第004話 魔王、就職活動を始める! その2
ヨウコから多少非難がましい目で見られているが、自立するために働くという一大決心を決めた俺。労働に対する考え方が完全にニートのそれだな。
さっそくパソコンで詳しい情報を検索しようと部屋に戻る。
後ろにベッタリとヨウコが付いてきているが……いまさらの話なので気にしてはいけない。
……てか久しぶりに稼働させたパソコンの動作が重すぎるんだけど?
アップデートがウンタラカンタラっていっぱい出てきたと思ったらハードディスクがガッコンガッコンいいだしたまま何の進展も無いんだけど?
考えてみればこれって十五年落ちのパソコンだもんなぁ……電源が入っただけでも儲けものってレベルの骨董品だからしかたがないか。マザーボードにカビとか生えてそうだし。
くっ、こうなれば俺の虎の子、最新鋭(だった)高級国産スマホに頼るしかないのか!?
こちらに帰ってきてからも電源すら点けていなかったスマホをポケットから取り出しスイッチオン! ……三分ほど経過、待ち受け画面が立ち上がる。
「おー、カップラーメン作るタイマー替わりになりそうな遅さ。
昔はもっと早かった……いや、十五年前もこんな感じだった気もするな」
当時の国産アン◯ロイドスマホってどれもこれも値段の割に性能がイマイチだったもんなぁ。
……というか十五年前のスマホがどうしてすんなりと使えるんだ? もしかして俺が居ない間もずっと電話代を支払ってくれてたのか? メールもコールも一切通じなかったスマホの電話代を?
いつかは俺が返事すると思って、今まで何万、何十万も無駄にして代金を払ってくれていた……そんな両親の気持ちに涙腺がゆるくなり泣きそうになる。
そんな優しさの詰まったありがたいスマホ、異世界ではいつの間にか充電も切れ真っ暗な画面になっていたスマホ。
「あんた、それって高校入学の時に買ってもらったレ◯ザよね?
十五年前のスマホを後生大事に持ち歩いてるとか、物持ちがいいってレベルじゃないわよ?
て言うか、持ってたんならどうして今までずっと電源切りっぱなしだったのよ!
私が今日まで何回あんたに電話したと……」
通じない電話……両親の想い、妹の想い……色々と感情がないまぜになった俺とヨウコ。
とりあえず二人して十分ほど泣いた。二人で抱きしめ合って泣いた。
……アラサー兄妹が並んで何をやってんだか。あと、どうしてこいつは人の首筋の匂いを嗅ぎたがるのか?
まぁそんな、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいになった気持ちを少し落ち着かせたところで検索を再開。
うん、いろんな機能のアップデートが必要らしくまったく使えそうに無いなコレ。
「……とりあえず私のタブレットを貸してあげるから調べ物ならそれですればいいわよ。
履歴の消し方は知ってるでしょ?」
「妹に借りたものを使ってエロい検索とかしねぇから何も消す必要とかないんだよなぁ。
てかタブレット……? ああ、フリ◯クとかピン◯ーとか口臭予防の?
えっと、ヨウコはどうしていきなりオーラルケアの話を始めたのかな?
ポリ○ントのCMの如く『お兄ちゃんお口臭い』とか可愛い妹に言われたら俺、軽く死ねるんだけど?」
「何を昭和っぽいボケをかまして……あれ? 十五年前はギリギリタブレットは出てなかった……のかな?
いえ、もし十五年前には無かったとしても普通に生活してればどこかで目にしたことくらいあるはずでしょ!
あんた、本当に今日までどんな所で生活してたのよ?
もしかして富士の樹海的な場所? それとも絶界の孤島? サイレンが鳴り響く村? 霧に包みこまれた街?」
樹海ではなく魔界で、絶界ではなく異世界です。
そして後半の二つに迷い込んでたら半日くらいで御臨終してる……魔界ですら生き残ることが出来たんだから案外そこでも順応してたかもしれないな。
という事で色々と調べてまわり、何軒かのお店(ホストクラブ)に面接の約束を取り付けることに成功した俺。
翌日、朝から仕事に出ていく妹から交通費と昼飯代として五千円をお小遣いに貰い……向かうのは関西屈指の繁華街。
そう、通称『キタ』と呼ばれている場所である。
妹とは言え、朝から年下女性に小遣いをくれとせがむアラサーのオッサン、完全に『朝イチからパチンコ屋の開店に並ぶ駄目男』のソレである。
そしてそんな、恥も外聞も捨てて頑張った俺の戦果はと言えば――
「落ちた、全部落ちた……
いや、最後の一軒はまだ結果は出ていないから!
受かってたら一時間後には連絡が入るはずだから!」
まぁ面接が終わってから既に二時間以上の時が経過してるんだけどな!
