1-9 口移し、それはキスであってキスではない
私と
仮にも現実世界で片想いしていた子に髪と瞳の色以外そっくりな、この隠しルートのヒロイン(男の子)に対して、自分以外の者が口移しをするなんて見ていられないはずだ。口と口が重なるキスよりも、それ以上になんだかいけないことをしているような行為に思えなくもない。
実際はめちゃくちゃマズくて苦い煎じ薬を、病人に飲ませてあげる善意ではあるが、そこに好意があったら後々自己嫌悪してしまうかもしれない。だが自分以外の他人がその行為をする姿を見なくてはならないとしたら、話が違ってくる。
(私は親友枠だから、私がやれば信頼度が上がるし、
本来、毒の治療で口移しは逆に危険な気もするのだが、これはあくまで乙女ゲームでありご都合主義が成り立つ。恋愛イベントは特にそういうものが多いわけで。この先も「ありえないこと」はいくらでも発生する。まあ、すでに皇子の自室に嫁入り前の女子と素性もわからない男子がいる時点で、色々と問題ありだけど。
「では皇子様、どうしますか? あなたが立場としては一番上ですから、あなたが決めてください」
先のやり取りにより原作とは少し違う流れだが、
私は椅子から立ち上がり、頭を下げて拱手礼をしながら
「····そもそも、私を庇ったせいで
もっともらしい理由を並べ、原作通りに演じる
『警告します。大幅にキャラクターの設定を改変することは許可されておりません。あなたは
(はいはい。つまり、お互いに知り合いで、転生者かもしれないっていう話すらしちゃだめってことでしょう? でも、もしそれを口にしちゃったら、どうなるの?)
男性の声を模した機械音声であるナビゲーター01は、ひと呼吸分だけ無音になり、すぐにその答えを目の前の透明な画面に表示させた。
『この物語を進める上で弊害となる存在、つまり大幅なキャラクターの改変、もしくは物語の改変に関しての注意事項です』
そこに表示された文字を読んで、私は正直恐怖を覚えた。
『先程の行為は概要説明の前、初回ということで赦されましたが、今後はカウントされます。このカウンターがゼロになった時、あなたはこの物語から強制排除されます。つまり、二度と戻ることは叶いません』
すらすらと一定の速さで読み上げるナビゲーター01の声。表示されている文字を一字一句違えずに。目に入ってくる情報と耳に入ってくる情報がまったく同じで、この"二度と戻れない"という言葉の意味を、私は怖いと思った。
それはつまり、本当の"死"を意味するのではないか? と。
(うぅ····とにかく、気を付ければいいのね?)
『はい。途中で排除されないよう慎重に物語を進め、主人公とヒロインをいずれかのエンディングに導くことがあなたの役目です』
私は気を取り直して、
白い陶器はお茶碗よりひと回り大きく、煎じたその飲み薬は濃い茶色。解毒効果のある薬草を煎じたそれは見た目通りかなり苦く、そしてものすごくマズそう····だが、効果は抜群なのだ。
本編の
傷の処置も解毒のやり方も、彼女の本来の能力でなんとかなったのだ。
「
「ああ····わかっている。その時は、私が責任をもって
そもそも
本編では毒に倒れた皇子に対し、口移しで薬を飲ませるのは、もちろん主人公の
(まあ、皇子はそのことを後々知って、意識し始めるって感じなのよね)
本編の
(隠しルートは、まさに純愛。自分を暗殺しようしたヒロインの正体が、かつて想いを寄せていた幼馴染で、中華BLの醍醐味である"
そしてそのメインイベントであるこの"口移し"から始まる、ふたりの物語。
はわわわ!
私は心の中で叫びながら、その美しい光景をチラ見していた。顔は平静を装い、瞼を伏せたように見せかけ、しっかりとその目に焼き付ける。これはあとでこっそりイラストにしよう! 誰にも見られなければ問題ないわよね? ね?
『それに関しては問題ありません。しかし、その
は⁉ と私は口元をそっと覆う。いけない、いけない、私は
次回、王子様のキス····じゃなかった口移しによって、遂に我らがヒロインが目を覚ます――――!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます