第009話 魔王、就職活動を再開したら女子校生に…… その2
頑張ればスーパー美少女に変身する可能性を秘めた、変な女子高生にミナミで声を掛けられた俺。
もちろんこんな怪しい少女の誘いに乗ることなどあるはずも
「わたし……その……こういうの初めてで……
出来たらゆっくりとお話とかしたいなぁ……なんて。
それでその……お兄さんに甘えさせてもらえたら……嬉しいなって。
ダメ……ですか?」
「ダメじゃないです」
くっ、幸薄そうな女の子の上目遣いの破壊力パネェな!?
これが……これが呼び覚まされし父性本能だとでも言うのか!!
もしかして、もしかしたら……
ワンチャン本当にこの子がファザコン女子だとしたら?
もしかして、もしかしたら……
ワンチャンこのままお家とかホテルにご案内……うん、無いな。
だって、見え見えの隠れ方でこっちを伺ってる男が三匹くらいいるんだもん。
ありがとうございます、どう見ても美人局です。
こんな純情そうな、大和撫子七○化な女の子がそんないかがわしいことしてるとか近頃の日本はどうなってんだよ! そういうのは黒ギャルとかサ○バ○エー……伏せ字にしててもそろそろ怒られそうだから控えておこう。
まぁ、あれだ。どう考えてもついて行くような人間は居ないだろうというお誘いだが、そこはそれ、せっかく発生したイベントである。
美人局なら美人局で、出てきた男をボコボコにしたうえで有り金を回収。
ついでにこの子のぺぇの一つ二つ揉みしだいてから帰ればいいだけだからね?
考え方が異世界山賊のそれである。
二人並んで広いアーケード街から細い路地、なんの警戒心もなく少女と話しながら歩く俺。
「ちなみに俺の名前はサーパンタイア、君の名は?」
「あっ、はい、わたしは凛音(リンネ)……ではなくてですね!
……ト、トワ! そう、トワと言います!
と言いますかお兄さんの名前おかしくないですか!?
何なんですかサーパンタイアって! 漢字でどう書くんですかそれ!」
いきなりの質問で偽名の出てこなかったリンネたんハァハァ。
いや、もしかしたらそれも引っ掛けでホントはまったく違う名前かもしれないけどさ。
でも彼女の見た目が完全にリンネたんだから俺の中ではリンネたんで確定である。
「ああ、俺のおばあちゃんの友達がイギリス系のミックス犬を飼ってたからさ。
それで、トトワちゃんはいつもこういうことしてるの?」
「なるほど……いえそれ何の関係もなくないですか!?
あとトトワじゃなくてトワですから!
えっと、こういうのは……今日が……初めてです……」
なんだろうこの将来的に悪い男に騙されて風俗で働かされてそうな純朴な女の子は……。
いや、現在進行系で(たぶん)美人局をさせられてるんだけどさ。
そしてこんな状況でも可愛い女の子と話せてることがとても楽しかったりする年下の女の子大好きっ子な俺。ただの紳士なスケベオヤジである。
なんてことを考えてると隣から聞こえてくる『クー……』と言う可愛らしくお腹が鳴る音。
「ん? ……もしかしてお腹すいてる?
食べ放題のぶしゃぶしゃ(しゃぶ○)とか行く?
それとも食べ放題の焼き肉(キ○グ)?
出来ればアーユーPayが使えるお店がいいんだけど」
「何なんですかぶしゃぶしゃって……
お気遣いありがとうございます、でも……大丈夫です」
お腹の音を聞かれて恥ずかしかったのか、耳まで真っ赤にしたリンネちゃんかわええ……。てかこの飽食の時代に女子高生(たぶん)がお腹空かせてるなんてことある?
オジサン、自分の食費を削ってでもリンネたんに貢ぎたいんだけど? CDとか自費出版の本とか出してたらいっぱい買うよ?
大丈夫、俺実家ぐらしだから! こどおじだから! 無駄遣いしても義妹にしばかれるくらいで死にはしないから!
