第11話 昔話
医学部の予科には色んな人がいた。丸眼鏡をかけた奴、小太りの奴、背の高いやつ、色んな人がいるがみんな同じ目標に向かって勉強をしている。
都出見にいた頃から、同じ目標に向かって努力をしている同年代の人がいなかったため、新鮮な気持ちになっていた。
「光介は、どんな医学の道に進むのか決めているのかい?」
元基さんが俺に問いかけてきた。予科に通わせてもらっている中で、親類宅の家に住まわせてもらっていることへの恩を返すためでもあり、医術の勉強もしっかりしていた。元基さんはそのことを知っていたのだろう。
「俺は、まだはっきりとはしていません。色んな人を見て考えていこうと思います」
「そうか、そうか」
「それに、この医学を学んでいたら俺に足りなかったものが分かってくるような気がするのです」
「足りないもの?」
「はい、きっとこの先、俺の生きる意味に繋がっていく気がするのです」
「そっか、頑張れよ」
予科に通った二年間で、俺は色んな人の病気を見た。そして色んな国の人々を見た。外国の医療は医術も違う。治療するのにも違う薬を使っている。医術の面では学ぶべきことが多かった。
ルーシーはここまでを読んで、素直でまっすぐな心を持った少年が書かれているようにしか思えなかった。
確かに光生はまっすぐな人だった。だけど、少年時代の彼は挫折を知らない無垢な男の子であったことは初めて知った。
ルーシーは席を立ち上がりそう思った。
「夕ご飯、食べよう」
ルーシーはキッチンに向かい、一人分の夕ご飯を作り始めた。
今日はシンプルで手軽なももにしようと考えながらお皿をとり、準備をしてテーブルに運ぶ。
主に塩で味付けした鮭を燻製にしたスモークサーモンをクリームチーズやアボカドとあわせたサラダ、枝豆とサラミパンを順番に食べていく。
そして最後に、もものローストを作って、口の中に入れた。塩と胡椒で味付けしてあり、しっかりと火が通っている。だが、外はカリっとしていて中はジューシーでたまらないのだ。
「光生と食事をしたのももう随分と昔の話になってしまうのね……」
そんな独り言を呟いた。
あの小説の続きは明日の朝早く起きて読もう。そう思い、ルーシーは寝室に向かった。
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