第29話 生き様
幸せな道とは何なのだろうか?
何が正解なのか分からない。後悔しないことと、かっこいいことを言ってみたいものだが、後悔はするだろうし、そんな強い心があるわけじゃないから。
だけど、人生とは選択の連続だとはよく言ったものだ。俺は前を向いて進まなければいけないから立ち止まってはいられない。
ローランドさんはあれから現れることはなかった。
恐らく、もう会えことは叶わないだろう。まるで、風で表すのなら、ふわりと吹いてどこかに消えてしまったかのようだと思った。
そして留学を終えるのだった。
港では目に着くということから朝方、屋敷でルイーナとセイと別れることになった。
外は曇り空である。太陽が隠れている。
ルイーナは堪らなく寂しそうな顔をして泣き出しそうだった。
「本当にお世話になったわ。あなたがいなかったら、今の私はいないでしょうね。あなたは私の人生の支えだったの。ありがとう。これからも応援しているわ。それと……」
ルイーナはだんまりとして俯いた。
「ルイーナ?」
俺は、泣き出してしまうのだろうかと心配して、名を呼ぶ。
「忘れてって言おうとしたの。私とセイをね。でも、なんだか怖くなって具体的には言えないけど、どうか幸せになってほしい。だってあなたは後世に語り継がれるような立派な人だから」
「立派ではない。それに忘れない。何があっても、どんな状況下であっても」
彼女は嬉しそうでありながら、悲しい笑みを浮かべた。
「立派よ。私が言うんだから間違いなし! だから、自信持って」
なんだか、ルイーナの言葉で自信が持てる。不思議だ。
「はい」
「さて、そろそろ船に行かないとね」
「うん」
セイは五歳になる前の男の子。髪色はルイーナ譲りとはいえ、俺の面影もどこか受け継いでいる。目なんか特にだ。色も形も見るだけでルイーナは思い出してしまのだろう。
俺は、愛しい息子の成長を見守ることができないことに後ろ髪を引かれる思いでルイーナとセイをそっと抱きしめた。
「愛してるなんて気軽に言えないけど、俺は二人を愛している。俺にとって大切な存在だ。どうか元気で」
「コウも、げんきで!」
「元気で」
こうして俺は二人の元を離れた。
一度来た道を振り返ると、ルイーナがセイ抱きしめて肩を震わせていた。できることならずっと傍にいたい。けれど、国の期待を裏切ってまでも、二人を幸せにする覚悟がまだない。最低な男だ。
港まで馬車で向かい、船に乗ってチニ国へと向かって行った。
船に乗る。着席すると、すぐに出港したようだ。
光介とルイーナとセイで撮った写真は唯一の証拠のようで、光介は船の部屋で一人で泣いた。
泣いたと言っても嗚咽はできなかった。ただ涙を流していただけだった。
祖母は、全て読み終わったと報告してきた。
途中、飛ばすて読んだ部分もあったが、読後感は悪くはない、と言ってそっと笑う。
「疲れたよね」
「そうね……」
祖母はふっと息を吐く。そして語る。
「私は罪滅ぼしとまではいかないけれど、あなたには真実を知る権利があると思う。だから、そのきっかけができて良かった」
「うん。ありがとう」
彼女が、祖母が、どんな気持ちでこの本を読んでいたのか。体力もメンタル的にも辛かっただろう。
祖母は、光生の話が映画することを、まだ他人事のように思っているのだろう、と話していた。
「真実を知った今、どう?」
祖母は切なく笑って
「最後は、結局お国のために生きたのでしょう? 私はその過程でしかなかった。若かったからね、全てがときめいて見えていたのかもしれない」
「うん」
「私は、そんなもので死にたくない。せめて自分らしく生きたかったわ」
と、切実に言う。
「でも光生は、最後までお祖母ちゃんを思って死んでたのは事実だよ。この映画でお祖母ちゃんの気持ちを蘇られる」
「どんな気持ちを?」
「好きな人が自分のことを思ってくれるって、一番嬉しいことだって。どんな宝石よりも美しくて特別なんだって」
すると、祖母は自嘲したかのようにフッと笑った。
「あら、随分と知った口を利くのね。いつからそんな大層な考えを持つようになったのかしら」
と少しムッとして言うので俺は慌てた。
「ふふふ……冗談よ!」
「え?」
思わず、素っ頓狂な声を出してしまった。
「映画、どう転がるかわからないけど、スバルと監督にとってのヒット作になることを願っているわ」
祖母は優しく微笑んでいたが、どこか切なげで儚い印象だった。
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