第28話 祈り
晴れた日の昼頃、写真館で写真を撮った。セイはまだ五つにもなっていない。ルイーナの膝の上に乗っけてルイーナは椅子に座り、俺はその横に立つ。俺たちは上等な布で作られた服を身につけている。ルイーナも白基調としたドレスを着ていて綺麗だ。セイも灰色ベースとした姿でとても可愛らしい。
三人ともカメラに顔を向けた。
これは思い出であり、未来の希望。大切な宝物となった瞬間だった。
これからもこの日々を忘れることなんてないだろう。俺たちにとってはかけがえのないものなのだ。写真はカラーではないので、服の色なんて分からないだろうが、持っているだけで、妖術のように不思議な力で色が浮かぶかもしれないなと思うのだった。
チニ国に来てからの日々は慌ただしくて大変だったものの充実していて楽しいものだったと言える。ルイーナとは一緒に暮らすようになって、セイとも仲良くなることができた。
ロジャーさんや留学仲間とも話す機会ができた。市朗さんにも感謝している。留学生のなかでも一番何かと気にかけてくれたのだ。もう、俺ルイーナの秘密にも勘付いているだろう。
チニ国のお偉いさんに国際結婚をしたいと伝えるかも考えたが、ロジャーさんも市朗さんも「それはよろしくない!」と言っていたから断念せざるを得なかった。
確かにこの国では異国の人との婚姻関係はタブーとされているからだそうだ。俺も折れた。諦めざるを得ないのだ。
それに、もしも仮に認めてもらえても、セイや彼女や俺たちに危険が及ぶ可能性もあったから。
無理矢理にでも諦めざるを得なかった。それが正しい選択なのだと納得しなくてはいけなかった。
ある日、チニ国に俺たちを招いてくれたチニ国の政府関係者、医療施設の責任者たちが一堂に集まったパーティーが開かれることになった。
ルイーナもセイもお留守番をしてもらう。パーティー会場に向かうために、馬車に乗る前に、二人で軽く挨拶を交わした。それから留学生たちと集合してパーティー会場に向かった。
留学生もロジャーさんなどの現地の協力者たちも、正装のスーツに袖を通さなくてはいけない決まりなので、皆着飾っている。
俺たちは会場に入る。
そして主催者である人が俺たちのところに来た。彼は握手を求めてきて応じると、俺に話しかけてくる。
「君はコウと呼ばれているようじゃないか〜。かなり評判がよろしいようで各メディアの注目が集まっているぞ。それにしても……東洋人の君がまさかあのような功績を残すなど誰も想像していなかったことだし、素晴らしいことだ! 君の名はまた有名になるだろう」
それから、彼は続けて話す。
「それと、私の妻を紹介するね」
「初めまして、妻のマリエです」
彼女は言って、俺の目の前にいる人の隣で微笑んでいる。
その様子はいかにも幸せそうなオーラが出ている。若い奥さんの方は三十前後と言った印象だ。旦那さんの方の見た目は中年太りが出てきてる感じはあるけど。
そして彼らは、離れていった。
しばらくしたら、今度はルイーナのご両親に会うことになる。調査の協力を彼らにも協力してもらったし、ルイーナの亡き旦那様にも話は聞かしてもらったし。
俺は緊張しながら挨拶をすると
「お世話になっているみたいで。ルイーナも、人見知りなところがあったし、政略結婚で辛い思いをしたと思うのに、旦那様は亡くなり子供を授かって、とても辛かったの思うの。なのに、コウさんが支えてくれていたから」
奥さんは目を細めて話してくれた。彼女の目元を見ると、涙ぐんでいて悲しさと寂しさを感じてしまった。俺の知らないルイーナの話を聞くのは初めてだったから尚更である。そんな風に思ってくださったんだと嬉しく思えた。
一方で、複雑な気持ちになったのである。それからルイーナの父親が
「どうして、ルイーナによくしていただけるのです? ルイーナの我儘でしょうか? 留学で来たというのに、出産の時まで立ち会ってくれたとか……」
ルイーナの父親は少々不安げに質問してきた。俺は正直にこう言ったのだ。
「彼女は、素敵な方です。彼女の魅力に気付いてくださる旦那様との縁を、心から祈っております」
と伝えた。そうすると、父親の表情は明るくなって
「ありがとう」
お礼を言われた。その後、母親が
「あなたにそこまで言わせるとは凄いわねえ、ルイーナ。これからのあなたがどんな人生を歩むのか、私は応援していますよ」
と言って、ニコッと笑われた。
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