第37話 人気女優の話題

 撮影用のパーティーのセットにはこだわりがあった。食器やグラス、メニューなど、当時のドイツを再現している。


 撮影が終わり次第、そのまま食材が勿体無いという理由と、役者とスタッフのモチベーションのために少し遅い夕食のパーティーが行われた。

「こんばんはー」

「真田さん!」

 先程、東条さんが演じるローランドとパーティーが行われている中でのお話のシーンが撮られていたため、それなりにかっこいい格好をしている。

「十一月の日本はちょっと違いますか?」

「はい、この現場辺りでは、どんぐりや木の実だとか落ちてますよね」

「そこに目がいくか、都心部よりはあるかもしれませんね」

観点が面白いと笑う。

「いよいよ明日から、ルイーナが入っての撮影でして。緊張します」

真田さんの表情がころっと変わった。緊張で顔がさらに怖い。

「ルイーナ役の方、あまり詳しくないのですが、アイドルとかですか?」

俺はお茶を飲む。

「モデル兼女優って感じの方ですね。幼少期には既に売れっ子の子で、雑誌の専属モデルにもなってたなあ。その時は十一歳だったらしいから、小五で売れっ子です。すごいーなって思います」

「モデルですか、なるほど」

「ま、十九歳の時に人気シリーズもののドラマのヒロイン役を終えた後、雑誌の専属モデルを卒業して、芸能界で熱心に活動してた子だし。数年前から、一回芸能活動を休止してて、今回で活動復帰だそうで」

丁寧に説明をしてくれた。


 それから、礼くんの元気の無さは、真田さんもわかっていたようで

「気にかけてはいるんだけどな、自分のこともあるし、あいつもあいつで悩んでるから。あまり干渉しないようにしてんです」

と言っていた。

「ま、折角のパーティー! 楽しみましょ」

真田さんが不器用に笑う。

「日本では、誕生日パーティーとかしないんですか?」

真田さんは少し考えて

「まあ、家庭によりますね。ケーキ食べてとかはあると思うけど」

「真田さんはお祝いしてもらったりは?」

「ありました! 姉がケーキとか作るの好きで、それをよく食べてました。あとは、叔父夫婦が花屋さんでしてね。俺も花屋の手伝いとか好きで、花とかよく送られてたんです」

「可愛いですね」

「えー、やっぱり? そう思っちゃう?」

ニコニコと嬉しそうに笑う。

 アルバイトばかりの生活をしていた高校時代、地元の商店街の芸能事務所のチラシを見て、自分の実力を試したく、芸能界に足を踏み入れたことも教えてくれた。

「みんな、芸能界への入り方は違うんですね」

 人それぞれの道を辿って、今この現場にいる。

 なんだか、偶然の巡り合わせだなと思った。

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