第6話「秘めたる決意」

 和樹の存在をはっきり認識したのは4月の終わり頃のことだ。落とした家族写真を和樹が一緒に探してくれたのだ。


 写真を落としたと気づいたとき、なぜか、必要以上に焦った。今の父も母も、よそに恋人を作って全然家に寄りつかず、もはや家庭は紛い物と化している。そんな人達が写っている写真を一枚落としたところで、どうということはないのに。


 写真を先に見つけたのは和樹で、どういう写真なのかと軽い口調で聞いてきた。


 秀哉としては煩わしかった。必要以上に人と関わりたくなかった。勉強だけしていたかった。だから、これ以上関わってほしくないという気持ちを込めて、家庭の事情を暴露した。ところが、鬱陶しがってくると思った和樹は、「数学ができるやつって格好いいと思う」と言ってきた。自分は数字を見ると吐き気がするくらい苦手だから尚更、と。予想に反しすぎる言葉は衝撃そのもので、秀哉は和樹の顔と名前を覚えざるを得なくなった。


 その後は和樹のほうから時々挨拶をしてくるようになった。中間テストの後でお互いの苦手科目を教え合ってからは、よく雑談を振ってくるようになった。


 面倒だったのは確かで、自分の用事を優先したことも、適当にあしらったことも多々ある。それでも一緒にいて、なんだか楽しかった。肩の力が自然と抜けていくようで、和樹の隣は居心地が良かった。初めて味わう感覚だった。いつ頃からか、和樹と話すことを、煩わしいとは思わなくなっていた。


 6月頃、学校からの帰り道で、突然和樹が「今実はセンニチコウを育ててるんだよな」と言ってきた。唯一と言ってもいい好きな花なので、興味が湧いた。


「へえ。なんで?」

「なんでって」和樹は困ったように笑った。

「なんとなくさ」


 なんとなくか。秀哉は納得して、それ以上話を広げなかった。


 季節は巡って2月14日のことだった。あちらこちらでカップルが成立している中、いつものように二人で下校しようとしたら、途中で和樹が辻野というクラスメートの女子に呼び止められた。

 先に行っているよう言われたが、こっそり尾行して、二人のやり取りを物影から覗いた。気になってしょうがなかった。別に和樹に彼女ができてもこちらに何の支障もない。けれど、もしそうなったら、と。どうするつもりもないのに、どうしようと思ったのだ。


 和樹は辻野の告白をはっきり断った。そこで、和樹に好きな相手がいることを知った。全然知らなかった。誰だろうと思ったが、他人に興味を持ちづらい自分に予測できるはずもなかった。


 戻ってきた和樹と帰る途中、「そうだ」と突然和樹が鞄からラムネを取り出した。


「あげる」

「なんで?」

「ブドウ糖がいっぱい入っているから。秀哉はいつも勉強ばかりしているから、必要だろう?」


 どうも、と簡素に返して、ラムネを受け取った。


 2月14日に貰ったラムネは、毎日一粒ずつ食べた。一気に食べたくなかった。なくなってほしくなかった。最後の一粒を食べ終わった後、空っぽになったラムネの容器を見ながら、秀哉は和樹に電話した。


「和樹。今、2月に貰ったラムネ、食べ終わったんだけど」

『遅すぎじゃない?』

「あの。これ貰った日って、14日だったじゃないか。14日に、お菓子、渡したって、そういうことか?」


 一呼吸の置かれた後。はは、と柔らかい笑い声が耳に届いた。


『そういうことだよ』


 電話を終えた後、秀哉は椅子の上で2時間以上ぽけーっとしていた。


 了承はしなかったが、断る気もなかった。和樹はそれを都合よく解釈したようだ。いつの間にか付き合っていることになっていた。嫌ではなかったので、訂正は一度もしなかった。付き合うようになってから、一緒にいる時間がもっと増えた。そして、和樹がこちらを見てくる目が変わった。


