最終章 皇帝の溺愛する花嫁が、負け確定イベントを回避した元モブ暗殺者だった件。
0-1 未来の選択
「君がなぜ、このセカイにおいて特別だったのか、知りたいでしょう? 知りたいよね? ぜひとも教えてあげよう!」
自己紹介で自身を"カミサマ"と名のった青年は、土下座していた頭を上げたかと思えば、地面に正座したままの状態で訊いてもいないのに勝手に話し出した。
「え? ええっと····俺は別に」
正直、もうそれに関しては特に興味がなかった。
このひとが教えてくれようとしていることって、
エンディング後に明かされるって言ってたやつ。
「名前、だよ。彼女が最初に君に決めさせたこと。あの時から、
「あれはあなたの仕業だったんですね。どうりでおかしいと思いました」
眼鏡の白いスーツ姿の女性が呆れた声で呟く。彼女が言うには、ナビゲーター00もまたその瞬間から独立した存在になり、他のナビゲーターから認識できないようになったらしい。
「せっかくボクが、黒幕の存在をそれっぽく煽ってあげてたのに。その正体が
白いパーカーの少年が、褒めてるんだか貶してるんだかわからない言い方で、後ろから青年を見下ろしていた。やっぱり、本物の神様ってこと?
「あはは。カミサマとしては、これくらい朝飯前といいますか。謝罪もしたことだし、あの日なにがあったのか。君たちに起こったこと、今からざっくり説明させてくれるかい? 」
まさか神様に謝罪(土下座)されるとは、夢にも思わなかったけど。
それはすごく聞きたい。
この転生は、いったいなんだったのか。
エンディングを迎えてしまった俺たちが、この先どうなってしまうのかも。
「単刀直入に言えば、あの事故は予定外のものでね。まあ、私がちょっとあの土地から離れている間に起きた、まさに不慮の事故というやつで、」
「正直に言った方がいいですよ? ちょっと離れていた? 職務怠慢ですよね? 土地神が自分の領域を離れるとか。しかもその理由があれじゃあ、ねえ?」
はあ、と嘆息して可愛らしい少年が肩を竦めた。その言い方は皮肉っぽく、でもどこか面白がっているようにも思える。
「我らが主におかれましては、自由気ままな性格ゆえ。その前科は数えきれないほどありますが、このような事態になったのは初めてでしたので、情状酌量の余地は無きにしも非ず」
「そこははっきりいっていいと思うけどね。変な女に騙されて連れ回された挙句、監禁されてるのにも気付かないでへらへらしてたって」
白い執事服の青年が主をフォローしたのに対して、白いパーカーの少年がすべてを台無しにした。
「監禁されてたのに気付かないで、へらへらって····大丈夫か、このひと」
ぽつりと、
事故が予定外で、起こるはずがなかったものだったとしても、起こってしまったわけだから取り消すことなどできない。
「まあ、過ぎたことは仕方ないよね。最悪の事態になる前には戻れたけど」
「そうだとしても、あなたがそれを言うのはどうかと思いますが、」
白いスーツ姿の女性が眼鏡をすっと上げて淡々した声で言った。過ぎたこと、というワードに反応したようだった。もしかして、俺たちのことを気にかけてくれているのだろうか。
「あの事故は起こるはずのないものだった。だからあれは私の責任と重く受け止め、巻き込まれたひとたちにはそれ相応の
お詫び?
「当然の報いです」
「そもそも今回の件に関しては、自業自得ではないでしょうか」
「偉そうに言わないでくださ~い」
「みんな、私に厳しくないかい?」
報い? 自業自得?
俺は首を傾げて四人の話に聞き入っていた。詳しく訊こうにも、このひとたちの会話に割って入る勇気はなく、俺たちはお互いの顔を見合わせてただ立ち尽くしていることしかできない。
「だからそのお詫びとして、全員の"お願い"ちゃんと叶えてあげただろう? 君たちは三人まとめていけそうだったから、効率が良くて助かったよ。巻き込まれた全員にこうやって土下座して回っていた私を、少しは褒めてくれてもいいと思わない?」
え、俺に言ってるの?
