第008話 魔王、就職活動を再開したら女子校生に…… その1
ホストクラブの面接に失敗し、妹に叱られはしなかったが呆れた顔をされてから早一週間が経過。暦で言うところの現在は七月二十一日である。いや、だからどうしたって感じだけどさ。
スマホに妙なものが取り憑いたことをこれ幸いと、異界なんていう不思議空間を探しながらふらふらと街を徘徊、日銭稼ぎにの狩猟生活に勤しんでいた俺。
てかさ、異界なんだけどさ。
最初のモノとは別に三ヶ所ほど攻略したんだけど……
「想像では一日で数万円の稼ぎがあると思ってたのにまったく稼げてないんだけど。
いや、そもそも異界入口をスマホ……じゃなくてなんたらデバイスがサーチ出来る範囲が狭すぎて見つけるだけで一苦労なんだけど。
毎日がハイキング、歩くのは街なかだからウオーキングか。なにそれコーラ一気飲みして環状線の駅名とか言ってそう。
このままじゃやってられないから『感知能力』を強化しようと思ったら……
何なんだよ新しい機能の追加に必要な魔石千個、機能の(ランク1からランク2への)ランクアップに必要な魔石二千個って!」
そう、初めての異界攻略で時給換算三千円弱という、そこそこの収入を得られたのでまともな就職活動もせずに繁華街を徘徊、異界探しをしてみたんだけど……この一週間頑張ってみた結果、異界での収入全部合計しても三万円弱、日給に換算すれば五千円にも満たないのである。
『朝っぱらから愚痴っぽい人だなぁ。
運がいいのか悪いのか、見つかった異界が全部第十位階の異界だったからねぇ。
キミなら今すぐにでも第五位階の異界くらいならクリア出来そうなのにさ』
イカイイカイ煩いわ。
んー……やはり楽して金儲けなんて考えは捨てて就職活動に戻るべきか……。
ん? 面接に出かけたホストクラブからの連絡? もちろん一軒もありませんが何か?
はぁ、なんかこう……『女の子にチヤホヤされながら稼げる!』そんな仕事ねぇかなぁ。
すぐに頭に思い浮かぶのは『出張ホスト』なんだけど……またホストかよ。
もちろんそれが詐欺だってことくらいは異世界帰りの俺だって知ってるんだけどさ。
今日も真面目に労働に勤しんでいるヨウコに借りたタブレット端末を暫くの間ポチポチと操作する俺。
最近のナウでヤングな老若男女に人気の職業……そして稼げそうで楽そう(※個人の感想です)な仕事で候補に上がったのが、
「ユアチューバー……ヴイユアチューバー……メンズ地下アイドル……
でも最初の二つはなぁ。PCを買い替えることから初めないとダメそうだしなぁ」
新しいPCが欲しくて働くのにPCが必要だとか完全に本末転倒である。
つまり選択肢で残ったのは最後のメンズ地下アイドルのみ。
アイドル……アイドルか……まぁ○○○○の○○○○とか五十歳過ぎてもドル売りしてるんだし? たかだかアラサーの俺がアイドルを名乗っても何の問題もなかろう。
そうと決まればさっそくいくつかの事務所を探し出す俺。……翌日に面接の約束を取り付けることに成功。
帰宅した妹にタブレットを返却するついでに就活の説明をすると、
「箸にも棒にもかからなかったホストの面接で懲りてないところがあんたらしいわね……
というかこれ、仕事を探してたのよね? 残ってる検索履歴が酷すぎるんだけど? あんた、真面目に働くつもりあんの?
少なくともサ○バ○エ○ジ○ントは社長の愛人みたいな見た目のケバい女子大生しか無理だと思うわよ?
別に私が頑張れば親子三人(私とお兄ちゃんと子ども一人)暮らすくらいはどうにかこうにかなるからいいんだけどさ、持ち家もあるし。でもそろそろリフォームが必要なのよね……。
あと、最後の方(並び的には最初の方)に残ってる『コスプレイヤー エロ』っていうのはいったい何なのかしら?」
ただの履歴の消し忘れですので気にしないでください。
てか親子三人(父、母、ヨウコ)ってことは、そこにお兄ちゃんは仲間に入れてもらえてない気がするんですが? そういうイジメ、カッコ悪いと思う!
