第三章
第23話 美しい時間
あれから一年が経とうとしているが、ローランドの消息は未だ不明である。
今は雪がチラチラ降る、まだ寒さが残る冬。冬は寒すぎて外に出ることは億劫になっていたが、学校に通う子どもたちは、相変わらず元気一杯だった。
俺の研究や調査に協力してくれるという十歳年上のロジャー・シフォルストは、不思議な雰囲気を持った人物だった。最初はあまり話さなかったのだが、徐々に心を通わせていって、今では友人関係にまで至っている。
彼はSF物語が好きなようで、ローランドさんのことについて口を滑らして名前は伏せて話してしまった際には
「そうですか。それは残念ですね。しかし、私は信じています。いつかあなたに会うことがあるということを」
彼はそう言って微笑んだ。
「そう言ってくれると嬉しいです」
俺の肩を叩き励ましてくれる彼は、実に良い人である。
俺のことをよく考えてくれていることが伺える。ローランドさんの話をすると少し落ち込んでしまうのは申し訳ないが仕方ないことなのだ。
俺は、母国のチニ国の教養や文化を、知り合った名のある貴族の夫人に教えたところ、お礼に訪れた貴族の主人に気に入られたらしい。
今夜パーティーを開くので是非きてほしいと言われた。
貴族が開くパーティなど生まれて初めてだったので、どのような服装をすればいいのか悩んだ挙句、普段通りの正装のスーツで行った。
会場に着くと皆正装をして談笑をしていたり、ダンスをしたりしている様子が見られた。豪華なシャンデリアがあり煌びやかな光を放っている。天井を見るとシャンデリアがいくつかぶら下がっていた。まるで鳥の巣のようなデザインをしているもので美しい。会場内は広かった。
そこで得られるものもあった。教養、礼儀、作法、社交性といったものである。今まで学んできたものは間違いではなかったようだと再確認することができた。
しばらく立ち尽くしていたが、そろそろ帰ろうかと思って出口に向かったその時だった。
一人の女性に声を掛けられる。
振り返ればそこに立っていた女性は、真っ赤なドレスに身を包みクリーム色の金色の長い髪を輝かせていた。目の色は髪と同じ色で、とても綺麗で顔つきも良い女性で、ツイ国での美人に一瞬固まってしまったほどだった。彼女の周りには男性がいたので、恋人同士かボディーガードだろうと予測できるが、それにしても彼女は美しすぎる。目が釘付けになってしまうほどの美しさだった。
彼女が
「一曲、一緒に踊ってくださる?」
と微笑んでいた。しかし、俺は踊りを試したことがない。踊れないと言って誘いを断ろうとする。しかし
「私が教えますから、大丈夫ですよ」
と言ってくれた。結局、その場の雰囲気で断ることができず、お願いすることにした。
彼女がステップを踏む度に赤い薔薇の花飾りをつけた金の髪がフワッ揺れるのが目に焼き付く。
「力抜いてください」
「そんなこと言われても」
俺は苦笑いしながら、どうすれば分からない状況を少し楽しんでいた。ワルツなんて記憶上では踊ったことがない。
そして、優雅に流れる音楽に乗りながら俺たちの周りで人々が踊る。素晴らしい時間だった。
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