第19話 若人の留学

 大井宅の皆さんにお礼を伝えて、元基さんには

「様になっているな。若人って感じはするがな」

そう言って、スーツ姿を褒めてくれた。

 仕立ての良い暗い色のスーツは、大人らしさを醸し出している。

「元基さんこそ、いつも着てるお洋服お似合いですのでそれには敵いませんよ」

「だろ? 僕はなんでも着こなすからな!」

と自慢げに言うので、少し呆れてしまった。

「じゃあな! しっかりやれよな!」

「はい!」

 両親からの手紙を船で読むため、珠子さんからそれらを預かる。

「それでは、行ってまいります」

そう言って、大井宅の玄関を出た。


 春が近づいてきているとはいえまだ寒い時期である。しかし、雪は溶けてなくなっていた。

 ツイ国までは船で数ヶ月はかかるし、何度か港町で降りて違う船に乗り換える必要があった。

 俺は、医学関係の人たちと合流し、船に乗ってツイ国へ向かう。

 初めの船は十四日はかかったが次の船に変わってからは一ヶ月以上かかった。

 その間に船酔いにも耐えなければならない状態だった。幸い船室に篭っていることが多かったので良かったが、外にいた時は最悪だったかもしれないと思ったりもした。

 ツイ国の港に着いたのは夕方頃で、その足で馬車に乗り込んだ。

 留学生は俺たち含め四人だった。全員男性だったが、みんな年上。一人はとても優しそうな顔立ちの男性で、もう一人の人は体格がよくいかにも強そうと言ったイメージだった。最後の一人の人はあまりよくわからない雰囲気だったのだが、どこか冷たく見える人ではあるけれどシュッとした顔立ちが整った人だった。

 その、顔立ちが整った人に俺の顔色が悪かったのか、馬車の中で声をかけられた。

「お前、大丈夫なのか」

 初対面だというのにも関わらず、気遣ってくれるような言葉を投げかけられた俺はびっくりして目を丸くしながら固まっていると続けて彼は口を開いた。

「お前、一番年下だからなんも分かってないって思ってたけど、気を遣い過ぎるだろ? それに俺らの年齢考えてくれよ」

「あ、はい。ありがとうございます……」

何を言われているのかはよく理解できなかったが、とりあえず返事をするべきだろうと適当にしておいたが、正解であった。

 彼の名は市朗いちろうと言うそうだ。

 日本の夕刻よりも空気が違う気がする。匂いが全く違くて慣れるまで大変だと痛感した。異国の地に来てしまったのだと思うと、その気持ちがより強くなったのを感じるのと同時に緊張してきた。

 俺以外は医学のために留学してきたもので、俺は教養学を学び、西洋の知識を身に付けて、チニ国で他の人に教育するためにここにいる。

 教養というより、文化の違いや、書物に触れて学んでこいと言われていて俺は何を学ぶべきなのだろうかと考える時間もあった。


 そんなことを考えていると目的地に着いたらしく馬車から降りる。

 そこは大きな病院の入口の前だった。ここで勉強ができるのだという。その建物の大きさには驚くしかなかった。

「まずは、先生たちに挨拶をしないといけない。ついてきてほしい」

と現地の方に言われて馬車を降り、病院の会議室のようなところに入る。

 流石、西洋というべきか用意された椅子が高く座れなかったため、立って話すことになってしまっていた。

 その部屋にいる人たちは、年齢は様々ではあったが、大体同じくらいか少し歳上に見えてしまう。俺たちが入ってきて自己紹介を行った。

 どうやら、今目の前にいる年齢が近そうな人達は教育係のようなポジションらしい。金髪の人や赤髪の人など、髪色は異なっていたが、皆身長が高く、威圧的ではないものの、しっかりと芯のあるような顔をしているように見えた。

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