第7話 学と留学生との異国話

 光介は、医術を学びたいという意志を両親に伝える。

「俺は……チニ国をもっと豊かにしたい。そのためにも、医学を勉強して、この国を発展させてみせる」

その願いを聞き入れてくれたのか、両親もそう思っていたのか、賛成してくれた。


 明道の知人である医者がしばらく面倒を見てくれると言われ、光介はとある男の家に行った。

 男は、光介を客間に案内すると、自分について語った。

太田鈴郎おおたすずろうっていう名前だ。鈴郎でいいから」

陽気で明るい印象を持つ壮年の男である。鈴郎は、京で下宿をしながら医学を学び、医学部を卒業した後、京の家庭医として働いていた。彼は光介に、これからチニ国の国民を治療しなくてはいけないことを告げた。

 また、留学生の人たちに文化を教えることもするそうだ。留学生は、医師が日本に来て医学を学んでいたことには驚きはしたが、それが彼なりの恩返しであり、チニ国の医療をより良くするためでもあったのである。

 鈴郎が、津出見に来たのはつい最近。

 なんだか京は疲れたと言って、こちらに引っ越してきたのである。


 津出見とは言っても、三木家があるのは津出見の端っこの方であったが、鈴郎が住んでいる建物があるのは栄えている中心部分だった。

「津出見には何度か来たことがあるけどもね、津出見に来る前。僕は、ずっとツイって国にいたんだ」

光介が質問をする度に彼は答えていく。

 京で医師をしていたが、ツイの医療や薬学が学べると聞き、来日して、教授の下で学んだのだという。

「僕の家は代々続く名家でさ。金持ちだったんだ。それで、ツイってとこに留学したんだよ。留学中、僕は色々なことを学んだ。異国語も喋れるようになったし、勉強もできた。医学以外にも経済学も学んだりしていた」

 ツイとは、チニ国よりも北にある西洋の国だ。

 まだ幼いというのに、光介は秀才のようだ。八歳になる頃には色んな医学の単語を覚えて、漢方の名前もすらすら言えるようになっていた。


 留学生の学生たちが、遊び相手になってくれることもあった。

「光介くんはお手玉が上手だな」

「字も綺麗に書けるしね」

留学生は次々と褒めてくれるが浮かれたりすることはなかった。


 また、留学生は時に光介に自分たちの母国の話をしてくれるので、それを聞くのが一つの楽しみでもあった。

「俺の母国はチューリップって花が綺麗に咲くのだよ」

「へえー、そんなにたくさん咲いてきたら、きっと美しいだろうな。あんまり見たことかないけど。でも、見たいな」

光介はそう言うと、他の学生たちは笑顔で

「光介も西洋に行けば分かるよ」

と教えてくれる。花の話を留学生は続けて話してくれる。

「チニ国では、桜が綺麗に咲くな」

「チニ国でしか見たことがないな」

留学生が話せば光介は誇らしげな表情を見せる。

 異国の話で盛り上がりながら勉学に励む毎日だった。外国語を覚えることが苦ではなく楽しかった。

 だが、外国のことを聞いているうちに羨ましく思うようになっていった。自分も外国に行きたいと思ったこともある。そのため、鈴郎の元で学んでいるのだが。

 外国の景色を想像して胸を膨らませた。

「星が綺麗……」

留学生の男の横で星を見上げると、光介を優しく抱っこしてくれた。

「いつか、星を掴みたい」

光介は、そう呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る