第8話 興味のある文化
ある日の昼下がり。光介は、ツイ国から来たという留学生に訊いてみた。
「ツイ国はどんなところ?」
留学生の彼は優しい口調で答えてくれる。
「ここらよりは薄暗いな、日が昇るのが遅いんだ」
そう言って少し笑っている。
「でもな、夜になると星が見えるぞ」
彼の言葉通りならチニ国よりも星の数がたくさん見えるはずだと光介は目を輝かせた。
「行ってみたいなあ」
思わず口から出た言葉に、皆が微笑んでくれていた。
「そうだな、君が来たら歓迎する」
そう言ってくれた。
鈴郎が教える学問は、頭にスーッと入ってく。知識をどんどん増やせる喜びを感じた。
鈴郎は医学だけではなく色んなことを教えてくれた。
その中には西洋の文化、風習なども含まれていて興味を示した。
「西洋の洋服というものは……素晴らしい。これを着てみたいです」
光介は鈴郎の服を指差す。西洋風の黒い服がとても似合っていた。
「着たいのか……じゃあ、まずは西洋語をもっと喋れるようにしないといけないな」
「分かりました」
光介は、口を尖らせて少し残念そうな顔をしている。
「きっと、すぐに喋れるな。光介なら大丈夫だ」
大きな手を光介の頭に置いて、クシャっと撫でた。
「西洋の文化で好きなのは」
少し考えて
「舞踏会かな」
と、呟くように言う。
「舞踏……会……ですか? ……踊りをみんなで踊ったりするのでしょうか」
一つ一つの言葉を拙く、でも大切に噛み締めるように、不思議そうに唱えるように言った。
「ああ、そうだ。チニ国ではまだ舞踏会は開かれてないか」
「京では、あるのかもしれません」
多分、と光介は付け加えた。
「そうだな……相談してみてもいいのじゃないか? 父ちゃんにさ、留学したいって。そしたら、まずは京の医学校に連れて行くだろうよ。京の文化の方が医学の場合、ここらより最先端のを進んで学ぶことができるはずだ」
その日から、光介は医術を学びつつ、西洋の言葉や文化を勉強するようになった。そして留学を志願したいと思うようになった。
両親は反対しなかったが、津出見の人たちにどう思われるだろうか、チニ国のためになるのかどうかを悩んでいた。
すると、明道が言う
「京に住むか? 親類がいるのだよ」
数日間、光介はよくよく考えて、両親にそうさせてほしいと頼んだ。
光介が京に行くと決めた時、両親もついて行きたかったらしいが、津出見を離れることは仕事の関係で無理であった。結局、光介だけ家族に見送られて船で京に向かった。数え歳十二歳の少年である。
津出見での出来事を忘れないように日記を書き、思い出に浸りながら船は進んだ。
津出見と京は遠く離れているのに、光介はあっという間に着いてしまったと感じていた。それほど楽しい時間を過ごしたということだ。
船の旅を終え、陸に上がると津出見とは違う空気を感じた。だが、気候はさほど変わりはないらしい。暑い時は暑かったが、過ごしやすい環境であった。
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