第2話 私には単なる抜き打ち検査じゃないの


夏休みが終わり二学期初日。


私は正門の数メートル手前で緊張していた。

久々の学校の登校だとか、そう言うのでは無かった。


私達の学校はそこまで部活動に力はいれていないが、夏休みの期間の半分くらいは部活の練習で登校していたからだ。


(どうしよう……成瀬先輩が門の前にいる……)


生徒会長なんだから当たり前と言えば当たり前だ。

普通に学校の活動として正門の前に居てもおかしくはない。


彼女は門をくぐる前に、女生徒のスカートの長さをチェックしていた。

一学期は真面目に学校の規則に従い、スカートの長さをひざ下くらいにしていた子等が、夏休み中に気持ちの変化が起き、ミニスカートへと変わるのだ。


何を思ってかはわからないけど、髪を茶髪に染め出す子もいる。

年上の彼氏でも出来たのだろうか? 耳にピアスを空けている子もいるようだ。


そんなことよりも、私にはこれから修羅場が待っていた。

別にスカートを短くしてるわけでも、髪を染めてるでもないので、怒られる心配はないのだが……


私には何故か、正門が羅生門に見えてくる。


(うっ、なんか知らないおばあちゃんが手を振っている)


そう、私が正門の手前の電信柱に隠れていると、後ろから見知った声が聴こえて来た。平手とともに……。


「おっはよぉ~~由梨っち」


バッチーーーーン


「おぶっ……て、痛いってねねっち」


「あはっ、ごめんごめん。てか、なんで柱の陰に隠れてんの?」


「いや、あれ」


「ああ、抜き打ち検査」


「う……ん」


本当は検査に怖くて隠れていたわけじゃないけど、親友にバレるのはあれなので、そう言う事ににした。


「もぉっ、うちら高一じゃないじゃん。何ビビってんの。由梨なら全然大丈夫だって。髪の毛よぉ~~し、膝丈よぉ~~し、香りよぉ~~し、可愛さよぉ~~し」


「ちょっ、匂いとか、可愛さとか検査関係なくない?」


(近い近い近い)


「おぶっ。そっ、そんな手で押っさっなっくってっもぉ……」

「ふぅ~〜。相変わらずシャイなんだから」


「いや、シャイとか関係無くない」


「とにかく由梨っちは可愛いんだから、検査なんて素通りだって」


見た目でオッケーとか検査の意味無いじゃん。

ていうか私可愛く無いし。


至って普通の女子高生だし。

ちょっこっとだけ胸は大きくなったけどもだけど。


ていうか学年一、二を争うねねっちがよく言うよ。


「ねねっちの方が私より数倍可愛いじゃん」


「へへ~~ん、ありがとチュッ」


「ちょっ、いきなり頬っぺにキスするな!?」


(ワワワワ、びっくりして心臓バクバクなんだけど)


「えっ、いいじゃ~~ん」


「良くない、恋人じゃないんだから」


「じゃっ、なっちゃう? 二学期デビュー」


「もうねね、馬鹿なこと言ってないで行くよ」


(そんな事になったら男子に殺されちゃうよ)


「おっ、とうとう行く気になったか」


「そんなんじゃない。流石に行かないと遅刻になっちゃう」


「あわわわ、マジじゃん」


二学期最初から遅刻は不味いので、意を決して先輩の居る門へと進む。


「おはよう」


「おっ、おはよう御座います。成瀬生徒会長」


私は恥ずかしくて彼女の目を見る事ができないので、視線を少し下へとずらしたのだが、それが失敗だった。


まだ、彼女と目を合わせていた方が良かったかもしれない。

私の瞳には彼女の唇が映っていた。


あの市民プールで溺れた日に重なり合った彼女の唇。

想像と違っていて、ピンク色でプリンのようにプルプルとしている。


(あれは人工呼吸、人工呼吸)

(キッ、キスなんかじゃないんだから)


唇と唇が合わさったってことは、先輩の唾液と私のが混ざり合って一つに……。


はわわわわ


かぁーーっと頬と胸が熱くなっていくのを感じる。

お臍の辺りへ流れ落ちる汗が気持ち悪い。


「よしっ、問題ない。行って良いぞ、」

「早川、早川? どうしたっ早川っ?」


私はもう少しで今度は羅生門のおばあちゃんに連れて行かれる所だった。

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