第54話 得られたこと
監督や映画のキャストなどのメールは週にいくつか送られてくる。
監督はヒットしている状況などを送ってくれるのだが、キャストのメンバーは日常会話を日々メールで送りあっている。
キャストのS N Sも更新されている。みんな仕事で忙しそうだ。なのに、メールが返ってくるのが早いのは嬉しい。
真田さんは、今までと違った演技を評価されて、念願の朝のニュース番組に宣伝に出ることができたという。嬉しいというメッセージとアナウンサーたちと撮った写真を送ってくれた。
今度は悪役ではなく、警察官役の刑事ドラマのオファーが来たらしい。
大学一年生になった礼くんはアイドル活動をしながら勉強は難しいと考え、アイドルの道ではなく、勉強をして海外に行くために勉強をしている。ただ、週一のお茶の会社のラジオ番組のパーソナリティは務め続けるとのこと。
東条さんは、今度家で保護犬を飼うのだと写真を送ってくれた。
そして毎日メールが来るのが日内さん。メールで会話をしているが、日本に来るならまたデートをするのだと言われ続けられた。監督から、また仕事の関係でしばらく日本に滞在することを聞いたらしい。断っていたが、俺の方が折れた。
みんながこの映画の撮影で学ぶことが多く得られたのだろう。相変わらずと言ったら相変わらずの感じがしないわけではないが。
今日は、通訳の仕事で日本に向かっている。日本のテレビ番組でドイツのドライバーへの取材のアテンドがあるのだ。
今回、そのドライバーの人の取材についていくのは三回目だったため、フレンドリーに話すことができた。
日帰りのため、すぐに帰ろうとは思っていたが、日内さんが会いたいと連絡をくれたため、仕事を少し日本ですることにした。
ドライバーは
「帰りは一人で帰れるから心配しないで」
と事前に言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。
取材が終わり、関西国際空港でお別れすることになっていた。二人で空港に向かう。京都駅から大阪駅で乗り換えて、関西空港行きの電車に乗った。
空港の第一ターミナルで別れて、俺は二時間後に出る東京国際空港行きの飛行機を待っていた。
アメリカ発祥の世界最大チェーン店の一つである、コーヒーなどを販売している店に入り、抹茶ティーを飲みながら翻訳の仕事をして、飛行機に乗った。
東京国際空港に着いたのは夕日が沈んだ頃。
コンビニで、飲み物と、おにぎりを一つとコンビニ弁当を買ってホテルに向かった。モーメント・バイ・モーメントの制作に携わる前から、日本に仕事で来ていたのもあり、すっかり慣れてはいるが、まだまだ知らないことはあって、日々の勉強になる。
シャワーを浴びて、コンビニ弁当を食べる。
「美味しい」
俺は、思わず声が出るほど食べた。
そして、今日。わざわざテレビがあるホテルにしたのは、見たい特集があったからだ。
テレビから、聞き覚えのある声で、みんながインタビューに答えている。
昨日、日本にいるとメールを送ったら、モーメント・バイ・モーメントの特集で役作りや撮影の裏話をするという番組が今日放送すると監督が連絡をくれのである。
初めは、主演の真田さんと日内さんがインタビューに答えていた。二人とも、洋装で、綺麗に着飾っていた。お互いにお互いの役を褒めた。その後、進行者に質問される。
「二人には、お互いの役作りについてお伺いさせていただきましたが、答え合わせという感じで、どのように演じていらっしゃったのですか?」
真田さんは、柔らかい表情で答える。
「そうですね。僕の場合、彼はすごく真っ直ぐな性格だけど、悩んでいて、それをどうすれば解決できるかが大事でした。演じる上でも、彼のことを理解するために何度も読み直したりとか、彼を演じるにあたって参考になりますね」
真田さんは、真面目な顔で話していた。
「私は、真田さんが演じる光介に引っ張ってもらうというよりは、ルイーナに引っ張られる時、元気をもらう場面が多く、女性のたくましさだったり、光介を引っ張っていけるような女性を目指していました。なので、彼女の芯の強さというところを出しつつ、母性を出せるよう意識しました」
そう言うと、微笑んだ。
続いての質問者は礼くんだった。和装で髪がセンターで分かれている。
「撮影時は、アイドルの仕事との両立ということで、大変だったことはあると思いますが、如何でしたでしょうか?」
礼くんは、カメラを向けられて、一瞬驚いたような顔をして笑った。
「アイドル活動は楽しかったです。ただ、映画も両方やりたいので、もっと時間が欲しいとは思いました。でも、周りの人に支えてもらっての撮影だったなと思ってます」
それから、役作りの質問をされ、素直に答えていた。
「青年期の光介は、自分の好きという感情で周りが見えないくらいに、前を見てて、成人期になるにつれて、んー、迷いが出てくるというか、自分の生き方、留学をしてきて、自分の中での軸というものが、どんどんはっきりしてくるんですけど、それでも、揺らいでしまう部分もあって、そういうところで葛藤がありました」
最後は東条さん。紺色のスーツを着ている。
「僕は、吉池監督の作品に出させてもらえたのは二回目なのですけど、このモーメント・バイ・モーメントという作品は、パワーアップしていて、自分が成長できていると実感できた作品で、成長させてくださって感謝しかありません。ありがとうございます!」
と、真剣にインタビューに答えていた。
「では最後に、ご自身が演じられた役柄の中で好きなところをお願いします」
「はい! 僕はローランドを気に入っています。ちょっと、ミステリアスな感じが、作品をより良くしていっていて、未来人ということで、作品を客観視できるような役柄でもあると思います」
それから、監督は一人での取材に応じていた。
「モーメント・バイ・モーメントは、光介の葛藤、特に成人期でのルイーナとの出会いを境にというところからが力を入れたところであって、初めてルイーナと出会うところでは、七和多くんにも、日内さんにも、相談は何回かさせていただきました」
というところで、初めて二人が出会ってワルツを踊る前のシーンまでが公開された。ワルツの部分は劇場で、とテロップが入っており、これからの人気になるだろうなという楽しみが一つ増えた気がした。
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