4-5 思わぬ伏兵
皇帝陛下である父と皇后である母。
そんな皇子でさえもなかなか会うことが叶わない存在であるふたりが、今、まさに目の前にいる。
青龍の国。東方を守護する四神である青龍。東西南北にそれぞれの四神をシンボルとした国が存在している、『
我ながら安直なネーミングだが、ここにあまりこだわりはなく、とりあえず中華風といったら四神だよな、という考えから付けた国の名前だ。
皇族たちが纏う漢服が青なのは、五行説で青が東方の色とされていることから。
今回は公の場というよりは、定期的に行われている皇子たちの近況報告の場なので、特に決まった色の指定はなかった。
現に、皇后は藍色を基調とした上質な漢服と装飾を纏い、
そして
第三皇子から順番にひとりずつ報告していくのが決まりで、その間、他の皇子たちは謁見の間の床に設けられた円座に座って待つのだ。数段の階段を上った先にある玉座には皇帝と皇后、玉座から見て左側に
「では
「はい、父上」
第三皇子、
(
実際、キラさんが描いてくれた
(当初は見た目可愛いけど実は腹黒いっていう、母親そっくりなキャラになっちゃって。それから試行錯誤してキャラ付けに成功したっていうか)
ここに呼ばれる前に、
「第三皇子の
という、嬉しい答え。
その後、めちゃくちゃ疑いの眼差しで俺を見上げてきたけど、俺が『渚』だってことは、まだバレてないよな?
あらゆるジャンルの乙女ゲームをクリアしてきた、
当初は可愛くて腹黒という薄っぺらい設定だったが、『渚』として『しろうさぎ』である
それをそのまんま参考にしたら、あんまりパッとしなかった
「新しく与えられた公務については、特に問題なくこなすことができています」
「そうか、それは良いことだ。周りの者たちと協力して、以降も励むように」
今のところ、この
これはあくまでもメインイベントであり、元々用意された登場でしかなく、これ以上の関りはないのだ。念の為画面を確認してみるが、
「あー、次、俺の番かぁ。めんどーだけど仕方ないよね。じゃあ行ってくるね、ハクちゃん」
「あ、ええと····いってらっしゃい?」
「ハク、相手にしなくていいぞ」
「はは。ハクちゃんにいってらっしゃいっていわれた~。だるいけど、がんばって報告してくるね、」
反射的にだろう、同じように小声で
(
「
ちょっと待て。
「え····お、私、ですか?」
「そうだよ。さっき兄上と会話してたのって、君以外いないよね? そこの子も
なんでお前まで
こちらを、というか完全に
「
俺は冷静に、
「
あろうことか
(ナビ····なにこれ、どういう流れ? 頭痛くなってきたんだけど····、)
蟀谷を揉みながら俺は冷静になんとか対処しようと試みるが、皇帝も皇后も突然の事に目を丸くして驚いていた。そんな中、
『これは、
ナビは即座に状況を判断し、俺に報告してくれたけど····これ、メインイベントが改変されちゃうんじゃないか?
「だってこの子、兄上の命を狙った暗殺者の仲間なんですよね? なんでそんな奴を花嫁なんかに? 未遂だったとしても、儀式に潜入した罪を裁くのが先じゃないんですか?」
「そ、れは······、」
「
これって、かなりやばい状況だよな?
どうする?
どうしたらうまく話を逸らせる?
「
「暗殺者の仲間? あなたの身代わりになって助けてくれたお嬢さんだったのではなかった?
ふたりには婚約の件で話があるということだけ伝えていた。当然、
(本当のことをいえばわかってくれるのか?
周囲のざわめきが俺を平静にはさせてくれない。
どうする?
どう立ち回ったら、この場を回避できる?
目を閉じて心を落ち着かせる。頭の中はぐちゃぐちゃで、エンディングが確定して油断していただけになんの準備もしていなかった。だって、こんな大幅な改変なんて予想できるはずないだろう!
(くそ····このままじゃ、)
そんな俺の横を、なにかが通り過ぎた。途端、ざわめきがぴたりと静まった。ゆっくりと瞼を開けた先。玉座の前。
「皇帝陛下にお伝えしたいことがあります」
この位置では小さな背中しか見えない。
(
俺はただ、見守るしかできなかった。
その声は、なにかを決意した強い意思が込められていて、不思議と不安な気持ちが薄れていく。そしてその意味を、俺はこの後すぐに知ることとなる。
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