 目も、言葉を話すのだと知った。秀哉のことが大切だという、優しい眼差し。恥ずかしいぐらいに真っ直ぐなので、わかりやすい。家族ですらしてこないのに、家族以外の赤の他人からこんな目を向けられるとは想像もしたことがなかった。


 そういう目で見られたとき、秀哉はいつも目を伏せるか逸らしていた。迷いなく飛んでくる球を受け止める方法がわからなかった。返すこともできなかった。自分は、和樹に同じ目を上手く向けることはできなかった。


 付き合ってから最初の年も、次の年も、そのまた次の年も、和樹は毎年必ずセンニチコウを育てた。あるときどうしてか聞いたら、「それ、言わせるのか?」と照れた。


「好きな人が好きな花を、育てたいと思うのは当然だろう?」


 聞いた直後、秀哉は持っていた鞄を地面に落とした。


 慌てて鞄を拾いながら、秀哉は動揺が一周回って、捻くれたことを考えた。

 育てると言ったって、いつまで続くのか。自分のような変わり者と上手く行くわけがない。


 和樹は高校デビューでメッシュを入れてから、一気に垢抜けた。美容の世界に興味を持ったのか、服装や持ち物などが洗練されていった。外見を整えれば、人の目も惹きやすくなる。和樹は男女ともに人気で、特に女子からは、凄まじくモテモテというわけではないが、二ヶ月か三ヶ月に一、二回は告白されていた。


 普通ではない自分といても得るものはないと、いずれ気づくだろう。和樹は近い将来、秀哉と過ごす時間より楽しいものを見つけるといつも言い聞かせながら、秀哉は日々を過ごした。


 そうこうする間に高校を卒業した。和樹は美容の専門学校に、秀哉は第一志望の難関大学に合格した。両親には短く報告した。母は手のひらを返し、周りの人に言わなくちゃと張り切り、あなたみたいなのにも居場所があって良かったわねと言った。父はたいした反応をせず、ただこれで社会で生きていけそうだし良かったな、と言われた。


 一応和樹にも報告した。和樹はお互いの合格をお祝いしようと言って、友人達との卒業パーティーの予定を蹴ってやって来た。贅沢に二人で分けたホールケーキは、今まで食べたどのケーキよりも美味しかった。


 その後、和樹とは別々の進路を進んだ。通う学校が完全にわかれたので、これは自然消滅待ったなしだと覚悟しながら大学に通った。


 が、なぜか和樹との繋がりは途絶えなかった。むしろ進路がわかれた気がしなかった。お互い一人暮らしするようになってからしょっちゅう家を行き来するようになったからだろう。


 秀哉が大学を卒業する少し前、もういっそ一緒に住んでしまおうと和樹から提案された。よく考えずに頷いてから、重大さに気づいて一人で焦った。大丈夫なのか、と思った。上手く行くのか。いや行くわけがない。今までだって数え切れないほどの小競り合いや衝突があったし。こんな、普通ではない自分が、人と暮らせるわけがない。


 そうして、別のマンションに引っ越して、同じ屋根の下で生活空間を共にするようになった。喧嘩はよくしたが、それまでと変わらない頻度だった。奇妙なことに、一緒の生活は上手く進んだ。普通でなくても、人と暮らせるのかと思った。お互いのするべき仕事と家事をこなしながら、同じ時間と空間を共有する。感情を、体験を、意見を分かち合う。簡単そうで、どんな難問よりタチの悪い問題に対し、上手く向き合えていた。


 しかし。それは錯覚だったのだ。やはり駄目だった。こんな自分では、上手く行くわけがなかったのだ。その結果があの日、最悪な形となって証明された。



 

 


 立ち上がろうとしたが、上手く立ち上がれなかった。秀哉はその場にへたり込んでいた。


「死ぬ、って……」


 13歳の、まだあどけなさの残る和樹の声が降ってくる。


「どういう、ことだ?」

「……些細な言い争いがどんどん大きくなっていって、かなり深刻な状態になったんだ。俺は勢い余って、こんな俺のいる場所に居続けたって意味がないだろうって言い放った。直後、お前は家を出て行った。もう、戻ってこないだろうと思っていたら……。お前は本当に……信号無視の、車に轢かれて……」


