第44話 それぞれの目標
ドイツに帰る前に、真田さんと東条さんと、今度は日本食でも食べようと言うことで、ご飯に行く約束をしていたのだ。
店に入ると、店員から個室に案内された。
「いいだろー? 落ち着くし、ゆっくりできるし」
東条さんが、メニュー表を見ながら言った。
俺は天ぷら蕎麦、二人は冷やしざるうどんを注文していた。
「どう? 映画、編集と音付けとってとこですよね? 段々形になってきてると思うんだけど」
と真田さんが言った。
「まだ完成は見えていないですけど、少しずつ形になってきた感じはします。でも、まだ見せられないって言われちゃっていて」
俺が答えると
「その工程はそうだねえ」
苦笑いを浮かべながら、東条さんに言われた。
「この映画はキャストと監督だけじゃないんだなって思ったんです。撮影場所の提供、音響、照明の機材の貸し出し、宣伝、制作費の調達。色々な人が支えている。だから俺は感謝を込めて、より良い作品になるように精一杯努力したいと思います」
俺は胸を張って言った。
すると、二人共笑ってくれた。
「いやー、こういう子が居たから俺たちも頑張ろう! ってなったんだよー」
東条さんがそう言ってくれた。
「編集は足し引きが重要になってくるからあ、役者の演技の善し悪しも大事だけど、カメラワーク、構図、BGM、カット割り、それらを総合して考えないといけないんだ。でも、プロフェッショナルたちだから大丈夫だけどねえ」
と続けて言う。頼もしい言葉に、俺は感動しながら「はい!」と答えた。
「まあ、俺、今回初めてっていっても過言じゃない、犯人役とかじゃない役を演じたから、ちょっとは緊張しました」
怖い顔とはいえ、この撮影の時はメイクリストの巧みな技術により、そのおかげで怖さが緩和されていた。
「これからどんどん経験積んで、どんな役でも出来る役者になれたらいいとは思うなあ」
真田さんが微笑みながら言う。
しばらくすると、料理が届いたので食べる。俺は、また箸の使い方に苦戦しながらも食べた。二人に
「この撮影のおかげで箸を使うの、上手くなったんじゃない?」
と笑われたので、俺は自慢をする時のような顔で笑った。
東条さんが、うどんを食べ終わった時に
「ローランドという役について自分の中で考察していた」
と言う。
「スバルくんのモデルって言う感じで言ってたけど、光介の救世主でもあり、未来人で客観的に物語を進めていってくれる、語り手みたいな部分を担っているところもあった。ナレーションもローランドの声だからな」
「なんか、俺がモデルってのいうも申し訳ないですけどね」
俺が苦笑いをすると
「いや、スバルくんをモデルに、あのキャラを作って正解だと思った。だって、スバルくんには救われたからさ」
と、真っ直ぐにこちらを見て言われると照れくさくなるものだ。そして東条さんは続けた。
「ローランドは、スバルくんにも東条さんとも似ている部分があったと思います。自分の意志を貫きながらも周りも尊重していて」
真田さんも共感したよう頷く。
「そうだね。それにスバルくんには強い芯があるから、そこを表現できたらいいなと思って演じていたよ」
と俺の顔を見る。
「えっと、俺自身はよく分かんないというか」
俺が戸惑っていると、
「いや、日本の文献を翻訳しているんだろ? それも自分で調べたりして。それならもう、それは君自身じゃないか」
と東条さんは真剣な眼差しで言う。
「確かに、そういうことなのでしょうけど、改めて他人に言われてみると実感するというか」
俺が自分の胸に手を当てながら言うと
「これから分かると思うよ。俺も自分の気持ち、分かったしね」
そう言って東条さんが微笑む。
「俺も同じだった。自分なりの答えを出していたり、目標にしていくものがあると違うなあ」
真田さんも言った。
二人の言葉を聞いて少し嬉しくなった。
二人と別れて、監督に迎えに来てもらった車内で言われた。
「編集、今いいのが作れるようにプロデューサーとも話し合っている」
東京の情景は、年末前だからといっても、いつもと変わらないような気がした。
「選んだ素材映像から不要な部分をカットして、必要な映像をつなぎ合わせるという作業って、とてつもなく難関ですよね」
監督は少し考えて
「正解は分からないけど、観客が望み、次を観たいと思わせる映画にするために奮闘しているようなものだからねえ」
と言った時、監督の家に着いた。
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