第9話 難しい問い

「お祖母ちゃん、どうだった?」

祖母は、そっと笑う。

「さっきまで明るかったのにねえ」

と言って、大きな窓から外を見る。

「木ノ下光生の家は、御典医の家柄だったらしい。維新後も医者として活躍している父と、手伝いをしていた母親を見て育っていたって本人が語っていた」

 俺は、話を逸らさせまいと光生の話に話題を戻した。

「あら、コウがそう言っていたの?」

祖母も父親も、光生を語る時には決まってニックネームなのか"コウ"と言って話しだす。

「光生が、戦死を遂げる前、監督のお祖父さんに自分の過去を振り返って語ったのを記したノートが残っている」

 俺は、肩掛けバックから三冊ほどのノートを取り出した。

「全て、真実だよ」

色褪せている部分が数箇所あるノートを並べ、祖母の方を見ると、なんとも言えないと困った顔をしてそっと笑っている。

「今日、お祖母ちゃんの家泊まってもいい? まだ小説の序盤まだしか読めていないんだ」

しばらく祖母は俯き、少しして顔をゆっくりあげながら言った。

「スバル、あなたが背負うことはないの。私は、あなたのお父さんを産むことができて、可愛い孫の顔が見れた。例え、セイの父親である人が私を置いて故郷に帰ってしまったとしても、セイとスバルの成長していく姿が見れた。それだけで良かったのよ。相手が誰であろうとね」

諭すように言われたが、俺は納得することはできていない。

「お祖母ちゃんはよくても俺はダメだ。納得できない。辛い思いをさせてごめん。でも、お祖母ちゃん、偽りのない光生の本当の姿みたいんでしょ? 俺だって見たい。世間の人たちにフィクション映画で、ただただ感動的な映画ってだけじゃなて、監督はお祖母ちゃんとお父さんに見てもらいたいと思うんだ」

祖母は、すっかり呆れてしまったのかそういう笑みを浮かべて

「じゃあ、私自身で小説の続きを読むわ」

やれやれと肩を掠め、ふっと微笑んでいる。

「え、でも小さい文字は見えないって……」

「ゆっくりね、読むから。そのデータをパソコンに繋げてくださる? その代わり、スバルは家に帰ってね」

本当にちゃんと読んでくれるのだろうかと心配になるが、今日は祖母の話しを受け入れた。


 帰り際、玄関まで見送りに来てくれた祖母は俺を呼び止めた。

「スバルは、お祖父ちゃんのことが好きなの?」

やんわりとした口調には、どうして? と問うような言い方をしているように聞こえる。

「知りたいんだよ。単なる興味本位じゃない。お祖父ちゃんの本当の生き様を守ろうと思ってる」

祖母の方をまっすぐ見ていたが、数秒して長いため息を小さく吐いていた。

「監督さんに申し訳ないから、なるべく早く読むわね。私、本を読むのは嫌いじゃないから」

そう言って、俺にひらひらと右手を振って見送ってくれた。

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