番外編3 髪を結う幸せ
まだ太陽も昇らない、薄暗い時間。従者たちはすでに動き出していたが、まさか皇子が徘徊しているとは思っていなかったようで。何人かにわかりやすく驚かれてしまった。
こんな時間から向かう場所。
それはもちろん、
色々あって主人公の
そう、隠しルートは中華風BLルート。本編は中華風乙女ゲームだが、この隠しルートではちょっと仕様が異なるのだ。
声をかけるでもなく、そっと扉を押す。朝が苦手な
「
「は、
「
ちなみに、
そのおかげで、俺は
「はい、これです。ちなみに俺は読んでいないので、安心してください」
見上げられるとその可愛らしさに心臓が無駄にばくばくする。ただでさえ嘘を付いて部屋に入ったという罪悪感もあり、動揺して余計なことを口走ったらおしまいだ。
『
キラさん····?
三人とも事故でおそらく亡くなり、なんの縁か同じこのゲーム内のキャラに転生しているのだ。
「
「あ····えっと、着替えの手伝いと君の髪の毛を結ってあげて欲しいと、書いてあった」
「は?」
寝間着の白い単衣だけ纏っている
「ほら、ここ。身体を拭いて、用意している衣裳を着せて欲しいと書いてある」
二枚重なっていたメモの二枚目にやって欲しいことが書いてあった。ちなみに余計なことが書いてある一枚目はくしゃりと潰して袖に隠した。
「そ、それは自分でできます! か、髪の毛だけ····お願いします」
「え? いいの? 嬉しい」
「あっち、向いててください」
俯いて"あっち"を指差した
男同士なのに着替えを見られるのが恥ずかしいなんて、乙女か! と思ったが、逆に助かったかもしれない。
(やばい。衣が擦れる音だけでもなんかやらしいんだけどっ)
どきどき。
なんだこれ、新手の拷問? 想像しちゃうだろ。
俺はもんもんとしながらなんとかこれに耐え、「もう大丈夫です」という声が背中にかけられたことでようやく解放される。
振り向くと、不器用ながら着付け終えた
すごく気になったので衣の合わせ部分を整えてやると、「あ、すみません」と
「じゃあ、そこに座って? 簡単な結び方で良かったら私でもできるから」
「···それじゃあ、
俺と同じ? ただのポニーテールだけど、それでいいのだろうか?
いつもはキラさんが時間をかけて結っているのを知っている。可愛らしくサイドを三つ編みにして後ろでハーフアップにしていたり、お団子を作ってあげたり。様々だ。
あのひと、どこであんな技術学んだんだ?
椅子に座らせ、その後ろに立つ。触れた白銀髪の髪の毛は柔らかく、綺麗だった。木の櫛で丁寧に梳く。撫でるように、優しく触れて纏めていく。
「今更ですが····こういうのって、皇子様がすることじゃないんじゃ」
「気にすることはないさ。なんなら私にはご褒美だよ?」
「え、ええっと? ····どういう、意味で?」
いや、そのままの意味なんだけど。
もうちょっと言葉にしてあげた方が自覚してくれるかな?
俺は
「たとえば、こうやって無防備な君に触れられるのも役得だし。普段見られない場所を間近で見られるのも、私にとってはご褒美だよ」
耳元で囁くようにそう言って、結い終えた髪の毛から手を離した。表情は見えないけど、
「これで完成だ。我ながら完璧。鏡で見てみる?」
はい、と丸い手鏡を手渡すと、鏡越しに白煉の表情が見えた。
「·······ありがとう、ございます」
めちゃくちゃ嬉しそう! はにかむような笑顔がまたたまらないんだがっ⁉
「おそろい、ですね」
鏡越しに映った
おそろい。
同じ髪形が嬉しいってこと?
やばい。
抱きしめたい。
(いや、だめだって! 絶対、
ここで理性を失って、先走ったら最後。ヒロインに引かれるか嫌われるに決まっている。俺はなんとか葛藤を抑え、ふっと口元を緩めた。
「お気に召しましたか、お嬢さま?」
恋愛イベントは明日。
少しは
鏡越しに見えているその表情は、いつもみたいに困ったような笑みを浮かべていたけど、ほんの少しだけ柔らかく見えた気がした。
番外編3 髪を結う幸せ ~完~
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