第3話 それぞれの百合への目覚め


「はっ、此処は!?」


私はどうやら熱射で倒れ、保健室に運ばれていたらしい。

でも、どうして熱射病なんかに?


電信柱の後ろに隠れていたのに……。

まあ、なんか背中はずっとジリジリとしてた気もするけど。


「目が覚めたか、良かった」


「生徒会長……」


「突然倒れたので驚いたよ」


「すいません、ご迷惑をお掛けしました」


「いや、大丈夫。また人工呼吸することにならなくて、良かったよ……いや、もう一度も有りブツブツブツブツ」


「えっ、何ですか先輩?」


「いや、なんでもない」

「まだ授業が有るから私は戻るが、早川はまだ身体を休める必要が有る。そこにペットボトルがあるから、こまめに水分もとること。いいね」


「あっ、はい」


「それじゃあ」


ガラガラ


先輩が去ってしまう、そんなの嫌。

そう思った私は、自分でも思って見ない行動に出ていた。


無意識に彼女の制服をギュッと掴んでいたのだ。


「早川?」


「すっ、すいません」


そう言っておきながらも、私は彼女の裾から手を放さなかった。 

忘れられない、忘れたくない。


あの夏市民プールで生まれたこの気持ち。

私は一度下げた顔を上げると、先輩を見詰めた……。


「どっ……どうした早川……」


言わなくちゃ、今言わなくちゃ。

今日を逃したら、先輩との接点がなくなっちゃうもん。


「成瀬先輩、あなたの事が好きです!? あの日、あのプールサイドで唇を合わせた……あの日……キスではなく、人工呼吸ではあったかもですが……」


「…………」


言ってしまった。

そして、言ってから後悔した。


気持ちが昂って冷静じゃない私は、こともあろうか保健室で先輩に告白をしてしまった。


(なにが今日逃したらよっ、私の馬鹿!?)


これで振られたら、私は明日学校にすら行けなくなるのでは無いか。



…………。



「あの日からか……」


「えっ?」


「早川いや由梨、私はね随分前から君の事が好きだったんだよ」


「…………」


「あの日人工呼吸をした甲斐があったな」

「それじゃ、明日」


ガラガラ


…………ピシャッ。

















「えっ、えぇええええええ!? これ、これって」


両想いで良いんだよね?
















ベットの中で浮かれていた私は、扉の向こう側でしゃがみ込む親友が居た事を知るよしも無かった。



〜百合に目覚める季節  完〜

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百合に目覚める季節 夢七夜 孤島(ムナヤ コトウ) @SashaBill

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