5-9 永遠の誓い
恋愛イベント当日。
(いや、なんでこいつらまでいるんだよ····エンディング前に全員集合、とまではいかないけど、必要ないだろう!)
そもそも事情を話した
『いいんじゃないですか~。ボクたちも情報が真っ白なので、なにが起こるかさっぱりなんですよね。この展開も回避不可です』
ナビはその発言の通り、まったくやる気がないのがわかる。
結果として、
赦されることではないが、反省しているひとに対して挽回のチャンスを与えないのは違う気がした。
「ハクちゃん、これ差し入れだよ。特別に作ってもらった
それって中秋節の時に食べるってやつだよな。このゲームの設定上、そういう季節行事的なものはないはず。
俺はそこまで詳しく調べていないから、この程度の知識しかないけど。
「あ、ありがとうございます。
「うそでしょ? 君ってやっぱり変な子だよね、」
嬉しそうに箱を受け取った
同じくらいの身長だが、少しだけ
「ハクちゃん、大人気だね····
キラさんは俺の顔を見た途端、うわぁ····という表情を浮かべた。
にこにこと顔面だけは笑顔でいたつもりだが、やはりわかるひとにはわかるらしい。心の狭い俺には、この状況はかなりキツイ。
「
淡々と
「
「まったくその通り。兄上に飽きたら、俺と結婚してくれる?」
「え? え?」
両手をそれぞれに握られ、真ん中で
「ふたりとも、いい加減に、」
「す、すみません。俺、
俺の台詞にかぶって、
「馬鹿だな。冗談に決まってるじゃん。ホント可愛いね、
「俺は冗談じゃないけどね、」
お前はそうだろうな。
絶対に阻止するけど。
「ハク、行くぞ。お前たちはさっさと自分の宮殿に帰れ」
俺はふたりの手から
あいつら、無駄に顔がいいから
「ハクちゃん、
「成功をお祈りしております」
恋愛イベントは、本来プレイヤーが一番楽しみにしているイベントだ。攻略対象であるヒロインの好感度を上げるためだけじゃなく、そのイベント自体がゲームの印象を決める大事なものなのだ。
キラさんはいつも通りで、
王宮の庭園は
夕方近い時間帯。空が朱色に染まり出した頃。俺たちの考えはどうやら合っていたようだ。時間帯まで一緒だなんて。もう、確定だろう。
「はあ。なんだか、どきどきする」
手は繋いだまま、俺に連れられる形で
いつもの白と赤の漢服。髪形はハーフアップだが、両サイドが綺麗に三つ編みにされており、上の方を纏められて作られたお団子がひとつ。そこに赤い髪紐飾り飾られていて、歩く度にふらふらと飾りが揺れた。
「この先だ。ほら、あの建物の奥に緑が見えるだろう? 庭園は木々に囲まれていて、俺たちの知る公園にそっくりだった。昨日、
「····じゃあ、やっぱり」
『情報が更新されました。恋愛イベントのクリア条件についてお伝えします』
ゼロに続くようにナビが「はいはーい」と声を上げて主張した。
『
ごにょごにょの部分は画面にしっかり記載されているが、読み上げるのはどうやら難しいようだ。
(そこは変わらないんだな····)
でも、俺たちの準備は十分できている。なんならここまで我慢した俺の理性を褒めてやりたいくらいだ。
もしクリア条件が変わらなかったら、どうするか。それから一緒に準備を進めてきた。準備っていうのは、その、
お互いはじめてのことだから、わからないことだらけ。
俺は今まで読んできたBL本のおかげで、なんとなくどうしたらいいかわかっているつもりだ。
でもいざそれを前にした時、ちゃんとできるかはわからない。だってそうだろう? 好きなひとと最後までするなんて、緊張するに決まってるし。
「行こう。俺の誓い、もう一度
「····うん、」
小さく頷いて、それからゆっくりと赤い瞳を開いた
だからこそ、余計に考えてしまうこともある。この恋愛イベントを改変してきた未だ見ぬ"絶対的な存在"のことを。
ナビゲーターたちが言っていたように、この転生の意味とはなんなのか。
俺たちの願いが元になっているのなら、確かに最後の恋愛イベントのクリア条件も納得がいく。
だってこれは、俺の願いだから。
あの時。
俺が願ったこと。
(
キラさんが言った通り欲に
庭園に入ると、ナビたちが位置情報を表示してくれた。イベントが発生するのは庭園の奥、
茂みに隠れていた秘密の抜け穴を見つけ、俺たちは地面に膝を付いたまま顔を見合わせる。
「俺は、なんとか行けそうだけど、」
「やろうと思えば、できないことはない」
とにかく、そこが発生場所なら行けないはずはない。
四つん這いになりながらなんとか狭い穴を抜けると、そこにはあの日のまま取り残された、俺たちの秘密基地があった。
秘密基地、といっても子どもが作ったハリボテ。布やら木の枝などを集めて作られたテントみたいなもの。
その周りには、木で作られた歪な剣の他にお菓子の缶だろうか。見覚えのある綺麗な小さな箱が落ちていた。
立ち上がるのは難しい場所で、俺たちはその場に座る。
いつか大人になった時に、一緒に開けようと約束したんだけど····。
「俺たちが作った秘密基地、この箱もぜんぶ、元のセカイにはもうないんだよな」
「····そうだね。開ける前に秘密基地ごと撤去されてたから、」
寂しそうに、そして懐かしそうに膝の上に缶をのせて、
俺たちはあの時の約束さえもなかったことにされたのだ。公園が部分的に整理され、俺たちが遊んでいた場所はいつの間にか花壇になっていた。
「
「開けてみればわかるよ。そこにぜんぶ書いてあるから。でもその前に、」
俺は
「"大人になったら、俺のお嫁さんになって"」
その意味もわからず、お嫁さんにすればずっと一緒にいられると思っていた俺が、あの時
「····"うん。俺、
それに対して
「あの時、すごく嬉しくて····小学生くらいまでは、いつか
箱を開け、入っていた可愛らしい絵柄のメッセージカードを取り出す。そこに書かれていた文字に、俺たちは見つめ合って同時に微笑んだ。
『はくとがいつも、おれのそばでわらっていられますように』
『かいりとずっといっしょにいられますように』
俺たちの願い。
今も昔も変わらない。
「
用意していた言葉はぜんぶどこかへ消えていった。けど、伝えたいことは最初からひとつだけ。
「俺と、結婚してください」
〜お詫び〜
次回『5-9.5 永遠の誓い』は、カクヨムさん規定により非公開とさせていただきます(¯―¯٥)
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