3-10 エンディング確定
場面に応じて技を選択する。まるで少し前のRPGのような仕様だけど、上手くできただろうか。選択するだけであんなに動けるなんてチートとしか思えない。実際のゲーム画面だとしたら、おそらく文字とスチルイラストだけの場面だろう。
でも俺の目の前ではそれがまさに映像となって表現されていて、自分でも怖くなるほどリアルだった。ひとを殴ったことなんてないし、ましてや剣で斬るなんてこと、できるわけがない。けれども技の選択肢次第で、目の前の敵を殺傷できるだけの力があることを知り、指先が震える。
(それにやっぱり
まるで中国や韓国ドラマの時代劇に出てくる武人や仙人みたいなあり得ない動き。まさにそれだった。
剣から放たれる見えない力のおかげで、気絶させることができたけど、本来は絶命させてもおかしくない技だった気も····。
(
心の中はぐちゃぐちゃだったが、なんとか顔に出さないように
「お前は自分がどこにいるのが正解だと思う? その力は異質。お前を利用しようとする者は大勢いるだろう。それでも、俺の許に戻る気はないか?」
先程までの敵意は無く、どちらかといえば諭すような口調でこちらに問いかけてくる。
そもそも、
彼の言う"情報"を提供している者がいるということ、だろうか。
「
「そんなもの、今更どうでもいい。どうやらお前は、俺のところに戻る気はなさそうだ。これ以上は無意味。さっさとどこへでも行くといい。こいつらが目を覚ます前に、俺の前から失せろ」
それは····どう考えても。
「俺は、本当にあのひとたちを殺したの?」
どうして、そんなことがわかるのか。
ただの感情論? そうであって欲しいというだけ?
「幼い弱った子供が、数人の大人を武器もなく切り刻めるとでも?」
「じゃあ、殺していないってこと?」
「吹っ飛ばされて間抜けな顔で倒れていたがな」
「····吹っ飛ばしたんだ、」
ふっと
「俺は暗殺者。これから先もそれは変わらない。お前のことなんざ、もう知らねぇ。どこへでも好きな所へ行ってしまえ」
彼のルートは意外にも感動する話が多く、
「行ってきます、兄さん」
ぽつり、と。
そんな台詞がふと浮かんで、小さく笑みを浮かべた。お互いに背を向け、瞬きをひとつして振り向いた先。そこには
差し出された手。
優しい笑み。
細められた薄青の瞳。
「おかえり、ハク。言っただろう? 君ならきっと大丈夫だって」
「はい、」
その手に迷わず右手をのせ、俺は頷いた。
戻れないと思っていた。暗殺者としてあのまま
「邪魔が入ったせいで、もうひとつの約束は守れないようだ。この埋め合わせはまた次回。君の好きなもの、今度こそ一緒に探そう、」
触れた指先があつくて。
嬉しい、けど。
俺が
「あの者の気が変わらない内に、早くここを出ましょう」
「そうですね。いつあのひとたちが起き上がって来るかもわからないし」
「ハク、剣を」
「あ、そうでした。お返しします」
勝手に奪っておいてあれだが、俺は元の主へと剣を返す。
『イベントクリアです。お疲れさまでした』
ゼロの声が頭に響く。
今回はかなり大変なイベントだった気がする。バトルなんて本編にはほとんどなかったのに。それに特殊な能力って、そんなの聞いてないし。
なにか出生に秘密があるのかな?
『
『イベントクリアによる詳細の解放により、追加の詳細があります。このまま読み上げますか?』
俺は
『
う、うん。
なんだか壮大な話になってきた気が。
『問題ありません。この設定はあまり物語に関係ありませんので』
そうなんだ····。
取って付けた設定ってことかな?
『ルートによっては重要な要素ですが、今のルートには特に関りがないため、頭の隅に置いておけば良いかと』
ん? うん?
『はい。現在のルートは、なにか大きな間違いでも起こらない限り、ハッピーエンドまっしぐらです』
え? あれ? どういうこと?
『
ええっ⁉ なんでそうなるの⁉
っていうか、
『装飾品の屋台で選んだ腕輪が分岐点です』
あの適当に選んだやつが····?
『あの時、
あの恋愛イベントの贈り物の選択が、分岐点だったってこと?
俺は思わず左手首に飾られた、薄青色の半透明な腕輪に視線を落としたその時――――。
「ハク、どうした? 疲れたなら少し休む?」
至近距離で現れた
「ハクちゃん、どうしたの? あ、もしかしてひと目が気になるのかな? はい、私の使っていいよ」
ふぁさっと頭の上に
「だ、だいじょぶ、です。衣、ありがとうございます。すごく助かりました」
「ふふ。それは良かった。
「そうです。そんなに顔を近づけたら、
畳み掛けるように、
「遅くなってしまうと悪いので、早く帰ってゆっくり休みます」
「無理はしないように、」
言って、
(ハッピーエンド····って、なにされるの、かな。告白されて終わり? じゃないよね、やっぱり)
どきどき。
今からこんなで、俺の心臓はもつのだろうか。
「ぜんぶ終わらせて戻ったら、
うぅ····俺、本当に皇子のお嫁さんになっちゃうの? 男なのに? 元暗殺者なのに?
(そういえば、また
(あの時も、余裕がなかったってこと?)
あんな風に自信満々に言っていたのに、本当は。
そう想うと、なんだか微笑ましい。あの
俺はそんなことを考えながら、夕陽に染まる
ここからハッピーエンドに向けて、物語はどんどん進み始める。
本当に、これでいいの、かな?
◆ 第三章 了 ◆
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