何だ、一体何が悪かったんだ!?
受け答えはどの店でもほぼ百点満点だったはずなんだが!?
~一軒目~
「結構歳いってますね……えっと、特技とかはありますかね?」
「(おっ? これはあれか? 『イオ○ズンです』的なウイットに富んだ答えを求めてる感じか?)
そうですね、暗黒魔法、それも広範囲殲滅魔法が得意です!
(ふふっ、もちろん店長はジョークだと思ってるだろうが異世界では本当に使えたんだからな!)」
~二軒目~
「結構歳いってますね……えっと、こんな感じの接客が得意だとかありますかね?」
「(おっ? これはあれか? オラオラ系とかオレオレ系とかそんな感じのヤツか? いや、オレオレ系はただの詐欺だけれども)
そうですね、俺様……いや、王様系。それも魔王様系が得意です!
(得意どころか魔王様ムーブが身に染み付いてるからな!)」
~三軒目~
「結構歳いってますね……えっと、あなたの魅力はどんなところでしょうか?」
「(おっ、今度はどストレートな質問がきたぞ? しかし魅力……魅力かぁ……)
魅力ですか?
もちろん体全体から発せられている全てが魅力、むしろ魔力だと思ってますが?
(異世界では魅了魔法も使えたしな!)」
四軒目、五軒目、六軒目……。
「フッ、どうやらこの世界では魔力の隠蔽が完璧すぎる俺の隠された力に気づく人間がいなかったらしいな……」
そもそもホストクラブの面接に魔力が関係するとも思わないけれども!
力なく肩を落とし絶望感に打ちひしがれる俺だった。
そんな、簡単に雇ってもらえると思ってたのに……思いも寄らず面接で惨敗してしまった俺。
なんかもう、お昼どころかおやつの時間だし、音が聞こえるくらいにお腹も空いてきたし。
地下街にある『ケンダマ』で串カツでも食ってとっととお家に帰るか……。
てかあれだけ偉そうに『大丈夫だ……問題ない』って言い切って、義妹からお小遣いまで貰ってこのザマとか、ヨウコに何て言い訳すればいいんだよ……。
「あ、追加で牛ヒレ……普通の串カツ三本と三元豚……普通の豚カツ三本お願いします!」
お小遣いが心もとないので注文をちょっとだけ節約、ヤケ酒ならぬヤケミックスジュースをグイッとあおる。
さて、腹が膨れれば心配事もある程度はどうでもよくなってしまう。そう、それが人間! わりと単純な生き物なのである。
……また腹が減ったらネガティブに戻っちゃう、それも人間なんだけどな。
と言うよりも飲み食いの支払いをして、店を出た所で財布の中身、借りた五千円(プラス、最初から入っていた三千円含む)の残りは既に八百円。
帰りの電車代を考えるとベルギーワッフル三個くらいしか買えない残金である。まだお腹いっぱいなのに……『明日からおやつとかどうしよう?』という、違う心配事で俺のグラスハートが早くも押しつぶされそうだよ……。
そんな『このまま帰るのは嫌でゴザル! 帰宅した妹の前で正座して説教されるのは勘弁してもらいたいでゴザル!』と、この世界の全てに心を痛めている俺ではあるがそこは異世界魔王の俺。
久々のシャバならぬ懐かしの日本、それも賑やかな繁華街とくれば足取りも軽くなるわけで。
目的もなく地下街を彷徨いあっちにふらふら、こっちにふらふら。
「さすがに十五年も経てば地下鉄の改札ですら改装されてて知ってる店なんて一割も残ってねぇな……」
『ヨドヤバシカメラ』は昔からあったけど『ラキュアOSAKA』なんて無かったよな?
まぁ一番驚いたのは『泉の精霊広場』に泉が無くなっていたことなんだけどさ。
泉の精霊広場から泉を取っちゃうって……それもうただの広場じゃん!!
ちなみに広場の真ん中には『リアルな動物人形の家族』のデカいのが飾られてるんだけど……これって小さいから可愛いのであってデカくなると結構不気味だよな。
てか異世界で似たような獣人を見たことあるわ……。
オッサン一人、いつまでも懐古に浸りながらウロウロしてても疲労以外に得られるものは無いので、そろそろ帰るかと(元)泉の精霊広場から踵を返そうとした俺。
うん、踵を返そうとしたんだけど――
「なんだこれ。かすかにだけど感じる……『魔力』?」
地下街の階段をのぼった先、距離があるので薄ぼんやりとしか感じられないが……それは確かに異世界ではほとんどの生物から発せられる、そして日本では何者からも感じることが無いはずの――『魔力』の気配だった。
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