とか思ってたら、彼女の柔らかくなっていた表情が途端に、最初声を掛けてきた時のように無表情に変化する。
そして俺にしか聞こえないような小さな声で、
「(……お兄さん……次の曲がり角で走って逃げてください……)」
「(えっ? 嫌だけど? 俺、このあとトトワちゃんとおっぱいがいっぱいする予定だから)」
「(お兄さん、さすがにちょっと……いえ、かなり気持ち悪いです……じゃなくてですね! なっ、何を言ってるんですか! 今はそんな呑気なこと言ってる場合じゃないんです! お気づきではないと思いますけど……後ろから男の人が何人か私達を尾行してるんです! このままだと……お兄さんはその人達に脅迫されて)」
逆に、こんな雑な尾行に気づかないヤツは居ないと思うんだけどねぇ……。
「(殴られる? それともカツアゲ? 恐喝? 残念だけど俺に怪我をさせようと思ったら最低でも『魔法を使うティラノサウルス』程度は連れてこないと相手にもならないよ? ほら、痩せて見えるけどこれでも腹筋とか凄いから! 上着だけ脱いでみせようか? それともお腹触る?)」
あと、無職だからお金なんて持ってないから何かあっても損失ほぼゼロだしな!
「(どこからそんな自信が出てくるんですか……あと脱がなくてもいいです! お腹は……ちょっとだけ触りたいですけど! ……じゃなくてですね! 巻き込んでおいて自分勝手なことをいいますが……わたし、これ以上……優しくしてくれるおにいさんのことを巻き込みたくないんです! ホントに……ホントに逃げてください!)」
真剣な目で、眦に涙をためてこちらを見つめるリンネちゃん。うむ、この子を見てると日本も捨てたもんじゃないと思えてきた。あと『優しいお兄さん』にグッと来た。
いや、そもそも美人局なんてしてる時点で優しい良い子だと思うのは絆されすぎじゃないのかって話なんだけどさ。
でもほら我が国には『可愛いは正義』って諺があるじゃないですか? 無い? せやな。
もしもここで俺が逃げれば自分が殴られる、またはあんなことやこんなことをされるかもしれないのに、それでも俺に逃げろと二回も警告する彼女……助けてあげる価値は大いにあると思わないか?
しかし、ここが異世界ではなく日本だとしても俺は魔王。
彼女を助けるためにはそれ相応の『報酬』を支払ってもらう必要がある。
別に意地悪がしたいとかじゃないんだよ? 話が長くなるから省略するが、魔王が善意で人助けをするためには守らないといけない『制約(ギアス)』ってモノがあるのだ。
悪魔だって無償では力を貸してくれないだろ?
彼女の肩を優しく抱き寄せ、そっと耳元で甘く誘惑する。
「(リンネ、君のその美しい心……と、可愛い顔と形の良いぺぇには救われるだけの価値がある)」
「(ふあっ!? おにいさん!? いきなり耳元でそんな……恥ずかし……いえ、本当に恥ずかしいこと言ってますよ!? ぺぇって何なんですかぺぇって……)」
ぺぇはおっぱいに決まってるだろうが。いわせんな恥ずかしい。
「(だから、もしもこんなことを続けたいと思ってるわけじゃないなら、自分の意志で進んでやってることじゃないなら『逃げてください』ではなく『助けてください』って言うんだ。そうすれば、隣りにいる優しいお兄さんが……八首の龍からでも君のことを守ってあげるよ)」
「(お兄さん……ありがとうございます。でも、わたしはそんなお兄さんのことを騙そうとした女なんです。だから……あなたに救って頂く価値なんて……無いんです!)」
思ったより強情そうなお嬢さんである。
まぁそんな所も好ましいんだけどな!
「ふふっ、もちろんただで……なんて図々しいことは言わせないけどね?
そうだな、君をサポートする報酬は……おっぱい三揉み、それとも下着一枚ってとこかな?」
おそらくは高校生男子数人を無力化するだけの簡単なお仕事である。
報酬としてはそのくらいが妥当だろう。
報酬内容が完全にセクハラだって?
こっ、これはいやらしい気持ちがあるわけじゃなくてリンネたんがお金を持ってないだろうと思っての思いやりなんだからねっ!
「なんかもう色々と台無しなんですけど!?
……でも、ありがとうございます。わたしの緊張を……気持ちをほぐそうとしてくれてるんですよね?」
いえ、本気で言ってます。
あと、出来ればすぐに終わる三揉みよりもパンツがいいです!
「お兄さん……馬鹿なわたしのこと……助けてくださいますか?」
「おう! まかせろ! とりあえず目的地までの案内よろしく!」
二人で手を繋いで大きく振りながら、『えっ……ここで解決するんじゃないんだ?』と、困惑するリンネたんと歩き出す俺だった。
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