根賀の日記

せいや

日記 4月23日

ネガです。

もう嫌だ。嫌だ。俺の感情もろとも春という季節すらも嫌いになりそうで怖い。

なぜ俺はこんなにも大きな劣等感を抱えながら生きていかねばならぬのか。

なぜ俺以外の人間どもは、俺以上に魅力的な何かを持ちながら、俺のごときマイナス思考が脳内を駆け巡ってでもいるようにぼやいているのか。贅沢な奴らだ。

人と会うのが億劫なのは俺だけなのではないか。俺以外の人間どもは、人と会うことに大きな喜びとリラックス効果を得ているように見える。なぜそんなに肩肘張らずにコミュニケーションを楽しんでいられるのか。俺の話し相手はこの紙の上にしか存在しないのに。紙とペンだけが俺の捌け口なんだ。紙とインキだけが友達さ。


俺が社会を拒絶しているのか。もしくは社会が俺を拒絶しているのか。この際どっちでもいい。どちらにせよ社会は俺なしで活きいきと回っているのだから。社会は俺を見てきっと侮蔑も憐憫も抱かない。一重に無関心だけを抱えて跋扈しているんだ。俺はといえば社会への羨望と怨恨の念を消し去れないまま枕に頭をめり込ませているのに。


人間が嫌いなわけじゃないんだ。多分そうなんだ。むしろ人間嫌いになれたほうが今の自分は幸せを享受できるのかもしれないんだ。Nさん、K太郎、Jくん。それ、思い浮かべる人たちはみんな俺の空想の中で嗤笑も冷笑もしていない。俺は奴らを心の底から笑わせることに心底喜びを感じていたんだ。ユーモアだけが武器であるというような幻想すら抱いていた人間とは思えないような感情を、最近持つことが増えたんだ。それと並行して愉しみが一つひとつ水泡になっていった。


春よ、あらゆる惜別の念を俺に抱かせ続けるのなら、いっそのこと人間関係の柵からも別れさせてくれ。桜が散っている。俺の心は花の散らない枝垂れ桜なのさ。その花びらは鬱金よりも黒みがかかってもう花にすら見えない。

春風よ、吹き飛ばしてくれ。この雑念を、俺もろとも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

根賀の日記 せいや @mc-mant-sas

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