【117】もふもふした急展開。





「……モフママよ。今我らは割と真面目なお話をしとるんじゃよね」


『もちろん存じておりますー。そして皆様の大方の事情も、

 ウサモフネットワークを通じてしっかりと把握させて頂いておりますー』


 ぽよぽよん。

 丸い身体で頷いておるのか、母モフはいたって真剣な面持ちじゃ。


「モフ魔王ってーと、あれじゃよな? 以前プニャーペから聞いたわ。

 千年に一度現れるとかいうスーパーなウサモフじゃったっけ?」


『そうです!! 遥か太古にお生まれになった初代モフ魔王様……

 その生まれ変わりは千年に一度の周期で来臨なさるのです』


「へ、へぇ……??」


 太古? 初代?


 どんどん置いてゆかれる余に構わず、母モフは続けよる。


『全ての魔族はウサモフに通ずる……合点が行きました。

 やはり紛れもなく、ナナ様はモフ魔王様なのです』


 もふ……もふ……と、どこか厳かに見えなくもない感じで、

 ふわふわした身体を揺する母モフ。


『“蛇”とやらがどんなに強大な魔素所以の者であろうと……

 原初の魔物の王たるモフ魔王様が、劣る道理などありません』


「え、もしかして洒落とか酔狂のシーンじゃない?

 シリアス気味に言うとるんか、お主?」


 余は困惑しきりながら、母モフに尋ねる。


 何、なんなん?

 もふまおうって、結局なんだっちゅーのじゃ?


 げ、原初の魔物ってなあに……?


『そもそも魔物というものの起源が、ウサモフであるのはご存知ですか?』


 へっ……?

 いきなり話のスケール飛ぶじゃん。


「……それは、小生も知らないにゃぁ……」


 賢者が、ぽかんと口を空けて言う。


 う、ウサモフって一体……


『遥か昔、一匹の動物……野ウサギが発現した“固有能力”。

 それが魔物、いえ“魔素”そのものを最初にこの世に生み出したのが起源です』


「んなアホな」


 ど、動物が“固有能力”をなんて、聞いた事もない。

 シエラを見るが、彼女もふるふる首を振った。


『それが、まじなのです。

 その野ウサギは自らの中で新たな素子……魔素を作り出し、それによって

 自らが最初の“魔物”となったのです。そしてそれこそがウサモフ……』


「うさもふすげぇ……」


 いや、このぶっ飛んだ話を信じるのかっちゅー話ではあるけども。

 なぜじゃろ、なぜだか異様な説得力があるんじゃよな……


「え、えと、その話からするに……そのモフ魔王というのは……」


『そう、最初の魔物、はじまりのウサモフです』


「えっ……とぉ、いいかな?」


 シエラが手を上げて母モフを窺う。


『なんですか、人間さん』


「そのモフまおー様というのがまことだとして、ナナぴゃんがその生まれ変わり?

 そうだと思った根拠は何かあるのかな?」


『ウサモフによってそれぞれ感じ方は異なるのですが、例えば私で言えば……

 とーっても、頬ずりしたくなっちゃいます。それはもうとっても。

 このバイブスは、いと尊きお方にしか抱かないものですわ。

 最初は魔王様だから感じているのかと思っていたのですが……』


「そ……そうなんだ。ありがとう」


 あの賢者でさえ若干引いとる。というか“ばいぶす”って何。


 しかし、約一名さすがというか、相変わらず冷静なのがおった。


「貴女はそのモフ魔王の力を引き出したり顕現する手段を知っているのですか?」


 スラルが真剣な顔で、母モフに問うておる。

 こやつ……こんな素っ頓狂な話をマジになって聞いておったのか。

 い、意外じゃ。


『時間の問題かと思いますけど……早めたいのであれば、そうですね。

 我らウサモフを一所に結集させ、かの儀式を執り行えばまぁ一発ですよ』


「かの儀式、ですか?」


「はい。ウサモフ・フェスティバルです」


 …………


 ……あかん。


 いよいよどんな顔しておったらいいか、分からん。


「ウサモフ……ふぇすてぃばるぅ??」


『モフ魔王さまの周囲で、無数のウサモフたちが“ウサウサの舞”を踊るのです。

 ぴょんぴょんと、それはもう厳かな儀式となります』


「へ、へぇ……すごいね?」


 としか言えん。


『三日三晩、モフ魔王さまに舞を捧げつづけ、我らの羽毛に纏われた

 霊素と魔素を献上いたします』


「羽毛の……?」


『はい。モフ魔王さまが千年の眠りに就かれる際、内包された魔素霊素は一度

 世界中に散ってしまうのです。我らウサモフが世界中に分布しているのは、

 それらをせっせと回収しお預かりしておくためなのです』


「はぁ」


『本来モフ魔王さまが覚醒された時、それをお返しするのですが……

 それを前倒ししてお渡しすれば、覚醒は一気に早まるでしょう』


「……で、えと……つまり、余はどうしたらええのん?」


『ウサモフネットワークで"モフ聖地”に全ウサモフを集結させます。

 我らと共に聖地においで頂き、奉納の儀をお受け下さい。

 ミレニアムの扉が開かれるのです……こうしちゃいられません』


 言って、出口へ余を促す母モフ。


 待って、あの、全然展開に追いつけてない。

 ここまでの割と込み入ったシリアスっぽい空気はどこいった?


 モフ聖地ってなんじゃ。


 モフモフもふもふと、なんだっちゅーのじゃ……


「な、ナナ……なんだか何とかなりそうで良かった……ね??」


 なんも分からんけどとりあえず光明が見えたのかな?みたいな顔で、

 ぎこちなく微笑むリリィ。その頭の上には無数の"?”が浮かんでおる。


「そ、そだの……リリィ……」


 ワケわからんけど、リリィが嬉しそうなら良い……か?


「……魔封剣を用いたプランは、いらない……っぽいのかな」


 苦笑したシエラが何か言うとる。

 魔封剣? なんの事か知らんが、それ以上に眼前の事態の方が

 よっぽどエキセントリックで意味不明じゃ。


「君の父君をリリィたんが弱らせたら、坊……ユリウスの聖剣の一振りである

 魔封剣をもって魔王を封印しようかと思ってたんだよね……。

 そうして権能を一時封じて、“蛇”にナナぴゃんをあてようかなぁとか」


 言って、しかしシエラは首を横に振った。


「でもまぁ、面白そうな話じゃない。モフ魔王だってさ?

 どんなモッフィーなものが出てくるのか知らないけど、興味ある。

 それがナナぴゃんの底知れぬ力の正体なら、どのみち無視できないし」


 …………


 ……はぁ。


 そりゃ、正直ワラにも縋りたいところではあったが……


 父の事、記憶の事に子供の事……向かう先は何かしら犠牲が不可避と

 思っておった所に、思わぬ光明……なのか、これ?


 ていうか、モフ魔王とやらになったら余、どうなっちゃうの?


 ウサモフになっちゃう?


 えぇー……?



 誰もが予想もせんかった展開に、各々いまだ困惑したままじゃが。

 とりあえず、余はモフ魔王への覚醒を目指すこととなった……

 らしい。


「ス、スラル……?」


 余は縋るように執事を窺った。


「参りましょう、ナナ様」


 相変わらず、いたって真剣な顔しとった。


 えぇぇー……?




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