【120】モフまおう様の片鱗。





 では何処ぞへ向かうか知らんが案内しとくれ、

 と当たり前にリリィの手を握った余だったが。


『心苦しいのですが、儀式にはナナ様以外の同伴はご遠慮くださいまし』


 母モフに、リリィを伴うのは「ダメー」と言われてしまう。


「ぬぅ……」


『寂しいかも知れませんが3日から4日程ずぅっと、

 ウサモフ・フェスティバルはフィーバーし続けますので、

 その間ナナ様はモフ聖地に留まり続ける事になりますー』


 4日も、リリィと離れ離れとな……おーのー。


「そっか……しかた、ないよね。

 じゃあ、私はしばらくここでミナ達と一緒にいるね」


 リリィも、少ししょぼんとしておる。


「んむ……分かった。

 では余は行くが……リリィ?」


「うん?」


「くれぐれも、早まった事はしないようにの」


「……うん。大丈夫」


 少し困った顔で、リリィは頷く。


『では、ナナ様はお外へ。すでに同胞たちが待機していますので。

 モフモフワープでお連れいたします』


「もふもふわーぷねぇ……」


 ウサモフは複数匹集まり力を合わせることで、

 高度な法力を行使できるとのことらしい。

 知るほど不思議、ウサモフの生態。


 後ろ髪引かれまくりつつ、母モフに連れられて屋敷の外へ。


 たしかにそこには、どこから現れたのか十匹ばかしのウサモフ達が

 余たちを待っておった。

 皆キラキラした目を余に向けておる……


『ではナナ様、わたし達の囲いの真ん中へー』


「はぁい」


 ぐるりとウサモフが円形に囲む中央に立つ。

 するとその円陣から優しい光が立ち上がり、余たちを包んだ。


『いざ、モフ聖地へ……の前に、一度ウサモフシティへ寄ります』


「ほむ。了解したぞな」


『では……』


「「「キュー」」」


 ウサモフたちの鳴き声と共に、眼の前が真っ白になる。


 眩しさに思わず閉じた目を次に開いた時、

 余は見知った洞窟の中におった。





『……来たわね、ナナ』


 そこにはすでに、プニャーペとクロウが待っていた。


「お早いお帰りだね……なんか、緊急事態とかってハニーに聞いたけど?」


 転移でやってきた我らを迎えて、目をぱちぱちさせながら

 クロウは意味合いの分からぬ笑みを浮かべた。


 プニャが母モフを見て、それから我らを見渡す。


「余が以前知り合ったウサモフ母娘、その母じゃ」


『知ってるわ。久しぶりね、モニョメニョ』


 プニャの言葉に、母モフがモフリと会釈する。

 もにょ……?

 言いづらい名前しとんのぅ。


 というか知り合いか。

 まぁウサモフネットワークとやらもあるしの。


『プニャ、そして守護者さま。改めてえらいこっちゃなのよ』


「えっと……もふまおう、だっけね?」


『はい。プニャにはさっき伝えた通り、ナナ様はモフまおう様で間違いないわ』


『らしいわね。……確かなの?』


 プニャのまんまるな目が細くなる。

 クロウは……いまいちピンと来てない顔をしとるな?


「モフ魔王って、いつぞやナナとハニーが話してたっけ?」


『そうね……あの時は、毛色の違うウサモフを見た若いコが、

 早とちりして勝手にはしゃいでるだけだと思ってたけど。

 未覚醒のモフ魔王様が発せられる波動を感じられるかどうかは、

 それぞれのウサモフのセンスに大きく左右されると聞くわ』


「ねぇハニー。ウサモフ達と数百年仲良しな僕でも耳慣れないんだけど、

 そのモフ魔王っていうのはなんだろう?」


『あの時言った通りよ。戦闘力1億だのなんだのはまぁ置いといて、

 それはもう凄ーいお方よ。言ったら、魔族や魔物の神様と言える方ね』


「それはすごい……え、ナナがその神様的ウサモフなの?」


 クロウも知らんのか、いよいよもって謎。


「余もワケ分からんけど……なんか生まれ変わり?らしいぞ」


『ナナ様、ちょっとウサパワーを解放など出来ませんか?』


 母モフに請われるが……知らんて。

 うさぱわー知らんて。

 どんどん出てくるじゃん、ウサモフ的新語。


『己はウサモフである、と受け入れなさるのです。

 己の中のモフエナジーを感じ、ウサコスモと一体化するのです』


「ごめんね、ぜんぜんわかんない。ほんとごめん」


 まじで何一つ分からん。


『あせることはございませぬー』


 声に振り向くと一匹のウサモフの姿。

 プニャ達よりずっと小さいが、子モフでなく成体の雄のようじゃな。


「その子、君を最初にここへ連れてきたウサモフだよ」


 クロウが教えてくれる。

 うーん、残念ながら見た目では区別が全然つかぬ。


『モフ魔王さまおかえりなさいませー。

 というか、いまさら何言うてはるんですか皆様ー?