 そうだ。思い返せば本当に小さいことで喧嘩した。それが思いのほかエスカレートしてしまって、双方の矛を収める機会を失ってしまった。


 きっかけは、和樹が同窓会に行ったことだ。初恋の相手だったという、都築 咲良の話を出してきた。その話を聞いたとき、秀哉の中で抱えていた気持ちが吹きこぼれた。


 やはり和樹は“普通”になりたいのだ、と。覚悟していたはずなのに、あらゆる負の感情が襲ってきた。秀哉は言ったのだ。


「もう我慢しなくていいんだぞ和樹! お前、どうせ俺と出会ったせいで不幸になったって思ってるんだろ……?!」


 あそこまで喧嘩が大きくなったのは初めてのことだった。言い争いが一瞬途切れて沈黙が流れた後、和樹が外に出て行ったとき、もう戻ってこないのだろうと思った。


 本当に戻ってこなくなるなんて、思ってもみなかった。


「詳しい、話を、聞いたら。お前は、センニチコウの種を買いにいった帰りに、事故に遭ったって」


 震えが止まらない。あのときかかってきた警察からの電話の音が、耳のすぐ傍で泣き喚いているようだ。


「……そうか」


 静かな声がした。絶望的な未来を宣告された当事者とは思えないほど、冷静な声色だった。


「死ぬのか。俺は、15年後に」

「……正確には、意識不明の重体だ。けど、本当に危険な状態だ。医者からも絶望的なことを言われた。仮に回復したとして、手を怪我しているんだ。障害が残るかも。仕事ができなくなるかもしれない」


 死んでも、生き返っても、どちらの道も暗闇しか用意されていない。だから秀哉は、思い立ったのだ。和樹の道そのものを変えようと。趣味で作っていたタイムマシンを、今こそ使うときが来たのだと。


「だから。頼む、和樹」


 秀哉は立ち上がれないまま、膝立ちで和樹に近づき、両肩を掴んだ。


「俺、と。俺と、付き合わないでくれ。絶対に、駄目だ。駄目なんだ。頼む……」

「……」


 和樹はすぐに答えなかった。最小限の動きで、肩を掴んでいる秀哉の手に触れた。


「一つ聞かせてくれ。なんで、事故の前にタイムスリップしなかったんだ?」

「……最初はそうしようと思った。でも、事故を防ぐだけで本当にいいのか、と思った」

「どうしてだ?」

「俺といる限り、お前は不幸になるからだ……! 和樹、お前の母親が未来でどうなっているか知っているか? 絶縁されているんだよ、お前は……! 俺が、俺が原因で!」


 和樹の顔色が、さっと変わった。手が離れ、うそ、と口が動く。


 秀哉だって、嘘であってほしい。しかし、真実だ。


 二年前のことだ。秀哉との関係を母さんにちゃんと言おうと思う、と和樹が言ってきた。

 秀哉は止めた。両親は離婚して、すっかり放置されている自分ならともかく、和樹は母親と良好な関係を築いている。わざわざ波風立てる必要はないと言った。だが和樹は頑なだった。


「もう彼女や結婚について急かされるのが嫌になった。催促そのものもそうだし、今は考えていないからってその度に言い張る自分自身に。だって本当はちゃんと大切な人と一緒にいるのに」

