第38話 別格

 次の日の撮影は、ルイーナ役の日内ひうちさんも参加。テレビカメラでインタビューをされて緊張していそうだが、終始楽しそうな様子でインタビューが行われていた。

「日内さんの演技は美しい。よく見ておけ」

 東条さんが、いよいよ撮影という時に、俺の隣に座ってきた。スタッフの声の合図で演技が開始する。


「俺がいない間、大丈夫だった?」

「ちっとも……。ねえ、私ね、あなたがいないとダメなの」

演じ方が美しい、本当に恋をしているようだった。

例えるなら、花だ。

「……チニ国の発展のためにツイ国に来たものだ。いわば国のものなのだ。ずっと一緒は無理だ」

計算をしているのか、真田さんの演技が崩れないように自らをコントロールしているような表情、声のトーン、カメラへの見せ方。どれもがパーフェクトと言っても過言じゃない。

「君と一緒にいることが、国のためではない」

 この時の顔に、心を奪われる。言葉の重みを理解しての演技だ。

「でも……あなたを愛してる。あなたしか見えていないもの」

言葉通り、日向さんが演じるルイーナは愛しい者を見るように目を潤ませる。

 そして、真田さんが演じる光介がルイーナを抱きしめて、キスシーンも余韻が残るように、切なく、美しく演じられている。

 真田さんの表情もルイーナを見つめながら愛の告白をするかのように熱を帯びていた。


 凄すぎんだろ。と心の中で叫ぶ。

 演じ方はそれぞれ違うが、この現場で一番目に惹かれるのは日内さんの演技だ。真田さんは、悪役を演じてきたことを生かし、感情表現は上手くできているが、日内さんには、それ以上に人の心を掴む魅力があると感じたのだ。彼女の姿に目を奪われてしまうのである。こんなに素晴らしい人は見たことがない。まるで天使のように綺麗だった。

「ありがとうございました」

 日内さんが挨拶をして現場を出て、楽屋に戻って行く。

「美しいでしょー」

「監督!!」

「そんなに驚かなくても」

と笑われた。

日内寿里ひうちじゅりは二十六歳の、演技に関して言うと若手トップクラスと言われる女優」

「確かに。あれは別格だ。流石です」

「あの女優の美しい演技を止められるものはいないだろうな。食われるんだよ。でも、彼女はそれをコントロール。つまり、己の力に変えている。才能の塊なんだよ。本当に」

「なるほど」

「凄い女優なんだ。彼女が演じることで作品が完成すると言ってもいい。君もそう思うでしょ?」

監督は真剣な声で言った。

「何というか、可愛い神様とか、天使みたいな人ですよね。でも、ちょっと怖いです」

「うん、そうだね。まさに天使そのものだ」

 監督が日内さんのことを褒めると嬉しそうにしている。俺は「失礼します」と言って部屋を出た。

 日内さんは俺よりも数歳歳下だが、大人のようで、大人に見えない。

 

 部屋を出ると声をかけられた。

「本当に、紳士的な顔立ちと歩き方ですね」

振り返って、声の主を確認する。

「日内寿里、さん?」

すらっとしたスタイル、くっきりした目の形、セットされた髪型。美しいと何度も思う。

「なんで疑問系なんです?」

うふふ、と可愛く笑われた。

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