第21話 有名な男

大事な仕事というのは大学医療の進歩しているツイ国の医師たちに、チニ国の医療についてどんなものか知りたいとの要望を受けたという内容のものだということを教えてくれた。

「チニ国は薬草とか漢方薬で病気を治したりすることが多いです。手術などのことは行わないケースが多いかと。子どもを出産する時は神に念仏を詠んで祈る習慣もあるんですよ」

そう答えると

「へえ~、それは知らなかった」

と言われて少しだけ誇らしくなった。


 その後、学校に行く時間になったので、学校に向かった。教室に入ると子どもたちは既に席に座っている状態で、授業が始まるまでの暇つぶしをしていたようだ。

「コウ!」

子どもたちは、俺の顔を見るなり嬉しそうにしている。

 コウというのは愛称で

「光介は呼びずらい」

はじめに自己紹介した時にそう言われたので、自ら

「コウはどうだ?」

と、提案する。

「コウ!」

舌ったらずの声で、子ども独特のキラキラとした瞳をしながら答えてくれた。その愛称を気に入ってもらうことができ、そう呼ばれることになった。

 それ以来、子どもたちからは『コウ』と呼ばれている。

 新鮮で嬉しかったりする。子供たちに囲まれて慕われると先生は、こういう感覚なのかとも思うことがあったりもするが、まだよくわからなかった。


 この学校は、町外れではあるが生徒の人数は多く、建物も比較的新しいらしい。昔ながらの建物が多い中で、珍しいなと思った。

 優秀な大学を出た先生方が多いということで、ここで授業を聞いたり、子どもたちの相手をしたりして、チニ国に取り入れて発展させていくべきものを日々勉強しながら過ごしている。そうやって日々が過ぎて、滞在期間が終わってしまうのだと思っていた。


 滞在期間は六年と言ったところだった。


 今日は、文学の授業で時空を超えてやって来た完璧主義の男の話を取り扱った。

 完璧な男の話は有名だが、彼は完璧な存在になるため、過去にタイムスリップしたという話なのだ。彼がタイムマシンに乗り込んで過去の世界にいく物語を読み聞かし、先生は読み聞かせていた。

 俺はとある人物が頭に浮かび、家族以外には言っていないあの人の名前をその授業をしていた先生に尋ねた。白髪頭の髭が立派に伸びた先生だった。

「あの」

「ん、どうしたのかな」

「ローランドという医者はご存じでしょうか?」

俺は風が廊下の窓から入ってくるのを感じた。

「ローランド……? どこかで聞いたことがある名前ですね」

先生が考えるように頬を掻いていると

「会ったことありますよ! 確か三年ほど前にチホク村に来ていた医師ですよ。そういえば今どうしてるんですかね?」

 その声の主は、博識で学校でも有名な十歳を過ぎた女の子。ハキハキとした喋り方をする子だった。小麦色の髪色とサファイヤの瞳の色をした大きな眼鏡をかけて、髪は肩につくかつかないくらいの長さである。

「チホク村?」

 俺はその村のことも、名前もよくわからずで詳しく聞いてみると

「あの、丘を越えてずっと行ったところに小さな農村があって、そこに行くと分かります。そこが、チホク村という場所です」

 彼女は、そう説明してくれた。すると、隣にいた少年が口を開いた。

「そこはさっき言ってた、ローランドの男が来た場所だよ」

そう言うとその少女は驚いた様子を見せ

「なんだか、考えが今の私たちと合わないって大人が言っていたのを聞いた」

女の子が言ったので

「俺さ、ローランドって先生に会ってみたいんだ。確信してなくてもいい。本当は今すぐにでも会いたいんだ」

隣にいた男の子は

「オレのお父さん、医学の道具を使うからなのか知らないけど、港によく来てる時があるって言ってたよ」

俺の言葉に反応してくれた子が教えてくれた。

「俺も! 話聞きたーい!」

 しかし、他の子たちも一斉に話し始めて収拾がつかなくなってしまった。

 俺は先生の方を見ると、「まあまあ落ち着きなさい」と言ってみんなを落ち着かせてくれた。

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