第五章 制限が解除されたので、もう好きにやっちゃいます!
5-1 制限解除
『おめでとうございます。あなたの
ゼロは淡々といつものように文章を読み上げる。俺はというと、自室で丸い机に頬杖を付いて目の前に浮かぶ薄緑色の透明な画面をじっと見つめていた。ずっと不思議だったことがある。どうしてゼロはあんなことを言ったのか。
(あのメインイベントが荒れること、ゼロは初めから知っていたみたい。じゃなかったら、あんなアドバイスしないよね?)
それは、本来のメインイベントとは異なることで、
というか、やっぱり
『その質問に関しては、本人に訊いてみてはどうかと。ペナルティの概念がなくなったので、答えられる可能性も高いでしょう。また、すでに本編と現在の状況が改変されているので、本来のハッピーエンドとは異なる可能性も十分あり得ます』
そ、そうなの? それって、俺が
『メインイベントのあの場面で、
身も心も····って、つまり?
『はい。ご想像の通り、この隠しルートにおいて、かなり攻めたギリギリラインのシーンです。この間の触れ合いの比ではありません』
あ、あれよりもっと····?
って、ゼロ、見てたの?
『いいえ。始まってすぐに私の思考は自己判断で遮断しました。しかし記録としては残っているので、思い出したければ読み上げましょうか?』
「だ、大丈夫です! 間に合ってます!」
やばい! と俺は慌てて口を閉じる。隣の部屋には
「ハクちゃんどうしたの!?」
勢いよく扉が開き、
「すみません、寝ぼけてたみたいです」
「もう、そんなところで寝てるからだよ。今度はちゃんとお布団で寝てね?」
「はい、気を付けます。
「うん、ハクちゃんもね?」
安堵の色を浮かべ、
『報告しそびれていることがあるのですが、今ここで言ってもかまいませんか?』
うん? なんだろう····怖いことじゃないよね?
『ナビゲーター、ナンバリング01の存在です』
そういえば、
(····この流れからして、俺の予想が正しければ、)
『はい。
やっぱり····なんか変だと思ってたんだよね。だって本編とのイメージと違いすぎて、違和感しかなかったし。でも隠しルートだから違うのかなって、勝手に納得してた。でも、どうして今になって教えてくれるの?
『それは、この先のエンディングに関わることだからです』
どういうこと? そういえば、ゼロは最初の頃からずっとエンディングにこだわっている気がしたけど、それと関係してるの?
『はい。メインイベント終了後にいくつかの制限が解除されました。それにより、エンディング後の分岐が発生することが判明しました。その分岐選択は、転生者全員の意思による選択が必須条件となります。つまり、三人の総意が必要なのです』
でもその前に、俺がハッピーエンドにちゃんと辿り着けるかどうかが大事ってことだよね? それには好感度を100にする必要がある。これって、恋愛イベントをクリアすれば確定なのかな?
『先程も申し上げましたが、最後の恋愛イベントのクリア条件は、
聞いたし、今もどうしたらいいのか混乱してるよ。それってつまり、
『はい。なので、今の状態でそれが可能なのか非常に心配です』
そこは都合よく暗転で終われないの、かな?
『そんなご都合主義は存在しません』
いや、今までたくさんあったよね!
こういうところだけないってどういう仕様⁉
『恋愛イベント発生までの短い期間で、今以上に関係性を深めていただくしか解決法がありません』
ちょっと、心の準備が····これって、
『ナビゲーター02が伝えているはずですが』
隠しイベントが五日後で、その数日後に恋愛イベントって言ってたけど、具体的にいつなのかな?
『発生した時点で報告はできますが、今の時点での明確な情報はこちらにはないのです』
そもそも、男同士でどうやってするの?
「ハクちゃん! 話は聞いたわっ」
ばん! と再び勢いよく扉が開かれる。そこには仁王立ちし、「お姉さんに任せなさい!」と言わんばかりにこちらを見つめてくる
「は? え?
ずんずんと大股でこちらにやって来て俺の両手を取ると、なんの悪意もない満面の笑みを湛えて見下ろしてきた。それはもう、嬉しそうに。
「ハクちゃん、いいえ、
って、
絵師って····もしかしなくても、この乙女ゲーム『
うぅ····情報量が多すぎて目が回りそう。
「やっと制限がなくなったってイーさんに聞いて、一番に君と話したかったの!」
「あれ····もしかして、あの時の?」
「そう、あの時のお姉さんよ。一緒に死んじゃったみたい」
「あの日、私は君に会うためにあのカフェにいたんだよ?
あ····そっか。
そのせいで、三人ともこんなことに····。
あれ? 告白って、どういうこと?
「え? ····これは駄目なの? うーん、難しいなぁ」
「あの?」
「ああ、ごめんね。制限がなくなったんだけど、それはぜんぶじゃなくて。言っても良いことと、駄目なことがあるみたい」
苦笑を浮かべて
「えっと、
「好きな方で良いよ?
「あ、じゃあ、キラさんにします」
キラさんはにこにこと嬉しそうだった。でも俺は、なんだか申し訳ない気持ちになる。だってあの時、俺があの場から逃げなければ、
「ごめんなさい····俺、」
「私ね、
「でも、俺のせいで、」
「違うよ? 悪いのは車で突っ込んできたひとでしょ? それが故意なのか事故なのかは今となってはわからないけど。神サマは私たちにチャンスをくれたんだよ」
チャンス?
このおかしな転生が?
「君はあの時、なにをお願いしたの? 私はね、ふたりの恋の結末を知りたいってお願いしたのを、さっき思い出したの。ふふ、おかしいでしょ?」
「俺は、渚さんが伝えたかったこと、知りたいって。隠しルートやりたかったなって。本当、おかしいですよね。最後に願ったのがそれです」
初対面なのに、もうずっと一緒にいたから共有できること。
そういえば、隠しルートのデータを貰う前に、このゲームのキャラを生み出した絵師さんに、一度でいいから会ってみたいって渚さんに呟いたことがあった。
ん? あれ?
「あの、言っちゃいけないことって、このゲームに関わることですか?」
「そうみたい。でも私自身のことは良いんだって。
俺はふとゼロの言葉を思い出す。
「あ····そういえば、ゲームに
「う、うーん····なんか言いたいことはわかるけど、それは本人に訊いた方がいいってことじゃないかな?
そういえば、
「俺、
「今から? ····ハクちゃん、ちょっと待ってて」
キラさんは俺の呼び方が定まっていないようで、いつものように「ハクちゃん」と自然に口から出てしまったようだ。自身の部屋に戻って行ったかと思えば、なにかを抱えてすぐに帰って来た。
「はい、これ!
そう言って、俺は手作りっぽい書物を渡された。青い厚紙でできた表紙にはなにも書かれておらず、書物にしては薄い気も?
俺は白い単衣に浅葱色の衣を纏っているだけの軽装のまま、その書物を胸に抱え、足早に
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