第22話 反逆者
「コウ、話なら聞いてやるから」
と言って、先生に学校の空き教室を使い、ローランドという男に救われたことを話した。タイムスリップしてきた人だとは言わずに。
「先程、授業で取り扱った作品は最近のものです。コウ、モデルの方の名前をご存じかい?」
「知りません」
「ローランド・ジョイアという男です。会ったこともありませんし、医者かも分かりませんが、ボランティア活動家だという話は聞いたことがあります。噂かもしれないので、鵜呑みにしないように」
「ありがとうございます」
俺は頭を小さく下げてお礼を言った。
「君は勉学に集中しなさい。連絡をとってみるから。しばらく待っていておくれ」
と言われ、先生と二人で空き教室を出た。
連絡がついたのは、数日後。わりと早かった。俺に直接会いに行きたいとのことで、午前中は学校の方で子どもたちの相手をして、午後は彼を待つために学校の門の外れの方で待つことになっていた。
そのため、俺は門の方に向かっていた。その最中
「やあ」
と爽やかな声が聞こえた。振り返ってみると、そこには四十近くのスマートそうな男性が微笑んで俺を見ていた。金髪の髪は長髪の部類に入るくらいに伸ばされているが、整えられている。青々しい瞳は美しく目を奪われる。俺は思わず、口を少し開けて呆然としてしまった。
「ローランドだよ、君のことは……普段なら忘れたと言うところなんだけど、君にはなぜだか言えなくてね。言えないというより、言いたくなかった」
そこまで言った後に、はっきり俺の顔を見て
「久しぶり」
その言葉を、産まれる前から待ち望んでいたかのようであった。心が高ぶっていく一方で、体の奥底では何かが違うような気がしていた。それでも、目の前にいる人は、紛れもなくあの人であった。涙が流れてしまいそうになる。
俺はなんとか耐えようとしたものの、やはり溢れてしまったようで
「あ、あれ? おかしいな……」
と情けない声で言った。すると、涙を拭ってくれる。
「光介。赤ん坊だった君の背中には、宿命という名の刺繡がされてあったよ。それを外すことは許されなかった。僕たちの未来を守るたちに」
悲しげな表情を浮かべながらも優しい眼差しをこちらに向けてくる。彼の目は、海よりも深い優しさに包まれていて綺麗だった。
俺は、また泣き出しそうになり、堪えるために息を止めたり吐いたりを繰り返していたら
「ゆっくり深呼吸をするといいよ」
そう囁いてきた。言われた通りにしてみると少しずつ落ち着いてきた。
「僕の正体はご両親から聞いたかね?」
「はい」
「そうかい、それは良かった。君に再び会うことはないと思っていた。君は、未来を救うものの一人だったのだよ」
過去形。
「医者の道に行っていたら……ということでしょうか?」
「違う。君はまだ知らないかもしれないが、近いうちに必ず起こる出来事がある。そこで、もう起きないように歴史を変えていこうと思ったのだ」
歴史を変える。一体どういうことだろう。疑問だらけだったが
「場所を変えようか」
と言って、馬車で数十キロ先の洋学者が集まったりするという場所に連れて行かれた。
そこに着いた時の風は暖かく柔らかく感じた。彼は慣れているのか、建物の奥にどんどん進んでいく。俺もその後についていき、本館から別棟のようなところに入ると、そこにはたくさんの人が本を読んだり研究に没頭したりして、各々が自由に行動していた。
「ここで、僕は様々な知識を身につけていったね。ここでこの時代の空気、生き方、作法を目の当たりにして知ったよ」
個室に二人で入った。
「僕は未来人。君が救世主になる、何千年後の未来の出身。そして、歴史を変える。そのためには、まず君が必要なのだよ」
彼は椅子に腰掛ける。
俺は何が起きているのか全く分からないままに立っていたのだが
「とりあえず、座りたまえよ。疲れただろ」
と言われるまま座る。
「今から話すことは、他言無用の秘密事項だからね。よく理解しておくれよ」
真剣に俺を見つめてくるので背筋を伸ばして返事をした。すると
「まずは、この世界の成り立ちを話すところから始めなければならないね」
と言った後、彼が言うことを一言一句漏らさないように耳を傾けながら聞いていた。
世界の始まり、歴史。考察していること。
「これは未来の技術者たちにお礼を言いたまえ。そして、技術が発達して、死んだ人たちの中に人類の歴史として長く生きてもらわなきゃいけなかった人まで死んでしまった出来事がこれから起こる」
「俺は全員を救えと?」
「全員ではない。君は自然と救っていくだろうよ。そんなもんだよ」
軽く流される。
「僕たちが変えようとする出来事はね、とある発明で死者を大量に出してしまったことを変えたいのだ。この国の出身者ではないが、未来の世で原爆の父と呼ばれる人よって、君の母国も被害に遭わう。その出来事を変えようと、未来人が動いているだろうよ」
その言葉を発した直後にドアが開かれて、誰かが入ってきたので咄嵯にローランドさんに連れられて、手を握られたまま身を隠す。
入ってきたのは、白衣を着ていて研究者と思われる男の人だったが、どうにも様子がおかしかったので、隠れながらその様子を窺うことにした。彼は
「反逆者……」
と呟いて部屋を出て行く。
俺はローランドさんを見る。ローランドさんは握っていた手を離して
「すっかり追われる身になってしまったよ。その発明、計画を止めようとしたが、どうやら無理そうだ。協力者はツイ国にもいたらしい」
悲しそうな瞳は曇らせていた。
「この世界は色んなもので溢れている。これからもだ。生きなさい。君に救われる人たちは、たくさんいるのだから」
と言い残し、部屋の窓から出て行こうとしたところを急いで止めた。
「ローランドさん! ここ二階ですよ!?」
彼は笑った後に
「僕は飛べるのさ」
そう言って飛び降りていく。地面にぶつかる音と同時に砂埃が舞い上がった。目を細めて見つめるとそこには何もない地面があった。恐るべし、科学力である。
その後、すぐ下の方で爆発音がした。
「また会おう。光介」
という言葉と共に消えていった。煙の中から出てきて空高く飛び立ったのが見えたがその姿は見えなくなっていた。本当に空を飛んだのか……凄いな。未来というのは、と感心していながら俺は宿泊施設に帰った。
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