 まさか僕の言ったこと信じてなかったなんて、ショックですー』


 ふわふわ身を震わせ、不満を表しておる。


『ごめんね、私には全く何も感知出来なかったから……』


『愚かなりプニャーペちゃん。まぁいいですー。

 ではモフ魔王さま、僕を持って、ムギュっとしてくださいー』


「む、抱き上げればよいのか?」


 言われるまま、余はそのウサモフを抱き上げる。

 そして、軽く胸に抱きしめた。


『もっとです、つぶれるほど情熱的にー』


「え、だいじょぶか……口から中身出すでないぞ」


 躊躇いながらも、余は徐々に腕に力を込めていく。


「キュ……キュキュぅ……」


 ほんとに大丈夫か、やわっこいからどんどん潰れてゆくぞ……?!


『キュー……感じます……まるでお空のように大きなウサパワーを……』


 そのお空に昇天するんでないかと心配なくらい苦しげにしながら、

 ウサモフがなんぞ言うとる。


 ……む?


 なんか……胸の奥に……なんじゃこれは。


「な、何か感じるぞ……得も知れぬ何かが高まってゆくのを」


『それが……あなた様に秘められたモフ魔王さまのパワーです……

 僕がいま、あなた様のウサコスモとリンクして引っ張っています……

 それを……コネコネ捏ねるようなイメージで練り上げて下さい……』


 苦しそうに伝えてくる。

 こねこねったってのぅ……えぇと……


 目を閉じ、己の中に感じるものへと意識を集中する。

 余はウサモフ……うさ……うさ……


『こっ、これは……!!』


 プニャーペの驚愕する声が聴こえる。

 余は正直それどころではない。


 なんじゃこの……みるみる溢れ出る……いや吹き上がってくる、

 この途方も無い謎のエネルギーは。


 魔力……いや霊力?

 これは、両方か?


 なぜ魔族の余から霊力なんか……これがモフ魔王とやらの……


「う、うぉ……ぉぉ――!?」


 そのあまりの膨大な力に尻込みして、抱きしめたウサモフと共に

 思わず集中を手放してしまった。


 途端に、その力の奔流はふっと収まった。


『たしかに、間違いない……モフ魔王様だわ』


『だから、そう言った……の、に……ムギュ』


 言って、しおしおになった雄ウサモフが力なく転がる。


「お、おい大丈夫か!?」


『すぅぅぅ、すぅぅぅ――――はい、大丈夫ですー』


 大きく何度か息を吸い込むと、ふっくらと再び膨らんだ。


 ……なんなん、この生命体。


『今のは、貴女様の中に眠るもののほんの一部ですわ。

 これから行う儀式をもって、それを完全に目覚めさせるのです』


 母モフがキューキューと興奮気味に述べる。

 クロウも、珍しい驚愕の表情を浮かべておる。


『そう、こんなものではありませぬー。今のはあなた様にちょっぴり残った

 モフパワーに過ぎないのです。これから行う儀式で、もっとウサウサ

 する事が出来れば、もうまじ無敵ーって感じなのです』


 ウサウサすれば?


「はぁ……なんか知らんけど、よろしく頼む」


『お任せあれー。では儀式は“モフ仙人”たる僕が主導で行いますゆえー。

 モフ聖地へ、れっつごーです』


 モフ仙人って言った?


 ……いや、いったん考えるのはやめよう。うん。


「うむ。……ちなみにクロウ」


「うん?」


 再び余を中心にウサモフ達が円陣を組む中、

 余はクロウにひとつ訊ねる。


「今のは確かに、想像以上の力であったと思う。

 恐らく覚醒した余やリリィよりずっと……。

 どうじゃろう、お主から見て、今しがたの力と“蛇”とやらの力。

 比べることは出来るかの?」


 クロウは“蛇”の途方もなく強大であるという力を知っておるはず。

 こやつの内にある諦観の念のようなものは、きっとそこから来ておる。

 かつて接触した折に、それを感じたのだろうか。


 クロウは、ゆっくり首を振って答えた。


「……少なくとも、先ほどの程度じゃ難しいかな」


「そうか」


 さっきのあれでも、魔族の王としての余の全力を遥かに凌ぐものじゃったが。


 相手の戦力、想像もつかんのぅ……


『心配いりませんよー、こんなもんとちゃいまんねんー。

 何者だろーとモフまおう様の前では、なんぼのもんじゃいです!!』


 軽く戦慄する余をよそに、ウサモフは自信まんまん。

 そうじゃな、何はともあれまずは、やれる事をやろうかの。


『では行きますよー』


 もふもふと囲まれる余を、プニャと母モフも見つめる。


 クロウは何と言うか……複雑な笑みを浮かべておる。

 恐らく、心配の類なんじゃろな。


 余は彼らに、片手を上げて応える。

 そして、また眼の前が優しく白んでいった。




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