そして久々に見た昔好きだったレイヤーさん、今でも活動してるみたいなんだけど……いや、これ以上は止めておこう。
てことで翌日である。
訪れた事務所での面接内容は……前回とそれほど変わりがなかったので割合する。
一体俺の何が悪かったと言うのだろうか?
最後に訪れた面接先が心斎橋だったので、道頓堀からなんばへとアーケード街をぶらぶらとやさぐれながら散策する俺。
キタは変わったけど、ミナミはあんまり変わらないなぁ……いや、そもそもキタとちがってどこにどんな店があったのかあんまり覚えてないからな。
もし変わっててもわからないだけかも知れないけどさ。なんとなくだけどゲーセンとかが減ってるような気がしないでもない。
そんなキョロキョロしながら歩く俺が某巨大な甲殻類の看板の下を通りかかったところ、後ろから近づいてくる小さな人影が一つ。
「お、お兄さん……」
後ろから服の裾を可愛くツンツンと引っ張るのは緊張からなのか表情が強張る通り越して角張る勢いで無表情な制服姿の少女。
さすがに制服をみただけで判断できるほど学生服に詳しいわけでもないのでどこの学校かまではわからず。
小柄な体形と幼気な顔は中学生……でもそのぺぇの大きさは高校生だろうか?
「申し訳ない。
俺には……君のような妹は居ないんだ……
そう、うちには二十八歳(彼氏なし)の少し残念な妹しか……
あんなに可愛らしかった十三歳の妹はもう……居ないんだっ!」
「それは一体何のお話なんですか……」
強張らせた顔をさらに引くつかせる少女。
少しぼさっとしたその髪、よれっとした制服、化粧っ気は無いのに驚きの透明感を持った頬……最初の二点を少しだけ頑張れば物凄い美少女に変身しそうな女の子である。そう、あるのだが……その瞳がむっちゃ怯えてるんだよなぁ。
いや、俺が無理矢理ナンパしたとかじゃないんだよ? いきなり彼女から声をかけてきたんだよ? なのにその表情はおかしくないかな?
まぁでも、こんなさえない無職デモンサマナーに声を掛けてくるような女の子なんてどうせ……
「それで一体この度はどのようなご要件なのでしょうか?
私、残念ながら美術などには疎くてケバケバしいイルカの絵とか見せられても反応出来ないのですが? 手持ちで買えるのはポストカードくらいですし」
「いきなりの距離感……いえ、わたし、ラッ○ンのギャラリーのお姉さんとかではありませんので……」
「そうなの? じゃあニッ○ン?」
「ニッ○ンは通信販売なのでキャッチセールスはしてないと思いますが……」
「なるほど、つまりガッ○ンのおばちゃんだったと? もしかしてヤ○ルト?」
「それもう韻を踏みたいだけですよね?
いえ、その……お、お兄さんってステキな人だな……って思いまして……」
なん……だと……?
「ほう……つまり君はホストクラブの面接に続いてメンズ地下アイドル、略してメンチカツの面接まで全滅した俺がステキだと?
はっ、ちゃんちゃらおかしくて給湯室で茶が沸かせそうだわ!」
「職業の選び方の癖が凄いですね!?
どこをどう略してカツが出てきたんでしょうか?
あと給湯室でお茶を沸かすのは普通のことでは……?
いえ、あの、わたし……母子家庭で育ったので、その、お兄さんみたいな落ち着いた雰囲気の」
「えっ? もしかして俺、初対面の女の子にまでデコが親父似だと思われてるの!?」
「そんなこと一言もいってないですけどね?
もう……もしかして子供だと思ってからかってます?」
緊張していた表情が少しだけ柔らかくなり、頬をふくらませる彼女。
一言で言い表すなら『はい可愛いー!』である。
ヨウコ、お前に足りないのはこういうとこやぞ? ほら、お前ももう少し頑張って!
もちろん借金を返済していない妹様に面と向かってそんなことは言えないのだが。
「あの……ですのでその……ご迷惑でなければ少しだけでも一緒にいて頂きたいな……なんて。
ごめんなさい、急にこんなこと言い出しまして。わたし、変な子ですよね?」
「確かに」
「そこは少しくらいかばってくださってもいいと思うのですが!?」
いや、だって三十過ぎたオッサンにいきなり話しかけてくる推定女子高生が変じゃないわけがないじゃないですか……。
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