第26話 星

 春から夏にかけて、俺は自分を責めた。もしかしたらルイーナのお腹に俺の子供が宿ってしまうかもしれないという不安もあったからだ。

 夏の初めに会って、しばらくは勉学に励んでいた。


 中旬になる頃の夏風が吹く朝方。屋敷を訪れると使用人がルイーナが倒れたという話を聞いた。

 心配して様子を見に行くと、自分の目を疑った。ルイーナのお腹が大きくなっていたのだ。

 話を聞くと夏の初めにはすでに吐き気があったという。

「あなたと同じ、黒目の子供が産まれるかしら」

彼女は、クスッと笑う。そして、ベットに座っていた。

「亡くなった旦那さんの子供ではないのか?」

怖かった。どう、責任が取れるだろうか。少なくても、一度帰国しなくてはいけない。

「医者にも両親にもそうやって誤魔化したけど、時期的には間違いなくあなたとの子よ。ごめんなさいね。この子を産みたいと思ってしまったの」

 悲しげな瞳を向けられて何も答えられなかった。きっと俺自身もそうしたいと思ったはずだから。


 妊娠が発覚してからというもの、体調面を考慮しつつルイーナの傍にいるようにして過ごした。

「元夫の瞳は濃い青色だったっから誤魔化しは効くわ。だからそんな顔をしないで。私はあなたが思っているよりも何千倍と強いわよ」

 そう言って優しく笑いかけてくれたが、俺にとってはやはり心配なもので、なるべく傍についていた。

 ロジャーさんも気を遣って彼女の傍にいれるようにと、本に触れるように学書を勧めたりしてくれた。

「本当に俺の子でいいの?」

「何回訊いたらわかるのよ」

と笑いながら言う。

「大丈夫、立派に育てる。でも、産まれたての顔は見られるでしょ? きっと可愛いわよ」

と続けて言った。

 まだ、性別は分からない。それでも、どちら似なのかとか考えることが色々と楽しみで仕方がなかった。


 亡くなった旦那さんの屋敷は、旦那さんの血縁者の方が、屋敷は使わないからと言って、彼女が住んでもいいということになった。


 月日は流れていき、出産予定日から数日経った日の朝方に、破水が起きた。俺は彼女の傍にいたので、すぐに使用人に伝える。陣痛が来たものの間隔が短くなりすぎないようにと注意されながら。

 夕方頃になりお湯やタオルを持ってきてもらい、彼女を楽にさせる。

「もう少しであなたの子がここに来るわ。名前を決めてあげて」

 汗だくになりつつも笑顔を見せてくる彼女を見て覚悟を決めた。


 それから数時間後の真夜中過ぎ。大きな産声が響いた。男の子の赤ん坊。髪色はルイーナ譲りだが、瞳の色は俺譲りの黒だった。生まれたばかりにも関わらずしっかりとした表情をした赤ん坊だった。

 医者が赤ちゃんを確認すると言い出す。

 「名前は決まっている」

と伝えさせてもらった。

「では、なんと言う名だね?」

 医者は俺に聞く。

「セイです。この名前が良いと思います」

 彼女が産後の疲れ切った声で質問をする。

「名前の由来は?」

と言って。

「チニ国で『星』という漢字を上下で半分にして意味を付けをした。『日々を生きる』という意味になる。風変わりの名前だろうかね」

 すると嬉しそうにして、「ありがとう」と言った。

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