで不良って時代劇のチンピラみたいな喋り方になってしまうん?
そして『クソがぁぁぁぁ!』『死ねぇぇぇぇ!』って殴りかかってくるまでがデフォなんだよな。
「そっちこそ回り見えてんのか? その程度の人数で優位に立ってると……ああ、あれか? 『一、二、三、……たくさん!』って感じだからか?
数が数えられないから千人くらいで囲んでると勘違いして気が大きくなってるのか?
とりあえず両手両足の指を使って計算できるように進化してから出直してこいよゴリラ。
俺はメスガキ以外にわからせる趣味は無いんだが……どうしてもっていうならお互いの立ち位置を説明してやるくらいはしてやるぞ? 代金は……お前らの有り金全部でいいや」
「お前……マジ舐めんなよ? 軽く小突きまわす程度で許してやろうと思ってたが……半殺し、いや、ここから投げ落としてやるよ!」
「お前……そこは『やるよ!』じゃなくて『やんよ!』って言うのが不良の定番だろうが!」
「意味のわかんねぇことほざいてんじゃねぇよオッサン!」
懐から各々の得物――特殊警棒やらメリケンサックやらを取り出す不良五人組。てか後ろのあいつ、普通にナイフ出してるんだけど?
こんな歩く社会不適合者みたいな連中が武器を持ち歩いてるのに捕まえないとか日本の警察は弛み過ぎではないだろうか? 夜中に自転車でうろつく無職でオタクっぽいオッサンよりもこういう連中に職質しろよ! 間違いなくそいつらも不審車だけれども!
ニヤニヤした顔で警棒を振り上げ、いきなり俺に殴りかかってきたのは先程までイキリちらかしていたゴリラ。
「とっととくたばりやがれオッサン!! おがぁっ!?」
「おっ! お兄さ……!! ええええ……」
とくに避けることも、腕で受けることもなく左肩に警棒が叩きつけられるも一般人の通常攻撃で俺にダメージなど通るはずもなく、そのまま思い切り顔面を殴り返す。
「ふふっ。魔王の反撃が二回攻撃くらいで済むと思うなよ?」
そう、ここからはずっと俺のターンなのだから。
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