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部屋へ入ってきたのは、僕と同じくらいの年齢の女の子だった。
栗色の髪を肩の長さで切りそろえて、後ろでまとめている。髪を後ろで束ねているのは三人目で、僕はそのときやっと気づいた。これはファッションとかじゃなくて、船内で作業の邪魔にならないようにしているのだ。
少女は色白でちょっとタレ目、
「目が覚めたと聞いたので、スープ作ってきました。昨日からずっと眠ってて何も食べてないから、お腹すいてるんじゃないかと思って」
「やっぱり、ジーナは気が利きますねえ。ユート、彼女はジーナ。我々の仲間です。ジーナ、彼はユート。思った通り、落ちたる者でした。しばらく同行する予定です」
エインさんが紹介してくれる。ジーナは僕に近づくと、お盆を手渡した。
「はじめまして。ジーナです。困ったことがあったら、いつでも言ってね」
「あ。ユートです。えっと、ジーナさん」
「ジーナでいいよ」
「じゃあ、ジーナ。よろしくお願いします」
「冷めないうちに、どうぞ」
「そうしろ。病人やケガ人は、しっかり食うのも治療の一環だ」
「それがいいでしょう。話はまた、おいおいに」
ベイツさんとエインさんにうながされ、僕はスプーンを手に取った。
「いただきます」
ジャガイモとタマネギ、あと、なにか知らない野菜が浮かんでいるスープだ。一口食べると、温かさが口の中に広がる。塩加減がちょうどよくて、おいしい。
「おいしい」
思わずつぶやいた僕の言葉に、ジーナが嬉しそうに笑った。
「よかった。異世界の人だから、味の好みが違ってたらどうしようって心配だったんだ」
「すごく、おいしいよ」
僕は、自分でも恥ずかしいほどがっついて食べた。食べながら、なぜか涙が込みあげてきて、こぼれ落ちそうになるそれを、一生懸命に我慢していた。
エインさんも、ベイツさんも、ジーナも、そんな僕を黙って見守っていてくれたんだ。
その日の夕食時、シルビア船長は乗組員が全員集合した食堂で、僕を紹介してくれた。といっても、ごく簡単なものだ。僕の名前と、落ちたる者であること、その程度。
乗組員は、全部で九人だった。
シルビア船長。
エルフの魔術師で、副船長のエインさん。
神官戦士で船医の、ベイツさん。
ワータイガーのクァラさん。
それに、ジーナ。
この五人は、昼間のうちに顔を合わせている。初対面は四人だ。
まず、ギャゼックさん。
がっしりした体格の中年男性だ。元は海賊船の船長だったのだという。そんな前歴を自慢げに話して捕まったりしないのだろうかと不安になる。
左目に眼帯をして、シルビア船長と似たタイプの、いかにも海賊っぽい黒いジャケットコートを着ている。ただ、パリッとした船長の服装と少し違い、着古した感じだ。僕がゴブリンに襲われていたとき、逃げるゴブリンを投げナイフで仕留めたのがこの人だったそうだ。
それから、エイムズさん、ビイロフさん。この二人はギャゼックさんの海賊時代に手下だったそうで、今でもギャゼックさんをボスと呼んで忠誠を誓っている。背の高い坊主頭がエイムズさん、赤く染めたモヒカン刈りがビイロフさんだ。おそろいの、水色と白の横縞シャツを着ている。
最後の一人は、ドワーフのデバルトさんだ。ドワーフらしくびっしりを
「デバルトじゃ。魔動機を担当しとる。といってもわからんじゃろうな。この船の機械類の担当じゃよ。いろいろ大変じゃろうが、まあ頑張れ」
お互いの紹介がひととおり終わると、待ちかねたようにクァラさんが叫んだ。
「さあ、飲もうぜ。ユート、こっち来いよ。一緒に飲もう」
あとはもう、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎになった。航行中は酒が禁止になるそうで、出航を明朝に控えた今夜は、最後の酒宴になるのだという。そういうわけで、みんな大はしゃぎなのだ。
僕は逃げる間もなくクァラさんに捕まって、酒宴の真っただ中へと
ようやく
船長やエインさんたちは、もういなかった。
這い出した僕の目の前に、すっと木のカップが差し出された。白く細い手が、カップを支えている。ジーナだった。
「ふふ。お酒飲みのお相手、おつかれさま。お水どうぞ」
「ありがとう」
カップを受け取り、一気に飲みほす。僕自身は飲んでないけど、酒のにおいが充満する中、冷たい水が喉に気持ちいい。
「この人たち、どうしよう」
僕が訊くと、ジーナはくすりと笑った。
「いつもこうだから大丈夫だよ。みんな、目が覚めたら部屋に帰るから」
僕とジーナは食堂を離れ、船室へ戻った。ジーナは女性部屋、僕は医務室を使っていいと言われている。
「じゃあユート、おやすみなさい」
「うん。いろいろありがとう」
医務室のベッドに転がると、一気に眠気が襲ってきた。
元の世界の家族、シルビア船長、クァラさん、いくつもの顔が頭に浮かんでは消えていく。最後に、微笑むジーナの顔が浮かんで消えて、そうして僕の意識は眠りへと落ちていった。
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