第12話 朝と読みかけの小説

 翌朝、ルーシーは日が昇り始めた頃に起きて、一時間くらい経ってからデスクトップパソコンに向かった。小説の続きを読み始めようとしていたが、玄関チャイムが鳴った。

 玄関のドアを開ける。すると、そこにはスバルがいた。

 ルーシーは驚いたがすぐに笑顔になって「おはよう」と挨拶をした。

「おはよう。お祖母ちゃん、早く起きると思って」

光生も笑顔で返してくれた。そして彼はこう言ったのである。

「今日は、お祖母ちゃんの家で仕事させて。小説の続き読んでて大丈夫だから」

「スバル、私を監視するようなことをしなくても読み進めていますよ。だから気にしないでください」

「お祖母ちゃん、監視しに来たわけじゃないよ。心配してるんだ」

スバルはそう言ったが、ルーシーにとっては監視に来ているとしか思えなかった。ルーシーは随分前から昨日まで、光生のことをあまり考えないようにしていたから。

 光生が生きていたとしたら、どんな顔をして光生に会えばいいのかわからない。

「大丈夫、もう心配ないから」

ルーシーは笑ってそう答えたがスバルは首を横に振る。

「お祖母ちゃん……俺はね、お祖母ちゃんのことが心配なんだ」

ルーシーは、やれやれとスバルの肩に触れ「上がって」と言って中に入れた。


 リビングに行き、お茶を淹れる準備をしてから話を始めた。

「お祖母ちゃん……なんで、光生のことを俺に言わなかったんだ?」

「ごめんなさいね。あなたまで辛い思いをするんじゃないかと怖かったのよ」

「俺は大丈夫。というか、言うのが遅かったくらいだよ」

彼は少し怒ったような口調で言ってきたのでルーシーは驚いた。

「俺、家族のルーツをあまり知らないから興味あるし」

スバルは、少し悲しそうにそう言った。

確かにスバルは、親の仕事やルーツなどはルーシーに聞いたことがないし聞いてこなかった。スバルは何か隠しているなとは思いつつもあえて追求はしなかった。

 でもそれは光生のことが気になっているからだろうと思っていたのだが……どうやらそれだけではないようだったのだ。


 お茶をスバルの前に差し出して、彼の正面に座ったルーシーは聞くことにした。

「光生の孫だっていうのは、私が話した時に知ったの?」

「そうだよ。確か、俺が十七歳の時だね」

スバルはその時に初めて祖父について知った。

 それからというもの、スバルは祖母であるルーシーに光生のことについて聞きたかったのだがなかなか聞けずじまいだったのだ。

 そして、映画にしたいという吉池監督の話がダイレクトメッセージで送られ、ようやく聞くことができたのである。

「光生は、青年になって挫折を繰り返し、目標が叶い、国のための人材となったところでお祖母ちゃんと出会う……そうだよね」

スバルの声は、切ない思いが募っているように聞こえる。

「光生は、人一倍優しくて素敵な人だったから。セイを身籠った時も、セイがお腹にいた時も……きっと幸せな気持ちだったでしょうね」

ルーシーは優しい笑顔でそう言った。光生といた時の思い出を思い出しながら話をすることは初めてだったから新鮮で嬉しかったのだ。

「でも……どうして光生のことを教えてくれなかったの?」

スバルは気になったことを聞いてみた。

「それはね、あなたの未来を邪魔したくなかったからよ」

「え? どういうこと?」

スバルが小さく首を傾げるのを見る。

「小説の続きを読んでくるから、大人しくお仕事しているのよ」

そう言って、ルーシーは席を立ち上がる。

 ルーシーは一日を使って、小説を読むことにした。

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