第003話 魔王、就職活動を始める! その1
さて、そんな家族との感動の再会も何もあったもんじゃない混沌とした帰宅騒動から三日が経過。
あの後帰ってきた親父も『おっ? 珍しい奴が帰ってるな?』くらいの反応しかしなかった。
……たぶん義母から電話かメールで色々と言い聞かされた結果だろう。
義妹も含めた家族全員、俺が今まで何をしていたのか詳しく問いただしたいだろうに……えらく気を使われていることはこの三日間だけでもずいぶんと感じている。
まぁもし根掘り葉掘りと聞かれても本当のこと――『異世界で魔王をやっていました!』なんてことを信じてもらえるはずもないしねぇ?
文芸部でも演劇部でもなかった俺に十五年の長きに渡る物語、カバーストーリーなんて考えつくはずもないのでその心遣い、非常に感謝している。
もちろん家族全員俺に無関心とかじゃないんだよ?
義母さんとか毎食俺の好物を食卓に並べてくれるし、ヨウコも家にいる時は妙にくっついて座ってくるし。
「何よ」
「いや、ヨウコは可愛いなと思っグオっ!?
お前、暴力はやめろよ暴力は!!」
不穏な気配を感じたから取り繕って褒めたのに脇腹を手刀で突かれたんだけど?
てか甘えん坊の妹(二十八歳)って世間では普通なの?
出来ればその行為は俺が異世界に拉致られる前、彼女が十三歳の頃にして欲しかったと思うのは……贅沢な想いなのだろうか?
まぁそんなお客様扱いも、オッサンが部屋で三日も籠もってれば日常となるわけで。
平日の昼間っからゴロゴロ~ゴロゴロ~してるだけで、これと言って何も悪いことはしていないのに……と言うか『何もしていない』ということが非常に居たたまれなく感じてしまうわけで。
「そういえばあんた……この十何年、一体何の仕事をしてたのよ?
昭和のパチンコ屋じゃあるまいし、住所不定、住民票も取れないような身分証も無い家出男が働けるところなんて令和の……あんたが居なくなったのは平成か……何にしてもこのご時世じゃ見つからなかったでしょう?」
確かに今の日本では身動き取れないどころか補導待ったなしの年齢だったからな。もしも普通の家出だったなら、働き口なんて何もなかっただろうけどさ。
俺が呼び出された場所、セックス&バイオレンスがはびこる魔王領……いや、暴力は日常茶飯事だったけどセックスはそうでも無かったわ。
てか、魔族って一括りに出来ないほどいろんな人種がいたし俺みたいな人(ヒューマン)種以外は夢魔とか特殊な種族以外はものすごい性的に淡白だったわ。
暴力の方も慣れてさえしまえば昭和の教師体罰レベルの可愛らしいもんだったしな! 昭和、どんだけおっかねぇんだよ。
まぁそれでも飯屋の喧嘩で死人が出るような世界で、寝る時まで警戒心バリバリに働かせながら仲間と一緒に頑張ったんだよ?
「仕事の役には立たないくせにチ○○だけは立つ高校生男子……
はっ!? つまりあんたはパチンコ屋ではなくチ○○屋をしていたと!?
スタートチャッカーではなく働き疲れた寂しい女性の○○○に玉を入れていたと!?
くっ……この心の奥底から湧き上がってくるドス黒い気持ちは……嫉妬?
私、今ならこの妬み嫉みだけであんたを飼育していた○○嬢を殺せそう」
「目を血走らせながら何言ってんだこいつ……
どこのおねショタモノの薄い本なんだよそれは!
少なくとも未成年者が世間様に顔向けできないようないかがわしいことはしてねぇよ!!」
「それは本当かしら? なら私の目を見て『僕は綺麗な体の童貞です』って宣言できるわよね?
もしも一度でも使ったことがあったりしたら……そのぶらさがっているモノを切り落とすわよ?
チッ、やはり思い立ったあの時に足を切り落とし自由に動けないようにしておけば良かったかしら……」
うちの義妹がちょっと喪女を拗らせすぎてカイブツになりかけてるんだけど!?
まぁ……あれだ。これもきっとこいつなりの義兄に対しての照れ隠しというか甘えとかそういうのなんだろうけどもさ。何故なら、そう思って自分を納得させておかないと怖いから。
「まったく、俺以外の男の前で変な言うんじゃないぞ?」
もしも冗談の通じないタイプの男だったらドン引きされるからな?
