第42話 クランクアップ
十二月の上旬で寒くなってきたが、屋敷の暖房が効いているため寒くはなかった。
クランクアップし、キャスト陣に花束をスタッフが渡す。日内さんと目が合うと手を振って笑っていた。俺は頭を下げるだけだったが
「ありがとう」
という声が届いた。その声で、俺の緊張が高まった気がした。
俺に渡された花束を両手で受け取るとスタッフは次の人の元へ向かう。
そして、俺の元にも花束が渡された。
「俺も花束貰っちゃっていいんですか?」
隣にいた真田さんに小声で訊くと
「帰りの飛行機で、持ち帰るの大変だったら、俺が手入れしますよ。これでも叔父さん夫婦の花屋の手伝い、昔はしてたし」
と笑われた。恐らく、貰ってもいいと言うことだろう。
撮影は無事に終えられたが、問題はここから。
録音と編集をして映画を仕上げていく。ここからはプロデューサーが取り仕切ることになる。監督は最後の方になるまで口出ししないと言っていた。
音響監督の挨拶が終わった後、出演者たちとプロデューサーでこれからのスケジュール確認をし、打ち上げが行われた。乾杯が終わると各々好きなように飲み食いを始めた。俺は酒は飲まず、食事には手をつけた。皆でわいわい騒いでいる。
この日は、礼くんや元基さん役の方も来ていた。
礼くんは芸能界で生きる自信がついたのか、顔が引き締まっているように感じる。
「今度、グループじゃなくて、俺個人の主演CMの出演決まったんです!」
と、目を輝かせて喜んでいた。俺も嬉しかった。
「おめでとう! 何のCM?」
「麦茶のCMです。振り付けを、今覚えてて」
楽しそうに話してくれる。
「いやー、明るくなったね。礼くん」
と言って、東条さんが会話に入ってきて、数分経ったあたりで真田さんも会話に入ってきた。
「めでたいねー!」
二人も笑う。
「まだまだこれからですけどね」
礼くんが付け加えている。
「それは俺もです」
真田さんが右手を小さく上げる。
「いや、それは俺もだわ」
と東条さんも手を挙げて、今のやりとりがなんだかおかしくなって、腹を抱えて笑った。
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