「……認めてもらえるとは思わないぞ」


 和樹は希望を胸にしていたようだが、秀哉には確信があった。

 二人で母親に話しに行ったら、案の定の結果が待っていた。

 話を聞いた直後、和樹の母親は話を信じなかった。冗談だと捉えていた。実は和樹と合いそうないい子がいるんだけど、と見合いの相手を紹介しようとした。


 和樹が本当のことを言っているとわかると、途端に、顔色が変わった。


 一途に人を愛するようにって言ったのになんでこうなるの、あんたも母さんを裏切るの。

 そう訴えながら、わあわあ泣いたのだ。しまいには、和樹の幸せを願っているなら和樹と別れて下さいと、秀哉に土下座してきた。


 秀哉は、船酔いのときと同じような感覚を抱いた。和樹の幸せを願っているなら。その言葉だけが、回る頭の中で、吐き気を誘発するほど渦巻き続けた。


 その後、和樹は何度か母親のもとへ出向いて、認めてもらえるよう説得を試みていた。

 だが四回目の説得から帰ってきた和樹は、ひどく疲れたような、悲しげな笑顔で、絶縁された、と言われた。何も言えないでいると、「大丈夫」と真っ直ぐ目を見つめてきた。


「今は混乱していて、冷静な判断ができなくなっているだけだ。俺は諦めない。母さんは一途に人を愛するよう言ったけど、一途に女の人を愛するようには言わなかった。俺がずっと一人を想い続けたこと、きっと、わかってくれる日が来ると信じてる」


 その場では、秀哉は当たり障りのない返事をした。しかしこう思っていた。そんな日は決して来ない、と。


「……そんな。母さんが」


 まだ母親と仲が良い13歳の和樹は、呆然と呟いた。


「俺が女だったら受け入れられていたかもしれない。あるいは、俺がこういう性格じゃなければ受け入れられていたかもしれない。だけど俺は男で、こういう中身だ。受け入れられないのは、全く以て普通のことだ」

「秀哉、昨日、母さんに凄く気に入られてたのに」

「……嬉しかったよ。俺を前にしているのに、ずっと笑顔でいてくれた」


 秀哉の時間軸では、考えられない態度だった。もとの時間軸では謝ることすらできなかったから、せめてここではわずかでも謝罪に代わることができればと思って、家のことを手伝った。


 母親の、明るくて屈託のない笑顔を向けられている間、胸が痛くて痛くて、息をするのが辛かった。


「……秀哉、大丈夫か? ひどい顔色だ」


 痛い。ずっと痛い。痛くてたまらない。


 タイムスリップが成功して、過去の和樹を、生きている和樹を目にした瞬間、涙が零れそうになった。テンションをおかしくさせていないと、赤子のように泣きじゃくりかねなかった。


 昨晩、和樹が突然手を握ってきたときもそうだ。

 時々秀哉は寝付けなくなる夜があった。父は普通の会社員で、母は普通の主婦だったのに、どうして自分は普通の子供ではなく生まれてきたのかと。普通だったら、どうなっていたのだろうかと。ふいに考え出して、そのまま目が冴えていくのだ。


 そういうとき、和樹はいつも手を握ってくれた。何も聞かず、言わず、ただ隣にいてくれる。そのときの温度と、昨晩の和樹の手の温度は、全く同じ温かさだった。


「……お前と過ごす時間は、いつもあっという間に過ぎていった」


 ゆっくりと、秀哉は和樹の肩から手を離した。


「最初に会ったとき、俺への不満だって、一人の時間を取らせてくれないって言ってなかったか?」


「ああ言えば印象が悪くなると思った。どうしても研究を優先させたいときもあったけどな。でも、大体が誇張だ。和樹と一緒に、見て、聞いて、嗅いで、触れて、味わったものは、全てが俺にとって絶対になくせない、大切なものなんだ。和樹は俺に、勉強とセンニチコウ以外の大切なものを、たくさん増やしてくれた。与えてくれた。けど俺は、お前に何一つあげられなかった。本当ならもっと早く別れるべきだったんだ。でも言い出せなかった。本当にすまなかった」


 始めから、都築 咲良と付き合うように言えば良かったのだ。なのに一番最後まで取っておいたのは、彼女と和樹が付き合う未来に変わってしまうのが嫌だと思ってしまったからだ。