「あ、当たり前でしょ!」
頭をポンポンとしてやると恥ずかしそうに頬をふくらませる義妹(二十八歳)。
これ、やってる本人は身内贔屓とかその場の勢いがあるからいいけど……端から見ればそこそこの地獄絵図だな。
だって仕方ないじゃん!
親父が再婚して可愛い義妹(十三歳)が出来た当時の俺、ちょこっとだけシスコンだったんだもん!
今はその言動にそこはかとない不安を感じるが……まぁ何年経とうが可愛い義妹には変わりないのである!
「いや、そんな呑気な事言ってる場合じゃなくてだな!
そろそろ俺、バイトでもパートでもいいから働くべきだと思うんだよ」
「そこに自分で気づけるとは……さすおにとしか言いようがないわね」
「雑な褒め方をありがとう。
しかし働くって言ってもなぁ……今の自分の能力(ちから)から考えると……
俺に出来そうなことなんて用心棒とか傭兵くらいしかないんだけど。
近所の縮緬問屋か会津藩邸で浪士の募集とかしてないかな?」
「うちの近所にそんなもの無いわよっ!
いや、あんたってそんな体力とか無かったわよね?
……もしかして○○嬢に毎晩ご奉仕しながら鍛えたとかかしら?
部分的に処す? ぶら下がってるモノだけ処す?」
だからどうしてこいつは俺がどこかで誰かのヒモをしてた、むしろヒモが出来たなどと決めつけてるのか?
数少ない昔の想い出を振り返ってみても俺が誰かにモテた記憶なんて無いんだけど? ……家にこいつの友達が遊びに来た時に笑顔で挨拶したら、凍りついたような無表情で顔をそらされたトラウマがフラッシュバックしたんだけど?
そんな俺が、よく知らない異性に十五年も養ってもらえると思って――
「……いや、ちょっと待て。
もしかしたら……それはアリなのではないだろうか?」
「えっ? 切り落としてもいいの?
でも、将来的に赤ちゃんは欲しいから先に搾り取って冷凍保存」
「そっちの話じゃねぇよっ!」
てか冗談が具体的過ぎて本気度が見え隠れしてホンコワだわ!
……そんな義妹のサイコパスジョークはさておき。
『女性に養ってもらえるほどの魅力』
確かに、日本から異世界に呼び出された当時の俺にはそんなモノはまったく無かった。自分で言ってて涙が滲んできそうだなコレ。
しかし、しかしである! 今の俺なら果たして……どうだろうか?
魔王として数十万数百万の民を束ねていた、成長した俺なら……女性を一人口説き落とすくらいの事は造作もない事なのではなかろうか?
そう、向こうでは『后』と呼べる相手こそ居なかったが、一人寝をしたことなど無い最強モテモテ魔王様だった俺なのだから!
まぁ大半は男女問わず、大部屋での同僚との雑魚寝だったわけだが。
「よし! 善は急げだ! ちょっとホストの面接受けてくる!」
「えっ? この期に及んでどうしてそんな発想が出てくるの?
あんたは……お兄ちゃんは私の部屋で私に介護されながらこれから暮らしていくのよね?」
「俺、とくに体の不調はうったえてないんだけどね?」
あと、『看病』じゃなく『介護』ってところに底しれない闇を感じる。
「だってさ、このまま一緒に暮らしていくとしても(お前が誰かと)結婚とかしたら……生活に困るだろ?」
「い、いきなり結婚……あんた……お兄ちゃんはちゃんと(二人の)結婚のことまで考えてくれてるんだ?」
「血はつながってないけど兄妹なんだから(妹の心配をするのは)当然だろ?」
「そうだね、血のつながってない兄妹なんだから(二人が結ばれるのは)当然だよね!
……じゃなくて! それでどうしてホストになるなんて結論になるのよ!」
「どうしてと言われても……なんとなく出来そうだと思ったから?」
お給料もいっぱい貰えそうだしな!
「何なのよその前向きなのか後ろ向きなのか投げやりなのか判断しにくい決断力は……
というか、あんたにホストはどう考えたって無理があると思うんだけど?
お兄ちゃんの最大の魅力は長い間一緒にいてこそ伝わる内面的なモノなんだからね?
あんたのルックスなんて低く見積もっても八十七……九十三点くらいしかないんだからさ」
「義妹の身内贔屓がすぎる……」
恥ずかしいから絶対に他所様の前では言うなよ?
自分で言うのも悲しいけど、たとえ『男が俺一人しか居ない世界』で見積もっても六十点くらいしか無いからな?
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