4-3 どうして教えてくれなかったの?
「俺のことだけ、見て?」
同じ台詞を言われた時。
甘い物が苦手と知った時。
「
まるでその能力を知っていたかのように、その手は俺の目ではなくて
それを読んだ時、確信した。
ずっと。なんとなくだけど、思っていたこと。何度も頭を過ったけど、ただ似ているだけと濁していたこと。俺が
その後の好感度の異常な上がり方とか。
あの時からずっと、
でも。
俺が好きなひとの名前を告白した時。
「ごめん、
抱きしめられた。
唇が重なった。
それから、あんな恥ずかしいことまでしてしまった。した? された?····って、 そうじゃなくて!
俺の頭の中にはこのゲームに深く関わっていて、シナリオをすべて把握しているひと。つまり、「渚さん」の存在が過った。けれどもあのひととは会ったこともないし、ネット上でだけの知り合い。俺が間違えるはずもない。
なによりも、俺の名前を呼んだ時のその響きで確信した。
でもどうして彼がこのゲームの内容を把握しているのか。しかも俺もプレイする前だった、『隠しルート』のシナリオを知っているのはなぜなのか。
まだ公開すらされていない作品なのに、それを知っているということは、少なくとも
そんなのあり得ない····けど、それ以外説明がつかない気がする。
でもどうして教えてくれなかったのだろう。
焦りすぎて名前を言いそびれたから、俺だって気付かなかった?
そんなわけ、ないよね?
ゼロは知っていたの?
知っていて、隠していた?
嘘、付いてたの?
『この件については最重要機密事項のため、あなたの頼みであっても公開する権限がありません。ひとつだけお伝えできることがあるとすれば、
ペナルティ?
強制排除って····もしかして俺のせい?
そんなこと、
違う。そうじゃないよね。
リスクがあって言えなかったのか。
『あくまでも
俺にはそのペナルティがないから、基本的になんでもありだけど、
『はい。そのように解釈していただければ良いかと思います』
朝、目が覚めた時。
広い寝台の上でそのぬくもりに抱かれていた。背中に伝わってくる、自分とは違う体温。すっぽりと
(ホントに····
そう確信したから、俺は受け入れたんだ。途中から
(
でもいつから?
だって、疎遠になっていたこともあった。
俺のことなんて、全然気にしてなかったのに。
あの時も。放課後、一緒に帰ろうって約束していたのに。ずっと待っていたのに先に帰ってしまった
時々くれる電話やメッセージに勝手に浮かれて。
細くていつ消えてもおかしくない関係が、まだ繋がっていることに安堵して。
今だって、こんな風に抱きしめられていることに幸福感さえ覚えている。
あんな場所に触れられて。すごく恥ずかしかったけど、嫌じゃなかったのは····やっぱり相手が
俺は思い出しただけで顔があつくなった。
(お、俺の馬鹿! あんなの、恥ずかしい以外のなにものでもないよっ)
男同士だし。ほら、たまに冗談で聞くこともある。もしかしたら
自分で考えておいて、ドン引きしてしまう。
(····ちょっと待って。この状態で誰かが入ってきたりしたら、俺、人生終わる気がするんだけどっ)
絶対に誤解される。特に
『あくまでも彼は
つまり、
『それがこのセカイの理。そもそも自分が転生者であることを告げるのはご法度なのです。でもあなたはそれができるトクベツな存在。その意味を、よく考えてみるといいでしょう』
そんなこと言われても。
「う····ん····はく、と······?」
ぎく!
俺は思わず肩を大きく揺らした。
いや、身動きできない状態の俺が動揺するのはおかしいけど!
「····おれの、だ」
耳元で吐息まじりで囁かれ、ぎゅっと腕に力が入る。ただでさえ密着していたのに、さらに隙間なく抱きしめられる格好になってしまい、俺はもうどうしたらいいかわからず混乱する。しかもそんなことを寝言でいうなんて、誰だって勘違いしちゃうよ!
俺は思わずぎゅっと目を瞑って、早くこの状態から解放されようと意を決して口を開いた!
「せ、
「う····ん? ······もうちょっとだけ、」
「起きてくださいってばっ」
焦った俺は、自分の頭を後ろに勢いよく振った!!
ごんっ!
「んぐっ!?」
鈍い音が頭の中に響く。
い、痛い····。
おそらく俺の頭は
「せ、
俺は顔を合わせるのさえ恥ずかしすぎて、そのまま扉を蹴って部屋を飛び出す。乱れる衣を直しながら、ひとの気配がすれば身を隠し、暗殺者スキルを利用して自室まで誰にも気付かれないように辿り着いた。
「はあ····疲れた····」
閉じた扉に背を預け、俺は大きく嘆息して俯くと足元に視線を向けた。あそこから逃げることに夢中で、裸足のまま出てきてしまったようだ。
「おはよ~、ハクちゃん!」
「ひゃっ!?」
突然正面からかけられた声に、俺は変な声を上げてしまった。
「う、
「だって朝だもん。それよりハクちゃん、私の言った通りになったでしょ? お泊りどうだった? 誤解は解けた、みたいね」
うぅ····どこみて納得してるんですか?
にまにまと
「いや、誤解ですって! おそらく深い意味はないと思います!」
「え~、そう? でもハクちゃんが元気になって良かった。昨日よりスッキリした顔してるもの」
色んな意味でスッキリさせられたというか····。
「じゃあ、もうきっと大丈夫だよね」
「
本編のヒロインで、俺の親友枠として位置する
「でも····ありがとうございました。俺、ちゃんと
「そっか。良かったね、ハクちゃん!」
彼女が行動してくれなかったら、俺はもやもやしたまま今日を迎えていただろう。あれも元々用意されていた
それでも。
感謝の言葉をいわずにはいられなかったのだ。
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