にっこりとはしているが感情がわからない笑みを浮かべられ、動揺する。
「····神様なのに、大変ですね」
緊張しすぎて、俺はそんな言葉しか浮かばなかった。笑顔も引きつってしまう始末。
けれども自称カミサマは、ぱあっとわかりやすく明るい表情で見上げて来たかと思えば、すごい勢いで立ち上がり、俺の右手を取って両手で握りしめると、「わかってくれて嬉しいよ!」とキラキラした瞳で見つめてきた。
ま、まぶしい!
綺麗な顔だが、どこか抜けてそうな青年姿の神様。騙されて、のくだりがなんだか納得できてしまう。最初に感じた胡散臭い印象がなくなったわけではないが。
「君のことはずっと観ていたから、よく知ってるよ? そこの君の性格も把握済みだ。ふふ。睨まれたって離してあげないもんね~」
うわぁ····
「と、まあ。冗談はこれくらいにして、これからの話をしよう」
手は握りしめたまま、話を続けるつもりのようだ。ひんやりと冷たいのかと思ったら、ちゃんと温度がある。夢でもマボロシでもなくて、じゃあこの状況はなんなのだろう。これからの話。なんだか聞くのか怖い。
「さっきも話した通り、あの事故は起こるはずのなかったもの。それを色々とこちらの都合で修正して、君たちのお願いを叶えている間になかったことにしたんだけど、巻き込まれた者たちにお詫びをして回っていたら、貴重な意見をいただいてね、」
ん? 今、さらっとすごいことを言っていたような。なかったことにした、って。あの事故自体を?
「現状維持を望む子がいて、その子はこのままでいいって言うんだ。しかもひとりだけじゃなくて何人も。現実セカイがそもそも嫌だからこの架空のセカイにいたいんだって。まあ、私は別にかまわないんだけどね。架空のセカイでも寿命は設定しているから永遠じゃないし、いつかは終わってしまうものだから」
誰しもが現実セカイに未練があるわけじゃなくて、寧ろ自分たちに有利に創られた新しいセカイで、生きていく選択をしたってことかな。
「君たちの願いをベースに創ったこのセカイは、エンディングという概念があったから終わってしまったけど、望むのならこの先の未来、"つづき"を楽しむこともできるし、なんなら"はじめから"やり直すことも可能だよ」
なんとなくだけど、なにが言いたいのかわかった気がする。
俺たちにも選択のチャンスを与えてくれるってこと、だよね。
「ただし、三人の意見の総意が必要だ。このセカイは三人のものだからね」
そういえばゼロが言っていた気がする。
『————それにより、エンディング後の分岐が発生することが判明しました。その分岐選択は、転生者全員の意思による選択が必須条件となります。つまり、三人の総意が必要なのです』
もしかして、今がその時ってことなの?
眼鏡の女性と視線が重なった。小さく頷く彼女は、俺の考えていることがわかっているかのように思える。
「ということで、扉を用意したよ? ひとつは創造されたセカイで生きていくための扉。もうひとつは現実セカイに戻るための扉。三人でよく考えて決めるといい」
カミサマはやっと手を離してくれたので、俺は内心ほっとする。
カミサマと他三人は、一瞬にして俺たちの傍から距離をおいた。俺たちは、ふたつの扉を前にして無言になる。
「キラさんはどう? 俺はもう決まってるけど」
「私? 私ももちろん決まってるわ。
キラさんと
俺は小さく頷いて、ふたりもきっと同じ気持ちだと確信する。
「俺も、決まってる」
俺たちの未来は、この扉の向こう側にある。
なにかひとつでも欠けていたら、巡り会えなかった不思議な縁。
そんな俺たちの、最後の選択。
「答えは決まったかな。では選ぶといい。君たちの未来を」
俺たちの、
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