1-9.5 あの日の過ち ※



 俺は 雲英うんえいから手渡された器を手に、寝台にゆっくりと歩を進める。あの警告には背中がひんやりと冷たくなったが、今はそれどころではない。


 他の誰かが彼に口付け····じゃなくて口移しをする光景なんて見たくなかったし、嫌だった。かと言って、俺自身がするのもなんだか気が引ける。


 たとえこのキャラが本物の白兎はくとじゃなくても、見た目そっくりな時点で他人にその役目を任せることはできなかった。


 俺の過ちの原因。それは、高校一年の、ある秋の日の出来事。放課後、オレンジ色に染まる教室。


 その日はミーティングだけで部活が早く終わるからって、一緒に帰ろうと約束をしていたのだ。けど終わって戻って来たら、白兎はくとはひとり残された教室で、器用に椅子に座ったまま転寝をしていた。


 それはありきたりな恋愛漫画のワンシーンといってもいい。


(眠ってる無防備な白兎はくとにキスした····なんて、言えるわけないよな)


 それは本当に触れるだけのもので。


 待ちくたびれて寝ていた白兎はくとを起こすのがもったいなくて、椅子に後ろ向きで座ってぼんやりと見ていただけのはずが、気付いたらしてた・・・、なんて最低だろう!


 しかも眼鏡を勝手に外して、その可愛らしい寝顔をしばらく眺めていたのだ。もはや言い訳はできない。それで勝手にキスして、後悔して、俺はその場から逃げたのだ。あの時、白兎はくとが目を覚まさなくて本当に良かった。


(あの後、俺は罪悪感から白兎はくとに話しかけるのすら怖くなって、距離を置くようになったんだよな····でも俺が素っ気ない態度をしても白兎はくとはあんまり気にしてないみたいで、最初こそ不安げだったけど、少ししたら興味ないって感じだったな)


 その間もあの『告白大作戦』は進んでおり、なんなら完成間近だった。現実とは真逆に、しろうさぎと渚としては順調に仲良くなっていて、そして何度もチェックしては直しを入れたあのゲームが遂に完成する。その日の内にSNSでDMを送った。


 白兎はくとはすごく喜んでくれて、その数日後にメールが送られてきた。そこにはゲームの感想が綴られており、満足してくれたようだ。当然だ。あれは白兎はくとを研究して、彼の『好き』を詰め込んで作ったゲームなんだから。


 製作費はお年玉やお小遣い、部活の合間にしていたバイト代、姉貴の先行投資、足りない分は一緒に作ってくれたひとたちが用立ててくれた。そんな強い想いだけで作り上げた『白戀華はくれんか~運命の恋~』が、失敗するわけがなかった。


白兎はくとが隠しルートをプレイする前に、あの店で本当のことを話そうと思っていたのに。結局、俺はなにもできずに死んだんだよな?)


 なにも伝えられなかった。それどころか、白兎はくとを守れたかさえわからない。仮に白兎はくとだけでも生き残っていたとしても、俺が死んで自分だけ生き残ったってわかったら、あいつはきっと思い悩むだろう。


 どちらにしても、時間は戻らない。

 どうにもならない。


(転生して、しかも自分が関わったゲームの中で、目の前にはあいつとそっくりなヒロインって····これ、罰ゲーム?)


 白兎はくとに似せて作ったゲームの中のキャラ。隠しルートは、青藍せいらん白煉はくれんの物語。白煉はくれんは攫われた後かなり酷い目に遭うのだが、暗殺集団である"ふくろうの爪"の頭領に拾われ、少しずつ自分を取り戻していく。しかし攫われる前の記憶が曖昧で、自分が何者かも憶えていなかった。


 それでも元々の秀でた才覚や身体能力は衰えてはおらず、頭領は彼を気に入り、常に傍に置くようになった。やがてあの暗殺計画を持ち掛けられ、彼が誰の代わりに攫われ今に至るかを知っていた頭領は、あえてかつての友をその手で殺させようと目論む。彼にとって初めての任務。失敗も在り得るだろう。故に、もうひとりの暗殺者を同行させた。


白煉はくれん白兎はくとの代わりに幸せにしろとでも?)


 器の煎じ薬を口に含む。


(うっわっ! なにこれまっず⁉ にっがっ⁉ 今すぐ吐き出したい!)


 口の中に広がったその異質なものに、俺は今まで真剣に考えていたことが、嘘のようにすべて吹っ飛んでしまった!


(ちょっと待て! これを飲ませるのか? 白煉はくれんの設定は白兎はくとと同じ甘党だぞ)


 これ、マズすぎて目を覚ますんじゃないか?

 後々、気まずくならないか?


 動揺しつつも、青藍せいらんならその責任感の強さから絶対に止めないだろう。止めたら俺、ナビに警告されるんだろうな。


 覚悟を決め、眠っている白煉はくれんの身体を少しだけ起こし、片腕で支える。その綺麗な顔立ちに見惚れつつ、ゆっくりと唇を近づけた。


(俺は青藍せいらんこれは白煉はくれん、俺は青藍せいらんこれは白煉はくれん、俺は青藍せいらん!)


 白兎はくとじゃない。

 けど、俺は――――。




⚠ 〜自主規制〜 ⚠


『警告します。これより本編は、自主規制ゾーンに入ります。注意事項をご理解いただいた方のみ、選択することをおすすめします』


『このページは、後日非公開になり本来の完全版に差し替えますが、♡や応援コメントなどは残りますのでご安心ください』


『リンク先はサポーター限定の近況ノートとなっております。ここから先はプレイヤーによっては苦手な方も多いかと思われます』


『下記に当てはまる方は、次回更新をお待ち下さい。また、苦手な方は限定ページを無理に読む必要はありません。BLに興味のある方、BL中級者以上の方のみおこしください』


『それぞれの免疫度により、★の数が変わります。以下、レベル別BL要素の度合いを参考にしていただければ、幸いです』


初級者 ★★★★☆

中級者 ★★☆☆☆

上級者 ★☆☆☆☆


『以上、問題のない方は1-9.5完全版を下記リンクよりお楽しみください』


サポーター限定リンク先↓

https://kakuyomu.jp/users/yuzuki02/news/16818093078653108742



〜 作者からのおしらせ 〜


このお知らせは2025.3月上旬に消去され、以降、非公開枠となります。また、サポーター限定を読まなくても、次話との直接的な繋がりはありませんのでご安心ください。


今回ご理解いただきたいのは、今作はBL小説をメインとした『ルビー小説大賞』の公募用作品であることです。


サポーター様になっていただく事を促しているのではなく、カクヨム警察にビクビクしている作者が、「この表現は微妙なラインかも」と思った場面に関して、自主規制しました。


読んでいただいている方の半分くらい方は、おそらくいつもお世話になっているフォロワーさまかと思われるので、自主規制部分は苦手だと思います。


なので、BL小説をがっつり楽しみたい方のみ読んでいただけたらと思っております。


ルビー小説大賞は、非公開部分も対象になるとのことなので、今回はそのようなやり方で対応していきます。


いずれは誰が読んでも大丈夫な文章に差し替えますので、公募が終了するまで気長にお待ちいただけたらと思いますm(_ _)m


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