4-9 バタフライエフェクト
「お待ちください!」
彼女の表情は毅然としていて、まったく焦った様子はなかった。
(そもそもこんなシーンは存在しない。本来はエンディングの少し前に
どちらにしても、私は
「どうしたのだ、
「陛下、申し訳ございません。すべては
その台詞に驚いたのは、皇帝陛下だけではないだろう。あの
当然だ。
本編でも隠しルートでも、彼女は最後まで自分の罪は認めず、すべては周りのせいだと罵るのだから。立ち上がり前に出て、自発的に皇帝と皇后の前へとやってきた
「
「皇后様、本当に申し訳ございません。
与えられた地位に満足するどころか、底知れぬ深い闇が絶え間ない欲を生み出していたこと。
「挙句、どれも上手くはいかず、その罪を隠すために新たな罪で覆う。そんなことを繰り返していた愚かな
それこそが、あの花嫁探しの儀式での皇子暗殺計画だったのだと。
「しかしそれも、暗殺者のはずの彼が皇子を庇うという、まったく予想していなかったことが起こり····毒の後遺症による記憶喪失だと言われても、私は気が気ではありませんでした」
同じ王宮内に自分の罪を知る者が存在していて、しかも皇子のすぐ傍にいるだなんて。確かに安心して眠れない日々だったのかも。まあ、それを話せば自分も暗殺者だってバレちゃうから、皇子に絆されない限りは大丈夫だろうと思っていたらしい。
「けれども、あのお茶会でおふたりの初々しい様子を見せられた時に、
ではなぜ、この場で
「母上は、この謁見の場で彼が暗殺者であることを皆の前で明かそうとしてましたよね?
「それは違うわ。いずれその子の素性が調べられれば、あの時に送り込まれた暗殺者のひとりだということは、すぐに明かされていたでしょう。そうなれば申し開きをする場などなく、間違いなく罰を受けることになる」
「つまり、母上はこうなることがわかっていて、彼にすべてを賭けたってこと?」
ええっと、つまりのつまり、親子で同じことを考えてたってこと?
一方は
結果的にどちらも望んだとおりになった、と?
「もうこれ以上、罪を重ねても仕方がない。もしこれが成功したら、この重圧からも解放されることでしょう。抱いた欲を捨て、この場ですべての罪を認め、罰を受けようと心に決めておりました」
(それもこれも、隠しルートを知らない
ほんの些細な出来事、台詞や行動によって因果関係が生まれ、いつの間にか大きな結果に繋がる····みたいな。確か、そんな意味だったはず。
行動の選択肢があるゲームや、色んなキャラをそれぞれストーリーごとに動かせるゲームなんかによくある、現象のひとつ。
蝶の羽ばたきのような小さな動きが、いつの間にか連鎖し、セカイを動かすかもしれない、なんて。なんだか怖い。でもまさに今、目の前で起こっていることがそれなのだ。
「その者は私が想像していた以上に無鉄砲で素直すぎましたが····皇子を想う真っすぐな気持ちは間違いなく本物でしょう。陛下が御心のままに判断してくださると信じております」
言って、
「····誰か、
皇帝陛下は玉座から立ち上がり、こちらの方へゆっくりと近付いてきた。ここは本来のシナリオに戻ったようで、この後の展開は私にもわかる。
「長い間、疑いをかけたままにしてしまったこと、心からお詫びする。そなたの父が受けた屈辱は計り知れない。
「陛下、お心遣い感謝いたします。しかし、父は今の暮らしが自分には合っていると満足しており、また、昔のようには動けません。ありがたいことですが、本人が望んでおりませんので、それに関してはお断りいたします」
これは
「それに、もう十分施しは受けていると思います。それについては、陛下が一番おわかりですよね?」
「
「はい。うちがタダ同然で患者さんを診られるのは、陛下がひとを使って寄付をしてくれていたからで。貧乏でも薬や食べ物に困らないのは、その貯えのおかげだと最近知りました。父は当然知っていたでしょうね」
陛下は私の手を握り、これからも続けさせて欲しいと言ってくれた。
「では、代わりにそなたの願いをひとつ叶えよう。なにか望みはあるか?」
私の望み。
その願いは、最初から決まっている。
「短い間でしたが、私はずっとハクちゃん····
「どうか、ふたりの婚姻を認めてあげてください」
深く深く頭を下げ、私は皇帝陛下に大切なお願いをする。
「····いいだろう。そなたの願い、しかと承った」
少し間があったのは、意外な『お願い』だったからだろう。普通なら自分の得になることを願う。なんでも叶えるというのだから、診療所を新しく建て替えて! といえば建て替えてくれたはずだ。
「ありがとうございます。これで私も肩の荷がおりました!」
にっこりと笑って、
『
ふふ。お疲れ様って。
イーさんもここまで本当にありがと!
『いえ、自分の役目を全うしたまでです』
いやいや、ホントに感謝してるんだからね!
あとは、
ドキドキする~!
絶対にあとでイラストにする~!
この時の私は重要なことを忘れていた。あの時、
成功率百パーセントの確定イベント。それがまさか、あんな結末になるなんて····。
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