 だが、そんなちっぽけな我が儘に従うつもりは毛頭なかった。和樹が死ぬより嫌なことなんて、この世にあるわけがない。


 和樹が都築 咲良と上手くいっている様子を見たとき、これで死の運命を回避できたと、安堵から勝手に涙が零れ落ちた。それなのに。


 秀哉は、和樹の目を見て言った。


「和樹。わかっただろう? 俺と付き合うと、お前は“普通”を失う。幸せを失う。母親を失う。命までも失うんだ。悪いことは言わない。これが和樹の人生のためになる。どうか、俺と付き合わないでくれ。決して関わらないでくれ。俺を、好きにならないでくれ……」


 どうか、と。深く、頭を下げる。

 そよぐ程度の風の音が、妙に大きい。何重にも響いて聞こえる。目が回る。今自分は息をしているのか。


「ああ。わかった」


 和樹の、はっきりした滑舌の返事が届いた。


「今はっきりわかった。やっぱり俺は、あんたが好きだ。この時代の秀哉も、好きになるに違いない」


 秀哉は目を見開いた。決して底の存在しない谷に落ちていくようだった。


「なんで」


 手足が冷たい。顔は熱い。脳は焼けただれそうだ。鼻が痛い。視界が歪む。


「なんで! なんでそうなるんだ! 死ぬって、死ぬって言っているのに、どうして!」


 秀哉はぼろぼろと泣いた。決壊した涙は、どんどん勢いをつけていった。


「さっきタイムマシンを調べてわかった! 機体に負担がかかっている、もう時間逆行はできない! 未来を変えるのは今が最後のチャンスなんだ! 和樹、俺の言うことを聞けっ! 頼むから、お願いだから……!」


 秀哉は和樹の肩を掴んで激しく揺さぶった。和樹はされるがままになっていた。秀哉を見つめる目は落ち着き払っていて。動じなかった。


 その中に、温かさが混じっていた。秀哉が何度も見てきた目、大切なものを見つめてくる目だ。


 なんで。秀哉は揺さぶることすらできず、ずるずると手を滑り落とさせた。なんで、そんな目で見つめてくるのか。


「全部承知の上だ。母さんのことも、死ぬことも、全部わかった上で、こう言っているんだ」


和樹は、秀哉の右手を、そっと両手で包んだ。温かかった。その体温は、和樹が今この瞬間を生きていることを知らせていた。秀哉はぽとりと、その手に涙を落とした。


「でももう、好きになってしまったのはしょうがないだろ。俺はな、これから先、何が起こるかわからない未来を、隣に立ってずっと見続ける相手が、秀哉だったらいいなと思ったんだ。早くこの時代の秀哉と知り合いたくてしょうがなくなっているし、その秀哉が大人になって、“あんた”になるところも見たい。秀哉と一緒に成長していきたい。秀哉と一緒に、未来を歩んでいきたい」


「そんな期待をされても、俺はお前に何も渡せていない! 返せていない! あげられたのは、普通じゃないっていう不幸だけだ! 喧嘩も多かったし、本当ならその喧嘩の度に別れるべきだったのに、仲直りしてきてしまったから。俺は和樹に犠牲を強いてばかりなんだ!」


「俺は知らないけど、でも自分のことだからわかる。未来の俺は、そこも全部含めてわかった上で秀哉と付き合い続けているって。喧嘩だって仲直りだって、全部自分の意思だ。小さい子供じゃあるまいし、そんな自我のないやつじゃない。それは、あんたが一番よく知っているだろう?」


 すると。和樹の両手が、秀哉の手から離れた。離れた両手は、今度は秀哉の頬を包む。こつ、と、秀哉のひたいに、和樹のひたいがくっつかれる。


「ありがとう、秀哉。この人生の中であんたに会えて、本当に良かった」

「か、ず」

「今、自分自身に誓った。――秀哉、聞いてくれ。ちゃんと覚えるんだぞ。0、4、0、2。紺色の読書ノートの鍵の番号だ。戻ったら、開けてみてくれ」


 0402。それは、秀哉がタイムスリップしてきた日付だった。

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